2025 東北旅紀行 震災遺構「荒浜小学校」と「かわまちてらす閖上」
仙台空港の地下道を抜けると、ポンコツ軽は名取市閖上地区に入った。
きれいに整備された道を走り、やがて名取川を越えると仙台市に入る。車窓の外に住宅らしい建物はほとんどなく、公共と思しきコンクリート建築が点在する程度。
この県道10号線は「東部復興道路」という名で、道は新しく、おそらく嵩上げされているのだろう、見晴らしが良い。
右手に太平洋を望みながら、ひたすら真っ直ぐな復興道路を荒浜に向かって走らせた。
私は小学生の頃から地理が得意で、地図帳を見るのが大好きだった。東北も県庁所在地はもちろん、それなりに大きな街であれば、だいたい知っていた。
しかしあの日以来、これまで知らなかった町や地域を知ることになった。中でも心に刻まれたのが、南三陸町、陸前高田市、そして名取市の閖上(ゆりあげ)地区、仙台市の荒浜地区だった。
あの日の夜、蝋燭を灯したリビングで、家族みんなで毛布にくるまっていた。
テレビは見れないので、時おり車に行ってカーナビに情報を求めていた。そのときにカーナビから流れていたのが「仙台市の荒浜地区で数百人もの人が津波にのまれた」というニュースだった。
そしてカーナビの画面には、名取川を逆流した黒い波が住宅地や田畑を襲う空撮映像が流れていた。とても現実と認識することができなかった。
「荒浜小学校」の周りはとてもキレイに整備されていた。日曜ということもあり、公園ではフリーマーケットが開かれ、多くの人が訪れていた。
かつて校庭だったところに車を置いた。入り口の方に進むと、語り部の方が「この2階まで津波が来たのです」と2階を指さしていた。
浸水した1階と2階は当時のまま残されていた。2階のベランダが破壊されている。
3階と4階には、かつての街並みのジオラマがあったり、当時の様子を記録したスライドショーが映されていた。
当時の校長先生や教頭先生の話も収められていた。子どもたちと先生、そして地域の住民が皆で屋上に避難した様子、翌日にヘリコプターで救助された様子が記録されていた。
知らぬうちに、涙が流れていた。
屋上に上がると、太平洋が一望できた。あのとき、カーナビに映っていた松林がわずかに見える。
海岸線からは直線にして800mほどだが、黒い津波は軽々と小学校を通過していった。
津波といえば、三陸などのリアス式海岸で湾内に流れ込んだ波が急激に高くなる…そんなイメージがあった。
このような平野部で、沿岸から数kmも内陸に流れ込むというのは、とても思い描くことは不可能だった。しかも、数十kmもの幅のまま東北の沿岸を一気に襲ったのである。
私は小学校をあとにして、海辺の方まで行ってみることにした。
防波堤から砂浜に下りてみる。少しだけ怖いような気がしたが、海は穏やかで空は青かった。家族連れが砂浜を歩いていた。
再び復興道路を走り名取川を渡る。
名取川河口に位置するのが「閖上地区」である。閖上は、ほぼ全域が津波にのまれた。
閖上中学校から撮影された津波の映像を見たことがあるが、あれは本当に恐ろしい映像だった。
この辺りは仙台側とは異なり、新しい住宅が立ち並び、また人気のエリアとして再開発されている。
なかでも目を引くのが、名取川沿いに建つ「かわまちてらす閖上」である。
『かわまちてらす閖上は2019年にオープンした閖上のランドマークです。東日本大震災で津波による大きな被害を受けた閖上地区ですが、地元の事業者、応援者による新たなまちづくりが実を結び港町に活気と人々の憩いの場が戻ってきました。長屋のようにずらりと立ち並んだお店は、どれも個性豊かでバラエティに富み、いつ訪れても地元ならではの「うまいもん」や、特別な「ひととき」に出会えます。人とまちを明るく照らすこの場所には、閖上の魅力がぎゅっと詰まっています』(HPより引用)
川沿いには気持ちの良い風が流れていて、多くの家族連れが歩いている。
昼飯がまだだったので、ここで美味しい海鮮をいただこう。
海が近いということもあり、海鮮を提供をする店が多いが、ラーメン屋やスイーツの店もある。
店の前にある看板を覗き見ると、どうやら「しらす」が有名らしい。
上品な雰囲気の店があったので入ってみた。昼時を過ぎていたので、客は私一人だった。
いくつかのランクがあったが、真ん中くらいの「しらす丼」を注文した。

贅沢しらす丼 「閖上海鮮丼 せんしん」にて
蟹やイクラがのった贅沢な「しらす丼」
津波の被害があったこの場所で、グルメにカメラを向けるというのは、いささか不謹慎のような気もしたが、こうして美味しいものをいただくことも応援のひとつだろう。
最高に美味しい「しらす丼」、ごちそうさまでした。
「しらす丼」をいただいた後は、川沿いの散歩道を海の方に向かって歩く。
あの日、荒浜の人も、閖上の人も、とても悲しく辛い思いをしたに違いない。それでも、誰もがこうして日々生きぬいている。
今回、荒浜と閖上を訪れることができたこと。
「この先、もう少し頑張ってみようか」という思いが、ふっと湧いたような気がした。
3月23日(日) 東北旅紀行四日目 その2
名取川河口から望む海は、穏やかで美しかった。