ツール・ド・ツガル / 俺にカツカレーを食わせてくれ
「チャレンジヒルクライム岩木山」に初めて参加したのは、50歳のときだった。ロードバイクに乗り始めて1年後だった。50歳にしてビギナーだったがタイムはこの時が最も速く、1時間切りを達成できた。
その後は年齢に比例するようにタイムは下がっていった。悪天候やコロナウィルスなどによる大会中止もあり、それを機に大会にエントリーすることはなくなった。
還暦を過ぎた現在でも挑戦したい思いはあるのだが、大幅な増量をした今の身体ではとても自信がない。そもそも普段からそんなに走れていない。
それでもたまに、岩木山神社に向かって走る。
昼を過ぎ、かなり温度は上がっていたが、神社までならちょうど良い運動になるだろう。まだ昼飯を食べてなかったので、ツーリングの帰りにでもどこかで食べて帰ろうか。
城西大橋を越えたあたりで、妙にカレーが食べたくなった。自分がカレーを食べたいと思うときの70%はカツカレーである。そしてカツカレーを食べたいと思ったときの98%は、老舗の大衆食堂のカツカレーだった。
自分の中に「カツカレー」のランキングがあった。
1位は大鰐の「さかえ食堂」、2位は「城東食堂」、3位が「銀水食堂」。そして4位が浪岡の「小倉食堂」で、5位が東目屋の「白神飯店」のカツカレーだった。
「さかえ食堂」は大鰐ロイヤルの激坂に挑戦する度にパワーを補給をした老舗だった。「城東食堂」は妻とよく行った食堂だった。どちらも量が凄まじく、夕飯がいらないほど腹が膨れた。
しかしどちらの食堂も今はない。理由は詳しく知らないが残念である。
「銀水食堂」は時々おじゃまする。「銀水」のお母さんが私の娘のことを気にかけてくれる。「小倉食堂」はやや遠いので気が向いたときくらい。
もちろん弘前市内には「Cafe Do」や「かわしま」「芳柳」など人気のカレー屋はあるが、「カツカレー」に関しては昔ながらの老舗食堂が良いのだ。
城西大橋を渡ったあたりで、気持ちの中では5位の「白神飯店」のカツカレーに決まりかけていた。
時計を見ると13時15分だった。スマホを取り出し検索してみると「白神飯店」は14時までとなっていた。岩木山神社まで走ってからだと、自分の脚力では間に合わない。自信がある。
すぐに引き返し、岩木川沿いを目屋に向かって走った。ここからであれば30分以内に着くのではないだろうか。自信はない。
久しぶりに心臓がバクバクするくらい脚を廻した。そういえば、ヒルクライムに参戦していた頃はこんなふうに脚を廻していたのを思い出した。
ここ2〜3年はまったりツーリングがほとんどだったので、ここまで脚を廻すことはなかった。食い物のモチベーションとは恐ろしい。
数名のチャリダーとすれ違う。皆、シュッとしている。カッコいい。
でも俺は違う。ロードバイクで走っているが、カツカレーを求めて走っている体重増のオッさんである。でもそんなことはどうでも良い。今はカツカレーが食いたいのだ。
道の先に赤い暖簾が見えてきた。駐車場に車が3台ほど停まっている。間に合ったようだ。
砂利が敷かれた駐車場に入り、ロードバイクを立てかける場所を探す。スマホを見たら13時40分だった。なかなか頑張って走ったな。
ロードを引きながら入り口付近にきた。

「あぅ…」
顎が外れそうになった。
中に入ってお願いすれば、もしかしたらカツカレーくらいは作ってくれたかもしれないが、なんとなくそこまでのエネルギーがなかった。
来たときの半分くらいのスピードで同じ道を走り始めた。悲しいというよりは、思わずフッと笑ってしまう…14時前後にはよくある自分だった。慣れている。
諦めてどこかのコンビニでおにぎりでも…と思ったが、まだカツカレーに未練があった。「銀水」でもよかったが、つい最近行ったばかりだ。
再び城西大橋を渡ったところで、禅林街の入口に老舗の食堂があったのを思い出した。メニューが豊富で値段もお手頃の老舗「田沢食堂」。カツカレーがないわけはない。
駐車場には車が10台ほど。やはり人気の食堂である。
再びロードバイクを立てかける場所を探しながら入り口に近づいた。

「あぅぅ…」
ほとんど顎が外れかけていた。
私は無口になり、市役所方面に向かって走り出した。ひとりなので無口なのは当然なのだが、心の中でも無口になっていた。
市役所のすぐ隣にある「三忠食堂 塩分町分店」の店先にロードバイクを停めた。カツカレーはどうでもよくなり、(暑いし冷やしたぬきでも食べよう)…そんな気分になっていた。

「三忠食堂」といえば和徳の百年食堂が有名だが、私はこの市役所隣の店の方にたまに来ていた。
ランチメニューの「蕎麦と丼のセット」が美味く、リーズナブルで好きだった。そういえばカレーがセットになることもあった。カレーがあるということは、カツカレーもあるのだろうか。流石に蕎麦屋にカツカレーはないか。
メニューをみると、あった。カツカレーの文字。見つけた瞬間に注文していた。

目の前に置かれたカツカレーは、だいたい想像したカツカレーだった。
蕎麦屋のカレーは和風出汁が効いてて美味いと言われるが、一口食べると意外にも洋食屋の味がした。昔、鯵ヶ沢にあった晩翠軒の味を思い出した。カツはまあまあの大きさで、細く切られていて食べやすい。
しかしルーがちょっと少ない。やはりカツカレーは、カツが見えなくなるくらいのルーで覆われているのが良い。今はなきあの老舗のように。
それでも、カツカレーを欲していた自分には十分すぎる味であった。
サンキュー!サンチュー!












