『松田聖子』と『トマトとイワシのパスタ』
高校を卒業した後、仙台で一浪した。南光台(現在の泉区)にある下宿だった。
デカいラジカセとお気に入りのカセットテープを20本ほど持っていった。
「The King’s Singers」の『エレミアの哀歌』や「Pro Cantione Antiqua」の『バードの5声のミサ』など、今でも聴いたり歌ったりすることもあるルネサンスの曲。
それらのカセットテープに混じって、「オフコース」や「松山千春」など、今ではあまり聴かなくなった日本のニューミュージックの音源も数本あった。
下宿には予備校生が4人いた。その中に、どうみても40歳くらいに見える山形出身のM君がいた。
めちゃめちゃ野球が上手かった彼とは、よくキャッチボールをしたりして仲が良かった。
M君は、音楽に関しては完全にアイドル志向だった。中でもよく「松田聖子」を聴いていた。
アイドルにはあまり興味がなかった自分だったが、「松田聖子」はちょっとイイなと思っていた。スゴい美人でもなければ、セクスィなスタイルでもない。それが良かったのかもしれない。
でも、圧倒的に可愛く歌も上手かった「石川ひとみ」も好きだった。唯一、アイドルのコンサートに行ったのは「石川ひとみ」だった。仙台駅前エンドーチェーンの屋上だったと思う。
ある日、M君が「松田聖子」のアルバムをテープにダビングしてくれた。
ヒット曲『風立ちぬ』を収めた同名の『風立ちぬ』というアルバムだった。
「松田聖子」はイイな…とは思っていたけど、アイドルの曲を聴くことはないだろうと思ったし、実際聴くのはごくたまにだった。
やがて、なんとか弘前大学に入ることができた自分は、相変わらずルネサンスを聴いていて、そして「大瀧詠一」や「佐野元春」を聴くようになっていた。
アイドルには全く興味がなくなっていたが、「風立ちぬ」だけは何故かたまに聴いていた。
たぶん、どことなく曲に惹かれていたのだろう。勿論アイドルっぽい曲もあったけど、どこか不思議なメロディやお洒落な転調をする曲もあった。
当時は音源がカセットテープしかなかったし、ググるネットもなかった。
『風立ちぬ』に収められている曲の多くが、当時好きだった「大瀧詠一」作曲によるものだと知ったのは、ずいぶん後になってからだった。「財津和夫」や「杉真理」も作曲していた。別のアルバムでは「ユーミン」(呉田軽穂の名で)も数多く作曲している。
「松田聖子」の曲が、なんとなく耳に馴染んだのは、当時よく聴いていたアーティストたちによるものだったからだろう。
今夜は、その『風立ちぬ』を聴きながらパスタを作る。
いつものようにフレッシュなトマトが冷蔵庫にたくさんあった。それを丸ごと2個使う。
たっぷりのオリーブオイルでトマトと乱切りした玉ねぎを炒める。ニンニクもちょびっと。
野菜ブイヨンと赤ワインを足して、グツグツと炒める。
トマトから水分が出てきてイイ感じになったところに、缶詰のイワシをガバッとぶち込む。
ツナでもイイかな?と思ったが、イワシの方がラテンで良い。
パスタは「Barilla」の『CAPELLINI』
この麺は極細なので3分で茹で上がる。トマトと相性が良い。
茹で上がったパスタを市販のトマトソースで和え、先ほどのトマト&イワシたちと一緒にガーッと炒めて、できあがり!
「ウメー!」と娘が叫ぶ。
全然味見しなかったけど、食べてみたらマジ美味い。ビールに合う。最高。
『風立ちぬ』を聴きながら、パスタを食べる。
ふと、山形出身のM君を思い出した。たしか山形大学に入学して、卒業後は保険会社に就職したはずだ。
今は、どうしているのだろうか。
19歳の頃、40歳くらいに見えていた彼は、現在60歳くらいになっているが、はたして今は何歳くらいに見えるのだろう。
たぶん、あの頃とあんまり変わっていないと思う。
私は、松田聖子とM君と3人で、同窓会をしているような気分になって、『トマトとイワシのパスタ』を味わった。
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