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2023-05-20

ツール・ド・ツガル / 最後の追悼ライド『ビーチにしめや』


 

新寺町から常盤坂を抜け、やがて岩木川沿いの路に入ると、新緑に匂いが身体の中に入り込んできた。

西目屋へと向かう路は、時折ダンプカーは通るが、国道ほどの交通量もなく、路面状態も良いので走りやすい路だ。

 

先月末、津軽富士見湖まで走ったあとは全く走れてなかった。

いつものシーズンであれば、ゴールデンウィーク辺りには必ず酸ヶ湯温泉までヒルクライムしていた。路の両側に残る雪壁の前で、写真を撮るのが常となっていた。

(よし、天気も悪くなさそうだし、酸ヶ湯まで走るか)

そう思い立ったが、窓の外を見ると木々が結構揺れている。風が強そうだ。でもいつもの西からの風であれば、酸ヶ湯まで上るのは追い風となって有利なはずだ。

念のためPCで天気予報を見てみる。南東の風。珍しく東寄りの風だった。酸ヶ湯クライムにはあまり向いていない。

(どうすっかなあ。そうだ、まだひとつ残っていたんだ…)

 

一昨年に妻が亡くなった後、一緒に走った路を「追悼ライド」ツーリングしていた。

十和田湖や酸ヶ湯温泉、十三湖などの「追悼ライド」をしていたが、最後に残っていたのが「西目屋」だった。

これまでの距離のあるツーリング先に比べて、最後に残っていたのが「西目屋」というのは随分と近場の印象だが、最後にしていたのには理由があった。

それは、妻の初めてのツーリングが「西目屋」だったからだ。つまり、初めて一緒に走ったのが「西目屋」へのツーリングだった。

そしてそれは、ちょうど10年前の5月だった。

 

私がロードバイクを始めて、その翌年くらいに妻が「自分も乗ってみたい」と言い出した。

彼女が運動音痴なのは知っていた。さすがにロードは危ないかもしれない。でもMTBだったら大丈夫だろう。

タイミング良く、百石町展示館のH山さんがMTBを譲ってくれるという話があった。青いPEUGEOT(プジョー)のMTBだった。

サイクルジャージを持っていなかった妻は、私のヴィンテージのNIKEのジャージを着た。

 

10年前と同じように目屋の旧道を走る。

旧道は狭いが両側に古い家屋が点在し、趣のある路だ。

岩木川沿いを走ると次第に川と路との高低差が大きくなり、やがて川や田畑を見下ろすような地形へと変化する。

まるで箱庭のようなその風景が好きで、私は西目屋へライドするときは必ずこの旧道を走った。

 

目屋の箱庭

 

この辺りは、正確に言えばまだ「東目屋」であって、住所的には「弘前市」である。

ただ、弘前の街中に住む者にとっては、東目屋も西目屋もひとつの「目屋」というイメージだ。

しばらく走ると「西目屋村」の標識が現れる。

 

10年前、この辺りで立ち止まって妻が言った。

「このお店、確か〇〇ちゃんのウチなんだよね」

目の前には、いかにも「古くからある田舎の商店」という佇まいの建物があって、〇〇ちゃんというのは高校の同級生らしかった。

そのお店は10年後の現在も営業をしていた。

 

そこからほんの数分で『道の駅 津軽白神 ビーチにしめや』に着いた。

天気の良い土曜日とあって、道の駅は随分と賑わっていた。駐車場にはたくさんの車と、数台の大型バイクが停まっていた。

 

産直施設として以前から人気のあった『ビーチにしめや』だったが、平成29年に県内28番目の道の駅「津軽白神」として登録された。

世界遺産の白神山地、水陸両用のバスで有名な津軽ダムなどの観光資源を持つこの道の駅は、津軽の奥地にありながらいつも賑わいを見せている。

建物の中には食堂や珈琲専門店、産直販売店があり、アウトドアブランド「モンベル」の売り場も併設されている。

とくに「白神生はちみつ」がトッピングされたジェラードの店は人気で、いつも家族連れやカップルが列をなしている。

(食べようかな)と思ったが、サイクルジャージ姿のオッさんが一人でジェラードを食べるのもなんだかな…

結局、外にあった自販機でスポーツドリンクを飲みながら休憩タイム。

 

10年前のあの日は、二人で何を食べただろう。

中の食堂で、山菜そばを食べたような気もするし、すぐ近所にある「カフェ ルーラル」でオムライスを食べたような気もするが、はっきり覚えていなかった。

 

2013年 5月の「BeecH にしめや」

 

2023年 5月の「ビーチ にしめや」

 

スポーツドリンクを飲み干した私は、すぐに来た路を引き返した。

田んぼには少しずつ水が張られ、田植えも始まっていた。

 

いつか娘と一緒に「ビーチ にしめや」に来ようかな…と思ったが、そういえば娘も妻に似て運動音痴だったっけ。

でも最近は通学用に買ったママチャリで街中を走ってるし、ママチャリでもいいか。変速もついてるし。

 

東目屋に差しかかると、来る時は雲に顔を隠していた岩木山が、美しい新緑の姿を見せていた。

 

 

 

 

 


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