旧弘前偕行社でルネサンスを歌う 〜【みんなのコンサート 第19回】〜
旧弘前偕行社の趣のある廊下に立ち、私は緑が美しい中庭を眺めていた。
この中庭を娘と一緒に歩いたのは、もう15年も前のことだ。小さな扇ネプタを引きながら中庭を歩いた、あの暑い夏を思い出していた。
ホールから聞こえてくる拍手の音で我に返る。私は仲間たちと一緒にホールへと入っていった。

旧弘前偕行社。イタリアルネサンスが基調とされている美しい外観。
7月20日、旧弘前偕行社にて【みんなのコンサート 第19回】が開催された。
【みんなのコンサート】は、赤ちゃんや小さな子どもたち、そして赤ちゃんと一緒のお母さんも、誰もが楽しむことのできる演奏会である。
主催する『アートワールドひろさき』は、「弘前市および周辺地域において、市民の皆さんが芸術に触れる機会を増やし、地域の芸術活動の活性化に貢献することを目的にする」として設立された。
その『アートワールドひろさき』を運営する朝山先生より「是非、ルネサンスの音楽を演奏してほしい」という依頼が『合唱団Apio』にあったのは、弘前の桜が咲き始めた頃だった。

演奏が行われたホールも美しい
Apioのメンバー12名が並ぶと、ホールにはおよそ150名ほどのお客さま。そして目の前のマット席には、赤ちゃんや小さな子どもとお母さんたち。お父さんもちらほら。
娘が和徳小学校合唱部のときにお世話になったH先生のお顔もあった。ふだん一緒に歌っている弘前の歌仲間の顔も見える。
演奏は、今年が生誕500年といわれる「パレストリーナ」の曲から始まった。
リハーサルでは音の反響が良すぎて少し歌いにくかったが、お客さまが入ったことにより、ちょうど良い響きになっていた。
2曲目は、6人ずつに分かれ8声のダブルコーラスとなる。第1コーラスのベースは私ひとりだった。無伴奏であるが故、ベースの音程はとても重要であり、それがいつもプレッシャーになっていたが、この日は不思議と緊張することはなかった。
コンクールやコンテストとは異なり、自らを表現するという純粋な思いで歌うからであろうか。
無伴奏のルネサンス時代の曲ばかりということで、聴く側は飽きはしないだろうかと、いささかの不安もあったのだが、お客さまが熱心に聴いてくださっている雰囲気が存分に伝わってきた。
クラシックを鑑賞するという意味では、赤ちゃんや子どもたちの鳴き声、話し声が気になるという方もいたかもしれない。
しかしながら、「それもOK!」というのが大前提だったので、歌う我々も子どもたちの声が溢れている方が緊張することもなく、むしろ楽しんで演奏することができたように思う。
そして、それが聴衆の大人の皆さんにも伝わり、より会場に一体感が出ているような雰囲気になっていた。
最後のアンコール「Scaramella(スカッラメッラ)」を歌い終えた瞬間、会場にたくさんの拍手の音が溢れた。
会場がひとつになったような気がした。

パレストリーナのダブルコーラス。
トータル12曲。およそ1時間の演奏を終え、【みんなのコンサート 第19回】は幕を閉じた。
少し高揚した気持ちのまま歌っていたので、正直なところ演奏の出来がどうだったのかはよくわからない。歌い出しをミスったところもあった。
それでも、コンテストのステージでは味わったことのない充実した気持ちで身体は満たされていた。

中庭から旧偕行社を望む
演奏が終わり片付けが済むと、メンバーのみんなが五所川原や青森へと帰っていった。
一番最後に残った私は、少しの間、中庭を歩いた。
15年前、娘が通っていた保育園は、この建物と繋がっていた。
運動会ではこの中庭を駆けまわり、夏はネプタ運行をしたのだった。

15年前の最後の登園
思い出の場所での演奏は、新たな思い出となった。
またいつか機会があれば、ここで歌ってみたいな。
*【みんなのコンサート 第19回】 演奏曲











