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2022-07-02

最後の会話 「まるかいラーメン」


 

娘と一緒に「まるかいラーメン」に行ってきた。

「まるかいラーメン」といえば、誰もが知る青森市の老舗のラーメン屋。もちろん自分も何度か足を運んだことはあるが、この日訪れたのは一年以上ぶりのことだった。

この日、7月2日に訪れたのには、理由があった。

 

……………………………………………

 

「パパ、最近、まるかいのラーメン食べたことある?」

「ん?最近食べてないな。何ヶ月か前に食べたかな?」

「どうだった?」

「うん、美味しかったよ。最近、極煮干っぽいラーメン多いけど、あらためて食べたら美味しいと思ったよ」

「んだよね」

 

……………………………………………

 

これが、妻との最後の会話だった。

彼女が亡くなった前の日の夜中に交わした、最後の会話だった。

ひとりでリビングにいた私に、背中越しに話しかけてきた。

それが、妻との最後の会話だった。

 

(なんでわざわざ青森にまでラーメンを食べに行かなきゃいけないの…)

と、娘は怪訝な表情をしていた。

理由を話すと、娘は黙って車の後部座席に座った。

私はいつも使っているトートバッグを助手席に置いた。

中には、いつも飾っている妻の写真が入っていた。

 

青森の街は弘前に比べ、いくぶん涼しかった。

「まるかいラーメン」は、海の近くにあるせいか、特に涼しく感じる。

幸運なことに、駐車場には一台分だけ空きがあった。

 

ベイブリッジ越しにアスパムが見える

 

数年前に新しくなった店は、とてもキレイで清潔感がある。

以前の店は、正直、清潔感があるとは言い難かった。

 

10年以上前に、妻と二人で来た時は、まだ古い店のときだった。

でも、あれはあれで雰囲気のある老舗の店だった。

 

ここのラーメンは一種類しかなく、中か大を選ぶ。

中でもそれなりの量があるので、娘も私も「中」を注文した。

 

土曜日ではあったが、14時を過ぎていたせいか店内はそんなには混んでいない。

ラーメンは、ほどなく運ばれてきた。

 

ラーメン 中

 

見た目はごくシンプル。

スープもごくシンプル。

でも昔からある津軽のあっさり中華よりは、煮干の出汁を感じる。

でも最近のがっつり煮干系に比べれば、あっさりに感じる。

このスープに、少し白さのある中太の麺との組み合わせは、初めて見る人にはうどんに見えるかもしれない。

このうどんにも見える太めの麺は、青森市の老舗によく見られる特徴だ。

 

私はトートバッグの中から、一瞬、妻の写真を出しかけたがやめた。

さすがに、テーブルに写真があれば店の人は驚くだろう。

その様子を見て、娘は笑いながら食べていた。

 

あの日、

「じゃあ、久しぶりに一緒にまるかい食べに行くか」

という言葉を返せなかったことを今でも後悔している。

 

そう返したからといって、人間の寿命は変わるものではない。

それはわかってはいるのだが、後悔している。

だから、娘に妻の代わりになってもらい、今日は「まるかい」に付き合ってもらった。

 

「あら。あんただぢだけ、美味しいもの食べて、ズレんでねの?」

トートバッグの中の写真が、微笑みながら言っていた。

 

 

 

 

 


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