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2019-01-06

「 閑かな初詣 」 / 岩木山神社


1月5日、早起きをし、MTBで岩木山神社まで初走りをして、そのまま初詣をする。そんな初夢みたいなことを頭に描いていたが、目覚めたら10時50分だった。初売りや雪かきの疲れがあったのだろうか。

なんだかんだと計画を立てながら、結局夕方まで身体が欲するままにボォ〜としていた。新年早々こんな調子では、2019年も先が思いやられる。「初詣に行こう」と、私は娘を誘った。

「Brady」のカモフラショルダーバッグに「X100F」を入れた。娘は、クリスマスにサンタからプレゼントされた「おそ松さん」のリュックに、肌身離さず持ち歩くiPadと、ここ数日まるで手をつけていない冬休みの宿題を入れた。初詣の帰りに、イオンタウンでミスドを食べながら宿題をやることにしていたのだ。

ちなみに、娘の「おそ松さん」のリュックは「OUTDOOR PRODUCTS」製だった。「OUTDOOR PRODUCTS」といえば、かつて自分がアメリカブランドに興味を持ち始めた頃、憧れたアウトドアブランドだったが、30数年経った今は、子供たちに人気のキャラクターなどとコラボするカジュアルブランドに変貌している。

 

 

新年の賑わいは落ち着いたようだが、土曜日の午後とあって道は混んでいた。途中のコンビニでコーヒーとココアを買って、のんびりと神社を目指した。岩木川を超えると、舞う雪が視界を塞ぎ始めた。それでも幸い道路はきれいに除雪されていたので、走りやすい。道の正面に、黄色や緑に輝く百沢スキー場の灯りが見える。岩木山は見えなかったが、スキー場の灯りがそこに山が在ることを教えてくれていた。

周囲はだいぶ暮れかけていた。夕日の名残りなのだろうか、南側の雲の切れ間がほんのりと明るい。今朝、早起きして走るはずだった道を車で走るのは、少々情けなくも感じたが、それもほんの一瞬で、あっという間に「岩木山神社」に着いた。

参道が暗かったらどうしよう…という不安はあったが、幸い神社へと続く階段には灯籠が灯っていた。いや、階段というよりは、長い雪の坂道といったほうがいいかもしれない。遥か上の方で「いてぇ!」と誰かが滑って背中を打った。私と娘は、おそるおそる雪の坂道を登った。これは帰りの下りが怖そうだ。

 

 

いくつもの鳥居をくぐり、おみくじ売り場を通り過ぎると「謹賀新年」を掲げた「楼門」が現れる。正しくは「年新賀謹」の順で並んでいた。階段を上り、拝殿へと向かう。「あれ?カネがないよ」と娘が言った。確かに私の財布の中にはそんなにお金は入っていなかったので、少しドキッとした…が、そうではなくて神社で拝む時に鳴らす鐘のことだった。

「ああ、ほんとだね」と、私は娘に五十円玉を渡した。昔はよく「ご縁がありますように」と五円玉をお賽銭として入れると良い、と言われたものだ。しかしさすがに今のご時世、五円玉ではあまりご利益がなさそうだ。二人とも五十円玉を入れて手をあわせた。

龍の口から流れる御神水の方に回ろうと、私は横の道から歩いていったが、ちょっとした隙に娘とはぐれてしまった。いくら叫んでも娘の返事はなかった。私は、シャッターを2度ほど押して、楼門の階段のところまで来た。再び、娘の名前を叫んだ。

楼門を下りた参道の灯りの中に、娘のシルエットが見えた。私は少しほっとして階段を下りた。「どこに行ってたの?名前叫んだのに」「パパ、どこに行ったかわかんなくなった」という娘の背中は雪まみれになっていた。「転んだのが?」「うん、転んだ」

新年早々に神社で転ぶとは、2019年は大丈夫かな…と思い、試しにおみくじを買ってみることにした。百円を持たせて、自分で買いに行かせた。私は少し離れたところから、ファインダー越しにその様子を見ていた。

 

 

「見て!」と、娘がおみくじを見せてくれた。「大吉」だった。「おおー、やるなあ~」

すぐそばに、おみくじを結ぶところがあった。しかし「大吉」だったので、そのまま持って帰ることにした。背中についた雪を払いながら、再び転ばぬよう二人で慎重に坂を下った。手袋をはいていない娘の手は、冷たくなっていた。

車に戻り、娘はさっき買ったばかりのココアを飲もうとしたが「冷てえ~」といって飲むのをやめ、すぐさまiPadを開いていた。車を走らせ、百沢のバイパスにさしかかると、遠くに弘前の街の夜景が少しだけ見えた。私は娘に言った。

「ちょっとの間、電源切って」「なんで?」「坂を下りきるまでいいから。ほんの5分くらいだから、静かにして…街の夜景を見るべし」

娘は少し「こんつけた」様子だった。でも何も言わずに黙って外の様子を見ていた。私も何も言わずに車を走らせた。

 

 

だらけてすごした1月5日。だらけたおかげで、夕方になってしまった初詣。元旦の賑わいをあじわうような初詣ではなかったが、何年か経った後でも、思い出すことのできる初詣になったような気がする。

バイパスの坂を下りきった宮地の交差点を超えると、娘は黙ってiPadの電源を入れた。

 


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