最後の会話 「まるかいラーメン」
娘と一緒に「まるかいラーメン」に行ってきた。
「まるかいラーメン」といえば、誰もが知る青森市の老舗のラーメン屋。もちろん自分も何度か足を運んだことはあるが、この日訪れたのは一年以上ぶりのことだった。
この日、7月2日に訪れたのには、理由があった。
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「パパ、最近、まるかいのラーメン食べたことある?」
「ん?最近食べてないな。何ヶ月か前に食べたかな?」
「どうだった?」
「うん、美味しかったよ。最近、極煮干っぽいラーメン多いけど、あらためて食べたら美味しいと思ったよ」
「んだよね」
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これが、妻との最後の会話だった。
彼女が亡くなった前の日の夜中に交わした、最後の会話だった。
ひとりでリビングにいた私に、背中越しに話しかけてきた。
それが、妻との最後の会話だった。
(なんでわざわざ青森にまでラーメンを食べに行かなきゃいけないの…)
と、娘は怪訝な表情をしていた。
理由を話すと、娘は黙って車の後部座席に座った。
私はいつも使っているトートバッグを助手席に置いた。
中には、いつも飾っている妻の写真が入っていた。
青森の街は弘前に比べ、いくぶん涼しかった。
「まるかいラーメン」は、海の近くにあるせいか、特に涼しく感じる。
幸運なことに、駐車場には一台分だけ空きがあった。

ベイブリッジ越しにアスパムが見える
数年前に新しくなった店は、とてもキレイで清潔感がある。
以前の店は、正直、清潔感があるとは言い難かった。
10年以上前に、妻と二人で来た時は、まだ古い店のときだった。
でも、あれはあれで雰囲気のある老舗の店だった。
ここのラーメンは一種類しかなく、中か大を選ぶ。
中でもそれなりの量があるので、娘も私も「中」を注文した。
土曜日ではあったが、14時を過ぎていたせいか店内はそんなには混んでいない。
ラーメンは、ほどなく運ばれてきた。

ラーメン 中
見た目はごくシンプル。
スープもごくシンプル。
でも昔からある津軽のあっさり中華よりは、煮干の出汁を感じる。
でも最近のがっつり煮干系に比べれば、あっさりに感じる。
このスープに、少し白さのある中太の麺との組み合わせは、初めて見る人にはうどんに見えるかもしれない。
このうどんにも見える太めの麺は、青森市の老舗によく見られる特徴だ。
私はトートバッグの中から、一瞬、妻の写真を出しかけたがやめた。
さすがに、テーブルに写真があれば店の人は驚くだろう。
その様子を見て、娘は笑いながら食べていた。
あの日、
「じゃあ、久しぶりに一緒にまるかい食べに行くか」
という言葉を返せなかったことを今でも後悔している。
そう返したからといって、人間の寿命は変わるものではない。
それはわかってはいるのだが、後悔している。
だから、娘に妻の代わりになってもらい、今日は「まるかい」に付き合ってもらった。
「あら。あんただぢだけ、美味しいもの食べて、ズレんでねの?」
トートバッグの中の写真が、微笑みながら言っていた。
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