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2024-05-16

ツール・ド・ツガル / 大鰐ロイヤル激坂はもう上れない


 

東北一周旅紀行を書き続けて1ヶ月半になる。

実際は3月21日からの4泊5日の旅だったが、まだ書き終わらない。おかげで、4月、5月の日々あったことは全く書けていない。弘前混声合唱団の定演もあったし、大学時代にお世話になった笹先輩の娘さんのリサイタルもあった。

このままではブログの日記的な役目を果たせないので、今日はひと休みして久しぶりにチャリの話。

4月にギックリ腰をヤッていた。定期演奏会のリハーサル、ゲネプロ、本番と何時間も立ちっぱなしで歌ったのが原因のようだ。

長年、立ちっぱなしで仕事をしていたので、腰のあちこちに爆弾を抱えている。なので、しばらく走ることができなかった。

 

気温が25度を超え、夏日になろうかという5月半ばの水曜日。車にチャリを積んで大鰐方面へ向かった。

鰐comeに車を停め、碇ヶ関までグルっと走り、帰りに温泉に浸かろうという計画。今の自分にはそのくらいのユルいライドが良い。

しかし、大鰐まであと少しというところで気がついた。なんとヘルメットとシューズを忘れていたのだ。なんという失態。

さすがにメット無しは危険だし、スニーカーで坂を上るのもしんどい。仕方なく自宅に取りに戻る。やはり、歳とともにボケが始まっているのだな。トホ

 

デジャブのように再び大鰐の山々の景色が見えてきた。スキー場の緑が美しい。

そういえば、岩木山ヒルクライムに参加していた頃は、あのスキー場の激坂で練習したっけ。

 

「大鰐温泉つつじまつり」が開催中とあって、鰐comeの駐車場は満車だった。係員に誘導され向かい側の線路沿いの駐車場に停める。ロードを取り出し、すぐに大鰐の街を走る。

青空が美しく風も心地よい。ロードは碇ヶ関の方には向かわず、何かに惹きつけられるように急な坂を上り始めた。

 

昨年閉店した「さかえ食堂」の前を通る。ここの激坂を走り終えた後は、「さかえ食堂」でカツカレーを食うのが定番だった。

ペンションが立ち並ぶあたりに来ると、ひっくり返りそうな激坂になる。スピードがゼロになって落車する前に足をつく。立ちゴケでも骨を折る可能性がある。

ただ、激坂の途中で足をついてしまえば、再び走り始めることはできない。私はリフト乗り場のところまでロードを引きながら歩き、その場にロードを置いた。そして、下界の景色を眺めた。

 

 

それにしてもなんという激坂だろう。しかし、7〜8年前は、この激坂を一度も足をつかずに頂上のホテルまで走り上ったのだ。

下界とは反対のリフトの遥か上を見上げる。緑の木々の上に青空が見えた。

 

私は再びロードを漕ぎ始めた。上るのは無謀だとわかっていたが、少しだけ頑張ってみよう。

昔は「足をつかないこと」とか「3回までは足をついても良い」などルールを設けて上った。今はそんなルールを作ったところでなんの意味もないが、安全のためのルールを作った。

「前後に車が近づく音が聞こえたら、すぐに足をつく」「苦しくなったら何回足をついても良い」「苦しくなって走り出せないようなら歩いても良い」

最初からこんなゆるゆるルールを作れば、多少は上れるかもしれない。しかし、いくらルールが緩くても苦しいものは苦しい。予想以上に苦しい。

 

ありがとうございます。遠慮なく止まります。

 

あと4km。歩いても上れそうな距離だ。

ゆっくり走ったり、歩いたりを繰り返す。ゴルフシーズンのせいか車の往来も多く、その都度足をつく。

しかし考えてみれば、還暦を迎えて1年以上が経った。日頃も全然走れてない。体重も増量サービスの日々。マイナスの材料しかない。

還暦を過ぎたオッさんが、こんな激坂を上ろうとすること自体が間違っているのだ。

 

 

ゆっくり走ったり歩いたり、歩いたり歩いたりを繰り返し、あと2kmのところまで来た。

汗が止まらない。鼻水も止まらない。なぜか涙も流れてくる。身体中の体液が噴出している。たぶん妖怪のような顔をしているだろう。

立ち止まってタオルで拭こうと思ったら、タオルを忘れていた。そういえば、手にグローブもはめていなかった。やはり老化は進んでいる。

 

空が近づいてきた。

チャリの先輩たちと走ってた頃、よくチィ先輩が「弘樹!頑張れ!空が近づいてきたよ!」と言った。

上っていくと、周りを囲んでいた山々が低くなり空の見える範囲が広くなってくる。そう、空が近づいてくるのだ。

視界の向こうに八甲田の山が見えた。

 

 

頂上に着いた。

無理だと思ったが、上りきることが出来た。

しかし、達成感は全然なかった。むしろヤラれた感の方が強かった。

それでも絶望感はなく、ちょっとだけ恥ずかしい爽快感があった。

暑さで地平線はやや霞んではいたが、津軽富士がはっきりと見えた。

 

 

頭がボーっとして何も考えることができない。

激坂を上ることに何かしら意味を持っていたわけではない。5分の1ほどは歩いたし。足をつかずに上り切った頃の、倍の時間はかかっただろう。

それでも自分の脚だけで上り切ったのは間違いはない。それだけで良しとしよう。

 

帰り際、疲れ切ったオッさんをじっと見つめるヤギがいた。

ヤギはオッさんの顔を見て言った。

 

 

「オメエ〜〜 おせ〜〜」

確か、前も同じことを言われた。

 

温泉に浸からずに帰ろう。晩御飯の支度をしなきゃ。

 

 


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