ツール・ド・ツガル / 『お食事処たっぴ』の「あおさラーメン」と 激坂クライム
龍飛埼灯台から少し坂を下ると、「アァア〜ア〜」 と石川さゆりのファルセットボイスが聴こえてくる。
有名な「津軽海峡冬景色」の歌碑の向かい側に『お食事処たっぴ』があった。「龍飛」「竜飛」と迷う地名だが、ひらがなであれば問題ない。いいネーミングだ。
ここに食堂があったのは知っていたが、入店は初。
前回書いていたが、気分は「ウニ丼」ではなく「ラーメン」だった。壁に貼られてあるメニューを見る。気分ではなかったが、念のため「ウニ丼」があるかをチェック。
「ウニ丼 2800円!」なかなかのお値段。ここはやはり観光地プライスか。その隣にラーメンのメニューがずらりと並んでいた。
龍飛らしく、海鮮系のラーメンメニューが充実している。「岩のり」「ふのり」「あおさ」と食べ比べたくなるような並び。迷った末、「あおさラーメン」を注文した。
店内には、若いチャリダーが二人(先ほど上りで私を軽々と追い越して行った若者だ)、年配の夫婦と昼時にしては空いていた。いつもの夏であれば、県外からの客でもっと賑わっているのかもしれない。
県内の経済を回すために、「ウニ丼」を奮発すべきだったか…と一瞬思ったりもしたが、ここは素直に食べたいものを食べよう。身体が水&塩分を欲していた。
「お待ちどうさま〜」
たっぷりのあおさに、でかい耳のついたホタテがゴロンと2個入っていた。
これで840円(だったかな)なら、そんな高くない。どうやら観光地プライスは丼モノだけのようで、むしろ、ラーメンはコスパがいいのかもしれない。
スープを一口。身体の中にギュンギュンと染み込んでいくのがわかる。スープそのものの味はごく普通だけど、あおさやホタテの出汁が出ていて十分美味い。
麺もごく普通の細麺ではあるが、磯の香りたっぷりのあおさが良い具合に絡んでくれる。そして、なんといっても耳付きのホタテは大好物。
というわけで、最高に食べ応えのあるラーメンとなりました。
店舗情報
『お食事処 たっぴ』
東津軽郡外ヶ浜町三厩龍浜54-73
お腹も気持ちも満足になったところで、復路出発。
龍飛の高台から少し下ると、すぐに「竜泊ライン」の交差点がある。そして、そこからは一気にヒルクライムの始まりとなる。
それにしても、昼飯の直後での激坂クライムはちょっとヤバい。次回からは、もうちょっと身体を考えたスケジュールにしなきゃ。
どうせ、しんどいのはわかりきっているのだから、あまり無理せずに淡々と脚を回すことにした。美味しかったラーメンが、きちんとお腹の中にいてくれるように。
小泊側から上る路は九十九折りになっており、山や海の景色を楽しむことができる。しかし、龍飛側からの路は、木々に覆われていてあまりパッとしない。
時おり木々の間から日本海が見えるが、どっちにしろゼイゼイと漕いでいるので、景色を楽しむ余裕などないのだ。
いや、景色を楽しむどころか、道端のところどころにある動物の糞らしきものが気にかかる。おそらく猿だろう。クマじゃないと思うんだけど。
一番高い地点にある「眺瞰台」までは、およそ6.5km。
「眺瞰台」まで◯km、の標識があったと記憶していたが、目の前に現れるのは「10%」の勾配を示す黄色の標識ばかり。
太腿も張りはじめていた。ここで無理に負担をかけても良い結果を生まないことは、過去の失態からわかっている。あまり踏み込まずに、できるだけ大きく円を描くように脚を回した。
歌を歌うこともできず無言になって上り続けていると、黄色ではなく青い標識が見えた。
「眺瞰台 2km」 (よし!あと2kmだ!)
少しだけチカラがみなぎってきた。脚と腰の筋肉をほぐすためにダンシングでペダルを回す。ダンシングをすると、気持ちも高ぶってくる。
視界の遥か向こう、高いところの頂に小さな建物が見えた。「眺瞰台」だ。
さらにチカラが湧いてきた。気持ちも高まってきた。あと少し。
少しだけ斜度が緩くなった道で、ここぞとばかりに脚を回す。大きなカーブを右に回る。坂が現れた。
「10%」
(ふっ…)
ここの激坂は、最後まで甘くなかった。
自分の脚で上りきった「眺瞰台」から望む景色は格別だ。
日本海と津軽海峡を一望できる。ついさっきまでいた龍飛埼灯台も小さく見えた。
龍飛側から「竜泊ライン」の激坂を上りきると、津軽半島北側一周を終えたような気持ちになる。
それは、いつものことなのだが、実はここを下ってからがキツいのだ。
「道の駅ポントマリ」から小泊へ抜ける峠。小泊から脇元集落へ抜ける峠。そして最後に十三湖高原と、いくつかの峠を越えなければならない。
これがまた、エネルギーを使い果たした太腿に追い打ちをかける。
しかし、目の前には美しく広がる日本海が見える。
海面がキラキラと輝いていた。私は美しい風景を愛でながら、焦らずにゆっくりゆっくりと脚を回した。
そのとき、どこからともなく音が聴こえてきた。
「….つまの…が、発見されま…」
よく聞き取れないが、どうやら町の情報がどこかに設置されているスピーカーから流れているらしい。
(誰かの奥さんが行方不明にでもなっていて、どこかで発見されたのだろうか…)
再び音が流れてきた。
「クマの糞が、発見されました。ご注意ください」
エネルギーの切れかかっていた脚は、何倍にもなってグルグルと回った。
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