「舞戸小学校写真クラブ」 〜母校での講義〜
ゴールデンウィークが終わった5月の中頃、故郷の鯵ヶ沢へ車を走らせた。久しぶりな気がする。
昼飯がまだだったので、駅の近くにある「番場食堂」へ向かう。自分が小さい頃は、もっと駅に近いところにあったが、今は踏切を越えたところにある。
「番場食堂」で注文するのは、決まってチャーシュー麺だ。以前ブログで書いた頃に比べると、結構値段が上がっている。
窓の外を走る列車を見ながら、ラーメンをすするのも良い。
腹を満たした後は、食堂の前の坂を上がってみる。坂の上からは、グランド越しに小学校が見えた。校門はあるが、車は入れないようになっていた。
ちょうど半世紀前、私はこの「舞戸小学校」の6年生だった。当時はこの門が正門だった。
グランド越しに見える校舎も当時のものではない。新しい校舎は、昔の校舎があった場所の後方に建てられていた。
ぐるっと道を回り、バイパスの方から学校の駐車場に入る。現在の正門はそちら側にあった。
予定よりも少し早く着いたので、受付で挨拶を済ませ、グランドの方を散歩する許可をいただいた。
校舎の裏にあるグランドは昔のままだった。かつての正門の方に歩いてみた。
門の側に像が立っている。男の子と女の子が大きな球(地球だろうか)を天に向ける像。
この像は開校100周年を記念して建てられた。ちょうど6年生だった自分がこの像の除幕式の役を担った。
同級生の女の子と一緒に幕を引っ張った記憶があるが、誰だったかは覚えていない。50年も前の話だ。
なんとも言えぬ感慨に浸りながら、私は校舎に戻った。再度、受付で挨拶をすると図書室へ案内された。
図書室には誰もいなかった。6人掛けの大きなテーブルを少し移動させて、話をしやすい配置を考える。なるべく子どもたち全員の顔が見えるようにした。
「小学校に写真クラブを作りたいので、是非講師として来てほしい」という依頼が、鯵ヶ沢写真クラブへあった。
地元の学校からの依頼ということもあり、快諾することになった。そしてその一発目の講義を私が受けもつことになった。
14時50分。12名の子どもたちが図書室に集まってきた。
昨今は名札をつけていないので、名前も学年もわからない。まだまだ小さな子もいれば、中学生に見える子もいる。
コミュニケーショをとるために、私はひとりひとりの名前を聞いてメモをした。
「写真クラブ」ではあるが、子どもたちが手にしているのはカメラではなくタブレットだった。
日頃の授業でタブレットを使っているだけあって、写真を撮るツールとしてはカメラよりも馴染むのだろう。
クラブの時間はわずか50分。タブレットを使用ということもあり、カメラや写真についての難しい話はナシ。
「学校の中を散策して、気になる光景やモノをいろんな距離やアングルで撮ってみよう!」ということになった。
子どもたちは廊下に寝そべって撮ったり、職員室で仕事をする先生を撮ったり、バケツの中の水をアップで撮ったり。楽しそうにタブレットを覗いている。
クラブが終わる15分ほど前に、再び図書室に集合。
各自で撮った写真の中からお気に入りの1枚を選んでもらう。そしてさらに、その1枚にタイトルをつけてみることにした。
それぞれのお気に入りを机の上に並べた。長い廊下の写真。消火器の写真。階段の写真。
おもしろい写真に意欲のある子は、やはり「おっ!」と目を引く写真を撮る。
おとなしそうな子は、やはりおとなしい写真を撮る。階段を被写体にした子の写真はどこか静かだ。タイトルもストレートに「階段」である。インパクトはないが詩的に思えた。
インパクトのある写真はわかりやすいし褒めやすい。しかし地味でおとなしい写真も選んで褒めた。私自身の写真がモノクロが多く地味ということもあり、そういう写真に惹かれてしまうのだ。
全員の写真について感想を伝えようとは決めていたが、時間もあまりなく、感想の中身が少し薄かったかな。そこは自分の力不足だ。初めての講義ということもあり段取りもよくなかった。
でも自分自身も楽しくできたように思う。
6月5日。2回目の写真クラブ。
前回と同じ席に座ってもらい、なるべく子どもたちの名前で話しかけ、コミュニケーションを取る。
今回は外に出て、学校の周りの気になるものを撮ることにした。さっきまで降っていた雨も上がっている。子どもたちは外履きを履いて、中庭やグランドに散っていった。
植物を撮る子、水飲み場を撮る子、サッカーボールを撮る子。みんなそれぞれに気になるものを撮っている。
当時と変わらぬグランドに、50学年も下の後輩たちと一緒に立っているのは、なんとも不思議な感覚だった。
再び図書室に戻り、各自が撮った写真を見せ合いながら鑑賞会をする。
タブレットで撮る写真は、デジタルカメラよりも解像感に劣る。故にピンボケもあれば、白飛びや黒潰れも多い。
でも、そういう風に撮った写真も見方を変えればオモシロい。案外子どもたちもそういう写真のオモシロさを感じているようだ。
作戦通りに撮れた写真も良いが、意図せずに撮れた写真の方が良かったりもする。
それは大人でも同じ。
「あまり難しく考えずに、まずは気持ちが動いたものにレンズを向けて撮ってみよう」と、子どもたちに伝えた。
そしてそれは、自分に向けて言っていることに気づいた。