東北一周旅紀行 その12 〜「土門拳記念館」〜
鶴岡の「琴平荘」で1時間待ちのラーメンを味わった後は、鶴岡観光をせずにそのまま酒田へ向かった。
山形県の人口2位、3位の鶴岡と酒田は、距離にして23kmほど。国道を走れば30分で着く。
今旅の一番の目的は、Apioメンバーとしてアンサンブルコンテスト全国大会に出場することだが、個人的にはもうひとつ大切な目的があった。
それは「土門拳記念館」を訪れること、であった。
「土門拳記念館」は酒田市の飯森山公園の中に建つ美術館である。日本初の写真専門の美術館であり、約13万5千点におよぶ土門作品を所蔵している。
「土門拳記念館」は建築としても有名(設計は谷口吉生=土門と親交が深かった谷口吉郎の子息)であり、数多くの賞を受賞している。湖のほとりに建つ姿は美しく、土門作品のみならず、この建築そのものもまた訪れるに値する。
「土門拳記念館」を訪れたいと思っていたのには理由があった。「土門の写真が好きだから」という単純な理由は別にして、だ。
数年前に青森市で土門拳の作品展が開催されたことがあった。それほど大きな展ではなかったが、私は妻と二人で観に行った。
妻はそのときに随分と感動したらしく、その場で写真集も購入した。それ以来「いつか土門拳記念館に行ってみたい」と話していた。しかし、その願いを叶えぬまま妻は旅立ってしまった。
だから「土門拳記念館」は自分にとって、憧れであり、後悔でもある場所だった。
少し遅い時間に訪れたせいか、館内には数人の来館者がまばらに居るだけだった。閉館までは1時間ほどあったので、私はゆっくりと土門の作品を観てまわった。
ちょうど棟方志功とのコラボレーション展示が開催されていた。土門と棟方はお互いにリスペクトしあった仲で、ヌードを描く(彫る)棟方を土門が撮る、といった写真がいくつもあった。
作家や芸能人、歌舞伎役者らを撮った一連のシリーズも土門の作品としてよく知られるが、それらの写真もずらりと並んでいた。
そして以前、青森でも観た仏像シリーズは、今あらためて観てもその存在感に圧倒される。
写真家の作品を写真に撮るというは、素人の自分ながらも無粋な行為だと思うので、これくらいに。
また、土門の写真を自分が評するというのは、無粋以前に愚の骨頂なので、作品を拝見して「とても感動した」というくらいにさせてほしい。
自分自身が撮る写真はモノクロームが多い。それは、モノクロを撮る海外アーティストの影響もあるが、日本人でいえばやはり土門拳や小島一郎に影響されたところがある。
そして未だに影響されただけで、何もオリジナリティのない、進歩のない写真ばかりを撮り続けている。
プロではなく素人なわけだし、趣味と考えれば問題はない。が、やはり素晴らしい作品を目にすると、感動すると同時に自分に不甲斐なさを感じてしまう。
しかし、そういう思いを感じることにも意味があると考えている。
湖が見える方に歩いていくと、低い位置まで降りてきた陽の光が廊下に差し込んでいる。
窓の幅が少しずつ変化しているのを、光の幅で感じることができる。館内を演出する素晴らしい設計だ。
廊下を曲がると、湖の見える大きな窓があり、美しいソファが配置されている。どの部屋のディティールも美しく、中から見る外の風景も素晴らしい。
公園の湖のほとりに建ち、建築としての外観も内部の作りも美しい。そして時間を忘れることのできる素晴らしい作品群が展示されている。
これほどまでに贅沢な美術館は、なかなかお目にかかれないのではないか。
館内に客は自分一人だけになっていた。知らぬ間に閉館時間が近づいていた。
私は、少しぼぉーとした気持ちのまま外に出た。
陽が傾き、コンクリートに美しい影を描いていた。
二人で来れなかったことを後悔しながらも、
一人でも来れたことを喜びながら、
長く伸びた影を見つめていた。
コメント2件
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太田くん、コメントありがとうございます😊
アンサンブルコンテストに参加する以上は、これからもまた東北一周のチャンスがあると思っています。再び鶴岡、酒田におじゃまできたら、是非飲みましょう!
地元の美術館をこれほど美しく描写していただいて感激です。地元民の中では、この美術館を大切にしている方の人間だと思うのですが、弘樹さんの文章を読み、写真を見て、改めてその魅力に気づかされました。・・・琴平荘のラーメンいかがでしたか。あの地域の学校に勤めているのです。・・・4月には、あのそばで交通安全立哨指導をしました。・・・弘樹さんの後悔の百分の一にもならないのですが、庄内をご案内できなかったのが、残念です。今度は「太田に案内させる」ことを目的に、庄内を訪ねてください。