toggle
2024-08-28

「全国小児がんチャリティーコンサート in 弘前」 〜西村由紀江〜


 

半年も前のことになるが、船沢中学校の I 校長先生から連絡があった。

昨年、少年少女合唱団「HIROSAKI MELA VOCE」を立ち上げた際、I 先生には随分とお世話になっていた。

「夏に弘前でチャリティーコンサートを開催する予定があるので、協力して欲しい」という旨の内容だった。

「いいですよ」と、なんとなくの返事をしたが、どのようなコンサートなのか具体的にはよくわからなかった。

 

お花見の時期が近づいた頃に、封筒で案内が届いた。

【  国内で年間2000人以上が発症すると言われる「小児がん」

幼い頃から作曲に才能を発揮し「モーツァルト以上の才能」と評された加藤旭(あさひ)さんは、2013年の中学2年のときに小児脳腫瘍を発症しました。数度の手術、放射線治療を受け、視力を失いながらも作曲を続けますが、2016年に16歳という若さで旅立ちました。

この度、音楽を通じて「小児がん」についての理解と地域社会とのつながりを深め、「小児がん」と闘う子どもたち・家族の未来が輝くことを願い、「全国小児がんチャリティーコンサート in 弘前」を開催いたします。

ピアニストの西村由紀江さんをお迎えし、地域の小中高生・団体で構成されるスペシャル合唱団とのコラボレーションにより、加藤旭さんの「くじらぐも」をはじめ、LIVE EMPOWER CHILDRENのテーマ「My Hero〜奇跡の唄〜」を披露します 】

* オフィシャルサイト →  全国小児がんチャリティーコンサート in 弘前 

 

という内容だった。

 

「チャリティーコンサート」というものには参加したことはなかった。むしろ、慈善的なイベントに参加するということ自体にはハードルを感じていた。

しかし、I 先生には随分とお世話になっているし、人前で歌う機会が少ない子どもたちにとっても良い経験になるかもしれない…と思い、快諾した。

しばらくして、I 先生から連絡があった。市内の小中高生が集まらないとのことだった。ちょうどNHK音楽コンクールの県大会と本番の日が被っていて、合唱部のある学校はどこも参加できないらしいのだ。

市内の一般の合唱団に声をかけることになった。運良く幾つかの合唱団から参加者を募ることができた。そして、なんとなく流れで、合同合唱団の練習日や場所の手配を私がすることになった。

それだけではなかった。加藤旭さんの代表曲「くじらぐも」の合同練習を私が指導することになってしまった。こりゃマズい…

 

お盆の最中、文化センターに集まって合同練習が行われた。私が「くじらぐも」を、残りの2曲を歌仲間の三明さんが担当した。

「くじらぐも」は加藤旭さんが作詞・作曲したものだが、なんと小学1年生のときに作った曲である。なので旭くんと言った方がいいかもしれない。

 

ありがとう くじらぐも

またあおう げんきでね

あおいそら どこまでも

わすれないよ きみとのたび

 

空に浮かぶ、くじらの形をした雲が、なんとも切ない言葉で書かれていて、そしてなんとも美しいメロディで描かれていた。

 

この日、集まったのは当日参加予定の半分ほどの人数だった。しかし、皆さんそれぞれの合唱団でしっかりと練習を重ねてきてくださり、短い時間ながらも良い練習ができた。

私よりも遥かに合唱経験の長い先輩方を前にし最初は緊張したが、誰もが同じ目標に向かうという気持ちが良い雰囲気を作り上げてくれた。

 

プログラムとフライヤー

 

8月25日 当日。岩木文化センターあそべーるのシアタールームには、60人近くもの有志が集まっていた。

本番前の練習は1時間。「くじらぐも」の練習は15分ほど。小学1年の旭くんが作った曲ではあるが編曲は難易度が高く、ソプラノの音がかなり高い。

大人っぽすぎる声はなるべく抑え、ビブラートのない柔らかい声で、空高く流れるような歌い方を要求した。

 

練習をしていると、西村さんご本人が練習の様子を見にいらした。本番は指揮無しで西村さんのピアノ伴奏に合わせて歌う予定だったので、西村さんにリズムの確認をしてもらうことになった。

演奏が終わると西村さんが「素晴らしいですね!」と拍手をしてくださった。そして続けて言った。

「是非、指揮ありでやりましょう!」

げ!こりゃまたマズい!

 

16時から開演となった会場には多くの聴衆が席を埋めていた。私たち合唱団は会場の一番上の席にいた。

第1部は、西村さんによるピアノ演奏。さすがプロの演奏。華奢な西村さんの身体からエネルギーのある音がホールに響き渡る。

しかし私の気持ちはややうわの空で、目の前にある「くじらぐも」の楽譜を見ながら何度も小さく手を動かしていた。

第2部は、加藤旭くんや「小児がん」のことについての講義が行われた後、西村さんから合唱団の紹介があった。

私たちは客席の真ん中にある階段を下りていき、3列になってステージに立った。

私はピアノのすぐ後ろに立ち、西村さんの伴奏を合図に手を上に動かした。

 

打ち上げにて。西村さんと三明さんと。

 

夜、打ち上げがあった。I 先生にお誘いをいただき、私も参加した。

ステージで指揮を振り、歌った身としては、果たしてどのような演奏だったのかよくわからなかったが、西村さんはじめ皆さんが「ステキな演奏だった」と仰ってくださった。

打ち上げには加藤旭くんのお母さんも参加されていて、「感動しました」と言ってくださった。

指揮がグダグダだったのは自分が一番よく理解しているが、幸い歌声は良かったらしい。地元で長く歌っている先輩方、そして初々しい子どもたちの声は、しっかりと聴衆に届いたようだ。

 

西村さんは東日本大震災の後、津波でピアノが流された家庭にピアノを届け、「弾き初め」をする活動を続けてきたそうだ。

私自身、これまで募金をしたり支援物資を送ったりしたことはあったが、いわゆるチャリティーやボランティアには直接参加したことはなかった。今回のこともそれほどチャリティーを意識した参加ではなかった。

でも、実際参加し、何か少しだけ心の中に変化が生まれた気がした。

一緒に参加した娘にも訊いてみた。彼女は「ん〜 よくわかんない」と言った。

そうかもしれない。いつか、この日のことを思い出してくれたら良いかな。

暑い夏休みの、最後の一日だった。

 

* 演奏音源は著作権の関係上、現段階ではUPできませんが、オフィシャルに公開された際にはシェアしたいと思います。

 


関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。