ツール・ド・ツガル / 百沢『岩の茶屋』
久しぶりに百沢へ向かう旧道(宮地の造り坂)を上った。
お山参詣の風景で有名な坂だ。今年も県内の夏祭りは、ことごとく中止になっているが、「お山参詣」はあるのだろうか。

宮地造り坂
ここを上ったことのある人であれば、知っていると思うが、この坂の一番高いところに洒落たガーデンがある。建物も北欧風で、よくアウディが停まっている。
この日もアウディが停まっていた。洒落たガーデンが近づくと、いきなり右側から
「頑張って!もう少し行ったところが頂上だはんで!」
と、大きな声がかかった。百沢とは思えぬ真っ赤な洋服を着たご婦人だった。アウディの持ち主と思われる。何度も走っている路だから、もう少し先が一番高いところというのは知っていたが、
「ありがとうございます!」と笑顔で返した。
岩木山神社に到着。
少し腹が減っていた。(おそらく今年もやってないだろうなあ)と思いながら、「なかの食堂」に顔を出して「舞茸ラーメン、やってる?」と訊くと、やはり今年もやってないという答え。ネオン看板や暖簾にある「舞茸そば」は、そろそろ消した方がいいかもだ。
神社を発ち、総合公園に向かう。神社から先に向かうのは、今シーズン何気に初めてだった。
(昼飯はどうしようか…)と思いながら走っていると、向こうにのぼり旗が見えてきた。
『岩の茶屋』という小さな食事処だ。ツーリングの度に何度も通ったことはあるが、立ち寄ったことはない。チャリツーリングとしては距離的に中途半端だった。
店の前に来ると、「木曜日店休」の張り紙がある。しかし、この日は木曜日だった。
「こんにちは。おばちゃん、木曜日って休みなんじゃないの?」と、店の中にいたおばちゃんに声をかけた。
「あ〜んだんだけどさ、たまたま店に来たらお客さん来てさ、開けでらのさ。どんだ?食べでいがねが?」
「あ〜そうすれば、もう少し上まで走ってきてから、帰りに寄ります。何時に閉めますか?」
「んだの〜2時半には帰るがな」「そうすれば、1時半までに来ます!」
時計を見ると12時45分だった。
13時半までに戻るなら、どこまで行けるだろうか。とりあえず、総合公園を目指す。
百沢からスカイラインまでの道のりは、延々と長い坂が続くけれど、キツすぎずユルすぎずの坂で、身体の鍛錬にはちょうど良い。呼吸を意識しながら淡々と上り続けていると、すぐに総合公園に着いた。
総合公園から見る岩木山は頂上が隠れそうで、日頃見る山のカタチとは変わっていた。
あらかじめ買っておいたスポーツドリンクを飲む。時計を見ると、12時53分だった。もう少し上れそうだ。先に地蔵茶屋があるはずだ。そこまで行ってみよう。
これまでと同じような勾配の坂道、そして、これまでと同じような風景の中を走る。
地蔵茶屋が見えてきた。
ここの茶屋で昼飯を食べてもいいのだが、さっきの茶屋でおばちゃんをと約束をした以上は、13時半までに戻らなければならない。
時計を見ると、13時3分だった。もう少し上っても大丈夫か。私は嶽温泉を目指した。少しだけ勾配のキツい坂があるが、その坂を越えれば路は緩くなる。
遠くに嶽温泉の看板が見えてきた。時間はわからなかったが、もう少し行けそうな気がして、私はそのまま看板を通り過ぎた。
路の勾配がほとんどなくなったところで、脚を廻した。引き足は使えなかったが、スピードが落ちないように脚を廻した。
「津軽岩木スカイライン」の青いゲートが見えてきた。

スカイライン向かい側にある「アスリートの路」にて
1ヶ月ほど前は桜のトンネルだったこの路も、緑のトンネルに様変わりしている。時計を見ると、13時15分だった。
私は残っていたスポーツドリンクを飲み干し、少しだけ休憩してから来たばかりの路を走り出した。
『岩の茶屋』に到着。13時29分。なんとか間に合った。
よく見ると『岩の茶屋』は「いしのちゃや」と読むらしい。おばちゃんは一人で待っていた。
「お疲れさま〜。どこまで行ってきたの?岩木山の八合目まで上ってきたんだが?」
いやいや、おばちゃん。もし俺がヒルクライムのチャンプだったとしても、この45分間で八合目往復はありえないっす。車でも無理っす。いや、それよりも自分をチャンプに例えることが間違いだ。
メニューを見ると蕎麦とうどんがオススメのようだ。天ぷらそばが550円、山菜そばも550円。天ぷら山菜そばができるか聞くと、600円でできるとのことだった。50円増しで食べれるなら…ということで、それを注文した。
山の中にポツンとある茶屋ではあるが、感染対策はしっかりとしている。たまに保健所がチェックしにくるのだそうだ。
「あんた、今月のレースに出るんだが?こないだポスター持って来てさ」「いや、今年は出ないです」
おそらくモヒカンH田さんが、ヒルクラのポスターを持って来たのだろう。
「はい、天ぷら山菜そば、どうぞ〜」
天ぷらは思っていたよりも小さく、山菜も少なめ。先日の『八甲田そば処 きこり』の「天ざる」とは、正反対の見た目だった。
それでも、出汁具合のちょうど良いツユが、走った後の身体に沁み渡り、ぷつぷつと切れる津軽そばが美味い。スカイライン往復くらいであれば、このくらいの量がちょうどよいのだろう。
「どうもありがとう。レース頑張りへの〜」
おばちゃん。さっきも言ったけど、レースには出ません。でも美味しい蕎麦、ありがとう!
それにしても、今日は「おばちゃんエール」のツーリングだったなあ。
岩の茶屋
青森県弘前市百沢裾野番外地
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