ツール・ド・ツガル / 龍飛埼 〜ウニ丼を食べ損ねた日〜
天気予報では、津軽一帯は快晴のマークが並んでいたが、薄曇りでどんよりとしていた。
科学が発達した現代でも、豪雨災害を予測することが難しい近年の天気。快晴の予報が、少し雲のある天気に変わったとしても、しょうがない。
しかし、長い距離を走るのであれば、快晴よりは少しぐらい雲がある方が負担が少なそうだ。
7月のうちに、龍飛を走ってみたいと思っていた。毎年、夏にロードバイクで一度、写真を撮るために冬に一度、訪れている。
数年前は弘前から自走で200kmを走ったりもしたが、今の自分の体力では全く自信がない。半分の100kmでもどうだろうか。というのも、龍飛へ行くためには、標高差が500mもある「竜泊ライン」という激坂の峠を越えなければならないのだ。
海沿いから「竜泊ライン」を走る時計回りにするか、山中を走り三国峠を越えて今別に出る反時計回りにするか。予報によると「津軽海峡の海沿いは東からの強い風」とあったので、反時計回りを選択した。
十三湖の駐車場に車を置き、蟹田方面に向かって出発。
海に比べ山は大丈夫だろう、と思っていた。が、その予想は大きく外れることになった。東に向かって走っている間、終始、強い向かい風がこのタルんだ身体を襲った。
(こりゃ選択を間違ったかな〜) と思いながらも引き返す勇気もなく、ただ黙々と走り続けた。
春先に上った「酸ヶ湯」「ロイヤルの激坂」同様、「龍飛」も、年に一度は走ることにしている。
「長距離を走ること、激坂を上ること」は、年々厳しくなっていることを感じていた。何もせずに、日々、食べて、仕事して、飲んで、寝る。を繰り返していれば、身体がだらしなくなっていくことは明らかだった。
かといって、食事を制限して、お酒も飲まずに健康的に過ごす…というのも、意志が強ければとっくに実践していたわけで。
小さい頃から、野球やバスケットボールなどの球技は大好きだったし、けっこう得意だったが、マラソンなどの持久系はまるっきしダメ。
なのに、何故ロードバイクで100km走ったり、激坂上ったりするのだろう。美しい景色を楽しんだり、訪れた地での美味しい食を味わったり、といろんな楽しみがあるからなのだろう。
でも、どこかに自分の老いに対する挑戦があるような気がするのだ。
トンネルが見えてきた。
十三湖から蟹田へ向かう道中に、どうして「十和田湖まで109km」という案内があるのだろうか。「青森まで◯km」ならまだわかる。この道を走るたびにいつも思う。
蟹田の数キロ手前で道を左折、「三国峠」へ向かう。向かい風が収まったので、ようやく脚が回り始めた。
この峠を越えるのもキツいイメージを持っていたが、比較的スムーズに上りきった。あとは海まで下り基調で真っしぐら。
弘前を出たときはどんよりとしていた空だったが、津軽海峡の空は晴れ渡っていた。
ハンドルに巻きつけていた「G-SHOCK」をみると11時を過ぎていた。
この道を走るのであれば、やはり「漁師の店 ささ木」で昼飯を食べることにしよう。( 3年前のブログ → 「ツール・ド・ツガル 「ささ木」の生ウニ丼」)
海岸沿いの一本道の向こうに、見覚えのある小さな食堂が見えた。でも、以前見た食堂の記憶とは何かが違っていた。
店の前に出ているはずの、のぼり旗がなかったのだ。暖簾も出ていない。
しかし、中を覗くと客らしい姿が3人ほど見える。私は店の隣にあった物置にロードを立てかけた。すると、物置の中から音が聞こえたので、窓から覗き込むと、いつものオバちゃんの顔があった。
「あれ、オバちゃん!今日、休みなの?」
「あ〜今日限定だけでさあ。予約分だけだのさあ。ごめんね〜」
「また来るはんで〜」
と、挨拶をして、私は龍飛に向かった。
名物のウニ丼を食べ損ねたが、どういうわけか思ったほどのショックはなかった。もしかしたら、この日は最初からウニ丼の気分ではなかったのかもしれない。
ロングライドで海に行くと、ウニ丼とか海鮮丼とかを食べることは多いのだが、長い距離を走ったときは身体がウニ丼を欲しているかといえば、実はそうでもない。
前回も十三湖で「しじみラーメン」を食べたけど、身体にギュ〜っと染み入る味のラーメンの方が良かったりするのだ。身体が水分と塩分を欲してるからだろう。
龍飛まで3kmほどの、いつものところに来た。
身体の負担を少なくするためにカメラは持参していなかったので、スマホで漁師小屋を撮る。
腐食を防ぐためなのだろうか、真っ黒に塗られたコールタールの匂いがあたりに漂っていた。
海抜1mほどの海岸沿いの道から、龍飛埼灯台のある高台までヒルクライム。
これがなかなかの急坂である。
キレイな紫陽花が道の両脇に咲いている。
最後の坂を上りきり、高台の駐車場に着いた。
そこからは、ロードを引きながら灯台のあるところまで歩いて登った。
青い空に白い灯台が映える。
その灯台の名前は、「龍飛崎」でも「竜飛崎」でも、「竜飛岬」でもなく、「龍飛埼」灯台だった。
残り50km。あの激坂も待っている。
美味しい龍飛のラーメンはあるだろうか。
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