ツール・ド・ツガル / 弘前のアイスクリーム屋を巡る
娘を登校させた後、すぐロングライドに出発しようとしたが、昨晩遅くまで音楽を聴いていたせいか、どうにも眠い。
(少しだけ寝させてくれ)と布団をかぶり、目が覚めたら10時だった。
休みの日はツーリングしなければならない。そして少しでも身体を絞らなければならない。そんな変なプレッシャーがあるのだろうか。
しかし、そんな変なプレッシャーに屈することなく、再び布団をかぶった。目覚めたら11時だった。
朝飯(昼飯?)を食べることもなく自宅でゴロゴロしていたが、(このままではマズいかなあ)と思い直し、サイクルジャージを着た。
さて、どこに行こうか。昼も過ぎ、もはやロングは無理。かといって、岩木山神社やビーチ西目屋という気分でもない。
私は着ていたジャージを脱いで、Tシャツとハーフパンツに着替えた。ウェストバッグにX100Fを仕込む。久しぶりに弘前の街中をロードで走ってみようと思った。
津軽を東西南北走りながら、写真に収めることをライフワークにしてきたが、その中心にある弘前の街を撮るということは、あまりなかった。
以前から、ロードに乗りながら、ゆっくりと弘前の街中を撮ってみようとは思っていたのだが、なんとなくいつも後回しになっていた。
(そういえば、レンガ倉庫の現代美術館がオープンしたんだっけ。行ってみようか)
代官町から銀座街(まるで東京の地名のようだ)を抜けて、吉野町に下っていくとレンガ層のの屋根が、シャンパンゴールドに輝いている。
入り口に警備員がいた。なぜか少し躊躇してそのまま通り過ぎた。話題の美術館であることは間違いないし、真向かいの保育園に毎日のように娘を連れてきていたので思い入れもある建物だった。
よくわからないけど、トレンドに乗るのを躊躇ったのかもしれない。日々、トレンドを追う仕事をしているからだろうか。30数年も何が流行るか追い続けてきたからだろうか。
休みの日などは、世のトレンドから離れたくなるときがある。
私はそのまま最勝院、新寺町と走り、そのまま常盤坂へと走り抜けた。
途中、気になる光景がないわけではなかったが、ロードを停めてカメラを取り出すということもしなかった。もしかしたら、今日は弘前の街を撮るという気分ではないのかもしれぬ。
朝飯(昼飯)も食べていなかったので、このまま適当に走り、どこかでラーメンでも食べようか。そんなことを考えながらゆっくり走っていると、視界の向こうに看板が見えた。
アイス屋さんだった。

そういえばこの通りに昔ながらのアイスクリーム屋があった。そう、悪戸のアイスといえば、この「相馬アイスクリーム商店」のことだ。
私は迷うことなく店先にロードを停め、店内に入った。ずっと前に訪れたことがあったが、そのときよりも店内が随分と小綺麗になっている気がした。
いろんな種類があるが、私は9割ほどの確率で「あずきアイス」を買う。値段は100円。

昔ながらのパッケージが良い。しかも、キャンディーじゃなくキャンデーなのが、ジャイゴ育ちの自分にはしっくりくる。
味も歯ごたえも、昔からのアイスキャンデーである。
店の外で食べながら(こんな場所で商売になるのかな?)と思い耽っていたら、次から次とお客さんがやってくる。やっぱり商品が良ければ、お客さんは来てくれるのだなあ。
アイスを食べ終えた後、そのまま相馬に向かい岩木川に出た。
アイスを食べたせいか腹はとりあえず落ち着いたので、昼飯はナシにしてそのまま走ることにした。
岩木川沿いを走るのも久しぶりだ。岩木山もくっきりと見えていた。
川沿いを走りながら、ふと思った。(たしか岩木橋のたもとにも、アイス屋があったよな)
アイスを食べたばかりだったのに、私は新しいアイス屋に向かっていた。


「小山内冷菓店」の建物はかなり年季が入っていて、店の中はとても趣があった。店内で食べられる場所があるのだが、昔の食堂のような雰囲気。
店主の方に訊いてみると、もうアイス屋を始めてかれこれ60〜70年だと話していた。自分が3代目なのだとか。
バナナアイスにも惹かれたが、ここまで来たら「あずきアイス」を食べ比べよう。

ここのは、「あずきキャンディー」だった。ジャイゴわらしにすれば、ちょっと都会。先ほどのよりは少し小ぶりで、細長い三角形のカタチ。80円。
食感が少しだけ柔らかい感じがした。ミルク成分が多いのだろうか。
走っている距離が短いとはいえ、少しは汗もかいているのだろう。2本目のあずきアイスもあっという間に食べ終えて、私は店の人にお礼を言って再び走り出した。
実は、2本目を食べいるとき、すでに次の目的地は決まっていた。
弘前公園北門の近くにあるアイス屋さんだ。
新寺町方面から悪戸、そして岩木川沿い、そして弘前公園へと、気の向くままに走ったルートに古くからのアイス屋がある。これは偶然だろうか?いや、これはやはり3軒目も行くべきだ。
現代美術館は素通りしたくせに、昔ながらのアイス屋を3軒もハシゴするとは、なんと変な奴なのだろう。
贅沢な素材を使ったコダワリのアイス。北欧の器にのせたオシャレなアイス。きっと美味しいアイスを提供する人気の店は、弘前にもたくさんあるだろう。
しかし、ずーっと昔からある地元の人たちに愛されてきたアイスもまた、高級アイスに負けず美味しいからこそ、こうして残り続けているのだ。
私は、なにか変な信念を持って、次の店に向かいペダルを回していた。
ラーメン屋の山忠の前を通り、細い道を抜け公園の北側に出る。公園の濠沿いの道に、そのアイス屋はあった。

カランカランアイスでも有名な「藤田アイス店」
信念を保ち続けていた私は、迷うことなく「あずきアイス」を頼むことにしていた。飽きたということはない。ここは食べ比べるべきなのだ。
ここは、カランカランアイスをメインにしているので、気の棒ではなく、コーンに乗っているタイプだった。
メインはやっぱりリンゴシャーベットだ。他にバナナやイチゴ。しそ!というのもあった。どれも130円。
あずきは….無かった。
なんと、信念を持ち続けて3軒目まで来たのに、あずきは無かったのである。
しかし、私はとくに凹むこともなく、リンゴシャーベットを頼んだ。

もしかしたら心のどこかで、3本目があずきでなくてホッとしていたのかもしれない。
信念など、あっという間に崩れ去るものなのである。
そんなことを思いながら、昼飯をまだ食べていないことを思い出したが、私の腹は3個のアイスで膨れていた。
身体を絞るどころの話ではない。
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