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2019-07-13

豪快すぎる「千畳敷のおかちゃ定食」 / 千畳敷 『食堂・民宿 田中』


 

「あんつか、休んでいぎへ〜」

千畳敷に着いた途端、向かい合う店のおばちゃんたちから、客引きの声が飛び交う。私は、一瞬知らぬふりをして、そのまま岩場の方まで下りた。が、すぐに引き返してロードをコンクリートの壁に立てかけた。

 

『食堂・民宿 田中』

 

「どっから来たの〜?」「なんか食べでいがねが〜?」

と、容赦ないおばちゃんの口撃にたじろぐ。ついさっきまでいた「北金ケ沢」の音のない世界が嘘のようだ。

私は、積極果敢な口撃をかけてくるおばちゃんの店の方に入った。向かい合う店のどちらでも良かったのだが、こっちの『食堂・民宿 田中』を選んだのには訳があった。

5年前に、まだ1年生だった娘を連れて西海岸ドライブに来たときに、この『食堂・民宿 田中』で昼飯を食べた。そのときのことを思い出しながら、昼飯を食べようと思ったからだ。

ホワイトボードにでかでかと「生ウニ丼」と書かれていたが、気分はウニではなかった。「岩のりラーメン」にも惹かれたが、「イカ刺し定食」も良い。時価となっている。

「おばちゃん、イカ刺し定食いくら?」と、聞くと「1100円だけど、1000円さマケるよ〜」

(お、マケてくれるならイカ刺しにしよう!…ん?でも考えてみれば時価なんだから、今日はもともと1000円なんじゃないの?)などと思いながら、結局「イカ刺し定食」を注文した。

「おばちゃんの写真撮ってもいいが〜? 津軽の美人を撮って歩いてらのさ〜」と言うと、おばちゃんはまんざらでもなさそうに「あら〜髪もうちょっと、ちゃんとやってくればいがったの〜」と、笑顔でモデルになってくれた。

 

2019年の夏
5年前の夏

5年前に娘を撮ったときと、店の雰囲気は全く変わっていなかった。

私が弘前から来たこと。弘前で洋服屋をやっていること…などを話したら、おばちゃんは、この千畳敷で53年も前からこの店をやってきたことを、とくとくと語ってくれた。

そして「商売はいつまでたっても勉強、常に勉強。それに尽きるんだよ」と、一生懸命に話してくれた。洋服屋になってすでに35年以上経っている自分であったが、おばちゃんの話は妙に心にズシンときた。

「イカ刺し、お待ちどうさま〜」

少しばかり難しい話をしていたテーブルに「イカ刺し定食」が運ばれてきた。メインは「イカ刺し」と「じゃっぱ汁」だ。それに、「イカの和え物」「つるつるわかめ」「漬け物」などの小鉢が並ぶ。

さっそくいただこうとしたら、「今日、泊まりの客いて、これもあるはんで食べへ」と、なんと「鯛の塩焼き」を持ってきてくれた。

(お〜いきなり豪華になったなあ〜)と思いながら、お礼を言う。

 

右下がじゃっぱ汁。その上が鯛の塩焼き。

鯛の塩焼きは、泊まり客のために用意していたものの残りだろうか。少し冷めてはいたが、美味しかった。

ご飯を半分くらい食べた頃に、おばちゃんが言った。

「あんた、イカの塩辛好ぎだが?」「あ!好きですよ。鰺ヶ沢の生まれだし」と返すと、おばちゃんは嬉しそうな顔で「へば、これ食べへ〜」と瓶詰めされた「イカの塩辛」をご飯の入った茶碗にドバドバと開け始めた。

(ちょ!おばちゃん!そしたに塩辛入れれば、ご飯足りねじゃ〜)と、思ったこちらの気持ちを察するように、「ご飯もおかわりして、いいはんでの〜」と豪快に笑う。

塩辛はもちろん、塩焼きもじゃっぱ汁も西津軽の味付けらしく、なかなかいい感じに塩っぱい。これは、いくらご飯があったところで足りないくらいだが、これ以上ご飯を食べたら身体が重くて鰺ヶ沢まで走る自信がない。

私は塩辛とご飯を一対一の比率で食べた。もはや、塩辛がメインで、イカ刺しはどこへ行ったやら。そして、さらにおばちゃんは豪快な追い打ちをかけてきた!

「あんた、ナマゴはどんだ。好ぎだが?」「あ、ナマコ。大好きです!」と言うと、これまた嬉しそうに「目の前の海で採れたばかりのナマゴ!食いへ!」

 

バカでかナマコ

 

目の前に現れたのは、見たことのないバカでかいナマコ。よく見る黒っぽいのではなく、ピンク色をしたナマコだ。居酒屋あたりでは、2〜3mmほどに薄く切って、酢醤油で出されることが多いが、なんと厚さが1cmくらいの分厚くデカいナマコ!

一口食べると飲み込むまでメチャメチャ時間がかかる。もうすでにイカ刺しの存在は忘れかけていた。もはやこれは「イカ刺し定食」ではない。「千畳敷のおかちゃ定食」だ。

 

「たげ、メがったよ!まだ来るはんで!」

なんとかすべてを平らげた私は、ロードバイクにまたがり、おばちゃんに手を振った。おばちゃんは、最後まで豪快に笑っていた。

 

ツーリングではなく、ドライブでもなく、五能線に乗って千畳敷で降りる。そして片手ビールに海を見ながら塩辛とナマコを食べる。それが正解かも。

脚の疲れはなくなっていたが、顎が疲れていた。

 

『食堂・民宿 田中』の情報。

 

千畳敷 『食堂・民宿 田中』

青森県西津軽郡深浦町大字北金ケ沢字榊原138-5 (→地図

電話:0173-76-2977

定休日や営業時間は、時期や状況によって異なるとのこと。

 


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