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2017-11-22

「 緑のおじさん 」


 

11月だというのに、30cmほど積もっていた。

いつもの11月だと積もってもその日に溶けてしまうことが多いけれど、2日続けての雪だったので、外界はすっかり冬景色。こんな晩秋のドカ雪の日に、横断歩道の旗振り当番だった。

和徳大通りの交差点は、比較的交通量の多い交差点だ。学校は交差点のすぐ目の前。それだけに、登校する子供たちのほとんどが、この交差点を渡る。

じつは昨年までは、「緑のおばさん」がいた。かなりの長い年月、毎朝、そして低学年の下校時間、必ず「緑のおばさん」が交差点に立っていた。

私の自宅はその交差点の近くにあるので、毎日のように交差点に通う「緑のおばさん」を目にしたし、たまに挨拶もした。

ごみ捨ての日などは、娘と一緒にゴミを持っていったあと、「緑のおばさん」に挨拶をするのだが、児童ひとりひとりの名前もわかっていて、その日の顔の表情などを窺いながら声をかけていた。

先生の話によると、先生よりも「緑のおばさん」のほうが、子供たちのその日の調子をわかっていたとか。

その「緑のおばさん」が今年の春からは、和徳交差点に立たなくなった。事情は詳しく分からない。そんなに高齢とは思わなかったけど、娘たちには「101歳」とか話していたらしい。

この春からは、先生と保護者たちが、かわるがわる交差点に立つことになった。私は5月だったか6月に一度、「旗ふり」をした。

保護者と言っても、髭面のオッサンが交差点に立つのは子供たちもちょっと異様に映るかもしれない。不審者に見られないよう、なるべく笑顔で。

その頃はまだ、娘のクラスの子を数人知っているだけであった。ただ、全く知らない子が、「〇〇ちゃんのお父さんですよね?〇〇ちゃんと同じ合唱部です」と話しかけてくれた女の子がいた。

その言葉だけでも、なんか朝から清々しい気分をいただいたような気持ちになったのを憶えている。

そして半年後の今日。外は大雪。

私は係りが身につける反射板のついた黄色いベストを着て、旗と雪かき用のスコップを持って交差点に向かった。近所のニシムラ模型さんが、歩道を除雪機できれいにしてくれていた。いつも本当にありがたい。

子供たちはまだ来ない様子だったので、横断歩道を渡った向こう側から学校に向かう路を雪かきした。30cm近く積もっている上に、重い雪だ。腰にくる。

雪かきをしていると、ちらほら登校してくる子が見え始めた。定位置に戻り「おはようございます」と挨拶をする。

「おはようございます!」と元気に返してくれる子もいるが、黄色いカバーをランドセルにかけた1年生は、私の風貌を見てビビったのか「お、おはよう…」という感じ。ごめんよ。そんなに恐いオジさんじゃないから。

間も無くすると娘が来た。いつもより20分ほども早い。妙に照れた顔をしながら、笑顔で登校していった。

向こうから見覚えのある3人組が来た。合唱部の5年生だ。一人は私の顔を見るなりゲラゲラ笑っている。そういえば、先日も自宅の前を雪かきしていたら、彼女はゲラゲラ笑っていた。

髭面のオッサンが旗ふりをしているのがそんなに可笑しいのか。可笑しいのかもしれない(笑)

旗を前に差し出して横断を促したとき、「いってらっしゃい!」とカン高い裏声で言ったら、またゲラゲラ笑い「ウケる」とか言って走っていった。これが「箸が転んでもおかしい年頃」というやつなのか。

なんか小馬鹿にされたような、でも朝から楽しい気分にさせてもらったような、妙な気持ち。

それでも交差点の向こうから手を振る彼女たちの姿を見ると、半年前まではなかったことだな…と気づく。部活の指導に携わってよかったなあ。

  

  

この雪の日、横断歩道で「緑のおじさん」をして思ったこと。

横断歩道のある交差点は、子供たちが「渡る」だけではなく、「青」になるのを「待つ」場所でもあるのだ。

朝の通勤時間帯である。大人も急いでいるだろう。でも「青」になるのを待っている子供たちがいる、ということを少しだけ頭に入れてくれれば、と思う。

特にこんな湿った大雪の日などは、スピードを出した車が、信号待ちをしている子供たちに、溶けかかった雪を容赦なく飛ばしてくるのだ。

だから、信号が変わり始めていたとしても、ぜひアクセルを強く踏まずに徐行して、子供たちに気持ちを向けてほしい。

ズボンがビショビショになりながら、髭面の「緑のおじさん」が、そう思った11月大雪の朝であった。

 

 


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コメント3件

  • Masaru より:

    たぶん15年経っても
    「キナリのお父さん」
    「合唱部のコーチ」
    「あの髭のオヂサン」
    学校の児童活動に関わると、彼らの記憶に刻まれる事間違いなし!(笑)
    子供(と言われる年齢)と関わられるのは長い人生でごく僅か。
    ウザいと言われても、頑張ってくださいませ。
    ※経験談

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