ツール・ド・ツガル / 城ヶ倉大橋 『八甲田そば処 きこり』の「天ざる」はスゴい
長い坂を上りきり、「八甲田のわき水」で水分補給をし、最後の克雪シェルターを走る。
このシェルタートンネルを抜けると、八甲田連峰が視界に広がる。路も緩やかになり、やがて「城ヶ倉大橋」が見えてくる。
その手前に、店はあった。
いかにも八甲田山の麓にあるという趣の名前、そして店の造り。入り口にディスプレイしてあるデカい鋸の迫力がすごい。
本来ならば、「城ヶ倉大橋」まで行き、橋からの絶景を写真に収め、それからゆっくりと昼飯を食べる…というのが最高のチャリグルメ。
しかし、何年か前の酸ヶ湯ツーリングのときのこと。復路にこの店で蕎麦を食べようと思っていたら早々に店仕舞いしていて、昼飯を食べ損ねたことがあった。なので、開店している往路のうちに食べることにしたのだ。
走っているときは、「天ぷら蕎麦」にしようか、「天ざる」にしようかと迷っているが、ヒルクライムすれば身体は火照り、100%の確率で「天ざる」になっている。
店の中に入ると客が5人ほどいた。コロナ禍にあっても繁盛しているようだ。
誰もが「天ざる」を食べ、または待っているようだった。私も火照った身体に素直に従い「天ざる」を注文した。しばらく時間がかかりそうだったので、私は店のまわりを散歩し休憩することにした。
犬小屋でワンコが気持ち良さそうに寝ている。この時期の山は、新緑から濃い緑に変わりつつあり、空気も美味い。
店の中に戻ると、老父婦の二人はすでに食べ終え、他の三人も美味しそうに蕎麦をすすっていた。店主のおじさんは、マスクをして汗をかきながら私の天ぷらを揚げ始めていた。
私以外の客が皆食べ終え、やがて店の中の客が私一人になると、おじさんがいきなり外に出て行った。3分くらいすると、何やら山菜のようなものを手にして戻ってきた。
「山菜仕入れてきたんですか?」 と聞くと、
「んだ。ウドなくなったはんで、摘んできた」とおじさん。
この会話をきっかけに、私は店主のおじさんといろいろな話をし始めた。幸い、私の後に客は誰も来なかった。
「おじさん、この店の上に住んでるんですか?」 「あ、んだよ」
「へぇ〜!かっこいいですね!
「週に1〜2回くらい?」 「なもなも、ほぼ毎日行ってるよ。黒石のスーパーさ行って、一日に1回は若いネエちゃんの顔っこ見ねばまいねっきゃ」
寡黙に天ぷら揚げる職人気質の親父だと思ってたら、
「はいよ、天ざる、お待ちどう」
と目の前に置かれた天ぷらの盛り合わせは、どう見ても「天ざる」の天ぷらの量ではなかった。
「海老、かぼちゃ×2個、なす×2個、さつまいも、えのき茸、しめじ、ピーマン、独活(ウド)、漉油(コシアブラ)」
なんと、9種11点。しかも、街の蕎麦屋ではいただくことが少ない季節の山菜やキノコたちが満載。
何年か前にこの店で「天ざる」を食べたことがあった。そのときすでに、この天ぷらの多さに驚愕していたので、今さら驚くことはなかったが、やはり目の前にすると改めてスゴいボリューム。
蕎麦をすすりながら天ぷらをいただく…というよりは、天ぷらを食べながら蕎麦をたまにすするという方が正しい。それにしても新鮮な山の幸の美味いこと。
つけ汁に蕎麦をつけながら、そして天ぷらもつけながら食べていると、あっという間になくなってしまった。
「おじさん、すいません。つけ汁おかわりもらってもいいですか?」
「あ〜いいけど、血圧上がるや〜」
どうやら血圧の高そうな顔をしていたようだ。おじさんは正しい。
「ごちそうさまでした。また来ます!」
そう言って外に出ると、おじさんも外に出てきた。暖簾を仕舞うらしい。やはり往路で食べといて良かった。
ロードに引っ掛けてあったヘルメットを被ると、
「わい、あんた自転車で来たんだが!どっから来たの?」 「弘前からだけど、今日は黒石から上ってきました」
それにしても、汗だくのジャージ姿だったんだけど。
「気をつけでの〜」 「ごちそうさまでした!」
『きこり』をあとにして、路を下ると「城ヶ倉大橋」が見えてきた。
濃い緑の遥か向こうには、見慣れた山の形が小さく見えていた。
『八甲田そば処 きこり』
青森県青森市荒川字寒水沢150-1
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