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2018-05-05

「しらしのおつゆ」 / 鰺ヶ沢中村川のしろうお漁


このゴールデンウィーク、時間を作って朝の弘前公園を散策しながら、写真も撮ろう。なんて言っておきながら、結局一度も行っていない。祭り期間はもう少しだけあるので、葉桜でも見に行こうか。有言は実行しないといけない。

弘前の桜。県内はもちろん、県外、そして世界中から観光客が来るようになった。街の財政を考えると、喜ばしいことである。でも個人的には、昔のほうが好きだったかな。歳を取ったということなのだろう。

もちろん、弘前の喧騒を離れ、別の場所に足を向ける人もいるようだ。写真の好きな人なら、幻想的とも言える残雪の八甲田ブナ林。レトロな電車とのコラボレーションが人気の津軽鉄道と芦野公園。などなど。

 

そして最近、耳にするのが外ヶ浜町で4月下旬から5月中旬にかけて開催される「蟹としろうお祭り」だ。旧蟹田町に流れる蟹田川河口で開かれている。目で愛でる観光資源はもちろん大切な要素だが、やはり舌で味わう観光資源に魅力を感じる人は多いと思う。「今の時期しか食べることができない」という季節限定のものは、とくにそうだと思う。

ちなみに「しろうお」「しらうお」「しらす」の違いは皆さんご存知だろうか。私は知りません。一応調べてみた。

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「しろうお」〜ハゼ科の魚で漢字では「素魚」と書く。体長は5cmほどで、踊り食いや酢の物に用いられる。

「しらうお」〜シラウオ科の魚で漢字では「白魚」と書く。体長は5〜10cmほどで、天ぷらや寿司の種に用いられる。

「しらす」〜カタクチイワシ、マイワシなど、体に色素がなく白い稚魚の総称で、漢字では「白子」と書く。「しろうお」「しらうお」などを指して「しらす」と呼ぶ地域もある。

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いわゆる「おどり食い」で人気になっているのは「しろうお」である。かなり前に一度食べたことはあるが、寿司は好きだけれど、口の中でライブで殺生するのはどうも気が引ける。味をアジわっている余裕がなかった。歳を取った今なら、美味しくいただけるのかもしれない。

実は、一番好きなのは「しろうおのお吸い物」…正確に言えば「しらしのおつゆ」である。

この「しろうお漁」は、蟹田だけでなく、私の生まれ故郷の鰺ヶ沢でも盛んである。今現在はどのくらい漁がされているのかはわからないが、私が小さい頃は中村川の河口沿いにずらりと網が並んでいた。

死んだ親父もこの漁が好きだった。親父もおふくろも「しろうお」ではなく「しらし」と呼んでいた。おそらく「しらす」がナマったものであろう。いやナマっていたというよりも、「ス」の発音がうまくできなかったのだ。だから、私も「しらし」と言っていた。

昔の私の実家は、旧山海荘の隣にあった。敷地内といってもいい。親父は、山海荘本館のすぐ脇にある土手で、大きな網の仕掛けを川に降ろしていた。ゆっくりと、ざば~っと仕掛けを降ろすのだ。そして一旦ウチに戻る。

 

鰺ヶ沢町のブログ「あじ行く?ぶろぐ」よりお借りしました。


 

しばらくして、仕掛けを上げに行く。そのときは私もくっついて行くのだ。今思えば、あのガリガリに痩せた親父が、あのデカい仕掛けを上げるのは結構大変だったんじゃないかな、と思う。

土手を降りて、仕掛けのところに行く。小さな桟橋の先に大きな網がある。再び、ざば~っと音を立てて仕掛けが上がる。緊張の一瞬だ。

 

網を叩いて真ん中へ集める。


 

「しらし」がピチピチ跳ねている。


 

中には小さな「しらし」がピチピチと音を立てて跳ねている。親父が網のついた小さな器で、仕掛けをトントンと軽く叩きながら、「しらし」を網の中心に集め器用にすくい上げる。たまに、ウグイや小さなカニなんかが混じっていると、子供心にはそちらのほうが興奮したりするのだった。

すくい上げた「しらし」をバケツに入れる。重いので水はあまり入れない。バケツの中でグニュグニュうねる「しらし」を持って帰る。おふくろ喜ぶかな。

「わ~ずいぶん捕れだの~」と笑顔を見せて、すぐ料理をしてくれる。もちろん「しらしのおつゆ」だ。調理法はよく知らない。たぶん洗って煮るだけ?味付けは醤油くらいなのだろうか。魚そのものを煮ているので、出汁はないのかもしれない。

小さい頃からこれが好きで好きで、何杯でも食べた。おつゆにできなかった分は、そのまま冷凍室に入れて、しばらくの間は「しらしのおつゆ」を食べることができたのだった。

 

旧山海荘本館の土手にあったボートにて。52〜3年前。


 

おふくろが亡くなってからは「しらしのおつゆ」を食べることはほとんどなくなった。そして親父が「しらし」を捕るために中村川に仕掛けを降ろすこともなくなった。捕ったところで喜んでくれる人もいなければ、作る人も食べる人もいなくなってしまったのだから。

 

ここ数年、ゴールデンウィークの時期になると蟹田のしろうおの話題が出るようになった。それを見聞きするたびに、親父の仕掛けを上げる姿とおふくろの喜ぶ笑顔を思い出すのだ。

そういえば、今日って「こどもの日」だったな。

 


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