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2018-11-09

「バイヤー」の仕事はムツカシくてオモシロい / 『 ハリウッドランチマーケット 』『 FREE CITY 』


まだ薄暗い5時半に自宅を出る。弘前の駅まで、歩いて10分と少し。車じゃないから、帰りの新幹線は飲むことができる。

通勤列車というにはまだ早いらしく、青森行きの車内は空いていた。発車するとすぐにウトウトとなったが、新青森を寝過ごすと大変なので、寝ぼけ頭のままいろいろと考え事などをしながら時間を潰した。

6時台の新幹線は、待ち合わせの時間がなくすぐ乗ることができる。新幹線の席に座るとすぐに、私は眠りについた。途中、何度か目を覚ましたが、最終的に目を覚ますとすでに上野だった。

 

山手線に乗り継ぎ恵比寿まで。そこからまっすぐに「ハリウッドランチマーケット」の展示会に向かった。今の時期の展示会は、来年にむけた盛夏展である。来年の4月から5月にデリバリーされる商品の展示会。ゆえに半袖のTシャツだったり、ショーツだったりというのがメインのアイテムになる。これから冬が来るというのに、真夏に売るものを発注するわけだ。

来年どんなものが流行るかなどは分からないのだが、この夏売れたものや、今現在のトレンドの流れなどを意識しながらバイイングする。とくにデータなどは取っていなくて、感覚的に選ぶことがほとんどだ。ワンブランドの店舗であれば緻密なデータも必要だろうが、いろんなブランドのセレクトとなると基本感覚でバイイングする。長年それでやってきたので、それでなんとかなることも多いが、まあ失敗もすることもしょっちゅうある。

昔に比べると、誰も着ないような服を欲しがる人はずいぶん減った。その分、メーカーも確実に売れるものを作るようになった。僕らも、なるべく売れそうなものを選ぶようになった。だから昔に比べると少しつまらない。だからちょびっとだけ店のエッセンスとしてのオモシロい商品も少しだけ買いつける。その方が、バイイングする方も楽しいし、店もオモシロい。お客さんも喜んでくれる。でも、そういう商品は売れ残ったりする。でもいいのだ。

今回もしっかりと売れそうな商品を80%選び、オモシロいけどなんとか売れそうな商品を15%選び、売るのが難しいけど楽しい商品を5%選んだ。

 

「ハリラン」の次は、ランチのショップでも展開しているLAのブランド「FREE CITY」の展示会。旧山手通り沿いの「FREE CITY」のショップに併設されているショールームで商品を見る。大人のスーパーカジュアルといった感のある「FREE CITY」は、リラックスムードのあるアイテムが多いが、たまにガッツリとエッジの効いたアイテムもあったりと、自分でも毎回楽しみにしているブランドの一つ。

LAスタイルと言えば、カジュアルでリラックスしているのに、どこかセレブな雰囲気…みたいなのが、ここ十数年で定着した感がある。でも個人的にあのLAのセレブ感は苦手だ。どちらかといえば、60〜70年代のアートでピースフルだった頃の西海岸のイメージの方が好きである。「FREE CITY」は、リラックスした雰囲気はあるけれど、かつての音楽やカルチャーが、デザイナーの感性に息づいている感じがする。グラフィックもCG的ではなくて、ハンドのイメージが強い。それでいて今流行りのナチュラルテイストじゃないところがいい。

世の中は、環境に優しく、身体に優しく、決して高価ではなく。そういうモノが支持され売れているし、商売をする身としてもそれは十分に分かっている。でもファッションはそれだけではつまらない。オモシロくない。だから、15%オモシロいモノと、5%の難しいものを選ぶ。

 

ランチ系列店「ハイ!スタンダード」の壁


 

「FREE CITY」のすぐ向かいに「TSUTAYA」がある。「ブロンディ・マッコイ」という、ロンドンを拠点とするイギリス人アーティストの作品集が刊行された、というのを何かのサイトで最近見た。その刊行記念として、発売されたプリントTは即完売だったそうだが、それが限定で再発されたらしい。そのTシャツにも興味があったので、「TSUTAYA」に寄ってみることにした。

「TSUTAYA」に入り、写真集のあるコーナーに行くと、その作品集とTシャツはすぐに見つけることができた。というよりも、一番わかりやすいところに陳列されていた。サンプルの作品集をめくってみる。日頃、地元にいて多くの風景写真やポートレートに見慣れている自分の眼には刺激的な内容だった。写真というよりは、コラージュだったり、フォントの組み合わせによるものだったりと、いわゆる現代アート?に寄った作品と思えた。

風景写真などよりは、あきらかにこういった写真の方に興味がある自分ではあるが、興味がある分だけ、気持ちに「ズコン!」とこないと作品集も買おうとは思わない。カッコいい作品集だとは思ったが「ズコン!」とこなかった。プリントTを見てみた。肩車されている赤ん坊がタバコをくわえていた。おそらく、タバコを吸うことに対するなにかのアンチテーゼを語っている写真なのだろう。どこかパンクな感じもあり、一瞬「おっ」と思ったが、買うのをやめた。

どういうアーティストなのか、その人がなにを発しようとしているのか、それをわからずしてメッセージTを着ることに躊躇いがあった。もちろん、誰がなにを着ようと自由だし、政治的なスローガンを掲げたTシャツを着るのも自由だ。

 

大学時代、ロンドンのデザイナー「キャサリンハムネット」がデザインしたチャリティメーセージTがあった。当時人気だった「チェッカーズ」がそれを着たこともあり爆発的に流行った。私が着たのは「ミサイルより教育に」というメッセージを英語でデカデカ掲げたTシャツだった。

今思えば、ただのミーハー魂で着ていたのにすぎないのだが、芸能人が着ることにより、それが最終的に恵まれない人の役に立つというのはチャリティのひとつの方法だろう。でも年を重ねるごとに、フォトTシャツやメッセージTシャツはビジュアル的にカッコイイからといって、買おう着ようという気持ちにはならなくなった。

メッセージに対する責任とか、そういう大げさなものではなくて、なんとなく気恥ずかしいのだ。どうせ着るなら堂々と着たいし、堂々と着るにはやはり勉強も必要だ。もちろんノリだけで身につけてしまうのもファッションなのだけど、それは若いときの特権だったような気もする。

でも、こうして洋服をバイイングしたり買ったり着たり、という行為をしていると、当然アートに触れることもあるし、アートに触れると芸術家が世に対して何を考えているのか(考えてないのか)をも、意識せざるをえないときがある。

それはこの仕事をしながら、とても幸せなことだと思うし、反面、洋服屋のスタッフも、世の中のいろいろなことを語りながらお客さんと接する時代になったのだ、と思うのだ。だから、まだまだいろんなことを学ばなくてはならない。

 

山手線跨線橋から見た煙突


 

今回は日帰りだったので、東京にいた時間は短かったけれど、いろんなことを考える時間をもらえた出張となった。それは「TSUTAYA」を出て、次の展示会へ向かったその先でも、そんなことをさらに感じることができたからだった。

 


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