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2022-09-22

『大湊海自カレー』は難易度高シ 〜むつ市グルメ探訪〜


 

五所川原市フォレストブルーで開催された渡辺秋香さんたちの演奏会を鑑賞したあと、私は車でむつ市へ向かった。

むつ市にある「ウェンズデーコーラス」という合唱団が、今年の定期演奏会開催にあたり、「みちのく銀行男声合唱団」を特別ゲストとして招待してくださった。それが、秋香さんの演奏会の翌日だった。

音楽を鑑賞した次の日に自分が演奏をするという、なんとも慌ただしい二日間だが、表現することのテンションを保つためには良いことかもしれない。

 

むつ市を訪れるのは6年ぶりだろうか。

とは言っても、そのときは観光でむつ市を訪れたのではなく、ロードバイクで陸奥湾一周したときに通っただけ。

【弘前〜青森〜蟹田〜(フェリー)〜脇ノ沢〜むつ〜野辺地〜青森〜弘前】とトータル250kmほどの、今考えれば恐ろしいロングライドであった。

 

さらに遡ること遠く55年ほど前。

亡き父母、叔父と一緒に恐山へ行ったらしい(と思われる写真が残っている)。しかし、4〜5歳の頃だろうから記憶はほとんどない。

ましてや、むつ市の記憶などは全くない。

 

野辺地を過ぎれば、北へ向かうまっすぐの国道一本道。

暗くなり始めた空に、風力発電の風車の灯りが列をなし、黒い陸奥湾にはほのかに漁火が揺れる。

そんな眠くなりそうな一本道を、「ナイアガラトライアングル」を聴きながら走る。

海沿いを走るときは、大瀧詠一やサノモトを聴く。暗くて海は見えないけれど。

 

普段行くことのない街を訪れたときに大切なのは、ご当地のグルメを食することだ。

その土地ならではの美味しいものを食べるということは勿論、それによってその土地を訪れたことが記憶として残りやすい…ということが重要だ。

歳をとってくると、何を食べた、どこの温泉に入った、あのときキレイな女の人と話をしたw…などの付随した事柄がないと、頭の記憶から永遠に消えてしまうのだ。

 

というわけで、今回も下調べは完了済み。

食べログなどのサイトは半分アテにはならないこともあるが、他に頼る情報もない。まあしかし、むつ市といえばやはり『大湊海自カレー』である。

あんまり詳しくは知らないけど、市内の幾つかの店が、海上自衛隊が認定したそれぞれ独自のカレーを提供しているらしい。( 公式HP → 大湊海自カレー

カレーの名も、【護衛艦ちくまカレー】や【護衛艦おおよどカレー】など、勇ましい名称が付けられている。

「深浦マグロステーキ丼」とか「中泊メバル御膳」とか、昨今こういうやり方ブームなんだろうか。

 

大湊海自カレー「護衛艦おおよどカレー」〜公式HPより〜

 

この日に宿泊予定の「ホテルプラザむつ」1階にある「DiningBar  下北バル」という店の『大湊海自カレー』も認定カレーらしい。

海老フライが2尾もついてくる美味しそうなヤツだったが、1日限定20食とのこと。おそらく着いた頃には終わっている可能性が高い。だから、候補は2〜3軒はチェックしておきたい。

ホテルのすぐ近くに「駅前食堂」というのがあった。まさに、下北駅のすぐ目の前にある食堂で、むつ市民には馴染みの食堂のようだ。

「駅前食堂」という名の食堂は、おそらく日本全国にあると思うが、そのネーミングに(なんとなくご当地の美味しそうなのありそうだなあ)という妄想がついつい膨らむ。

むつの「駅前食堂」には、「海自カレー」もあるけど、人気の煮干しラーメンもあるらしい。煮干出汁を使った「エビ煮干しラーメン」はかなり美味そうだ。

 

陸奥湾沿いの一本道を走りながら、私の妄想は膨らんでいた。

「海自カレー」にしようか「エビ煮干しラーメン」にしようか…

大瀧詠一を聴きながら、私の妄想はパンパンに膨らんでいた。

 

五所川原から3時間以上走り続けると、少し市街地らしい光景が見えてきた。

いよいよ、むつ市だ。いよいよ晩飯だ。昼飯は小さなパン1個で済ませておいた。

そのとき、助手席に置いていたスマホが小さく光った。先にチェックインしていたメンバーからのLINEだった。

どうやらメンバー数人は、ホテルの「DiningBar  下北バル」で食事をしているらしいが、『大湊海自カレー』はすでに売り切れだとのこと…やはり。

夕飯は「駅前食堂」に絞られた。

 

市街地に入ると、左手向こうに駅のような建物が見えた。

すると、いきなり道の右側にでっかく「駅前食堂」が現れた。

 

「駅前食堂」

 

食べログには、21時までの営業と書かれている。まだ19時前だ。『大湊海自カレー』にありつけるかもしれない。

店内に入ると、けっこう客がいた。やはり人気の店なのだろう。

中を見渡すと、至るところに戦闘機や戦艦の写真やポスターが貼られていた。全然マニアでもないし詳しくもないが、妙にテンションが上がる。

 

テンションの上がる店内

 

メニューの種類はかなり豊富だった。

一応、ざっとチェックはするが、別に迷う必要はなかった。

店員さんに声をかけようとしたら、若い男の店員さんの方から私に近づいてきた。そして彼は言った。

「あのう〜すいません。本日、売り切れのメニューがございまして。え〜と、海自カレーが売り切れとなっています。え〜と、それから煮干しのスープがなくなりましたので、煮干しラーメンは全て売り切れとなっています」

「へ?」

「すいません〜」

「あの…エビ煮干しラーメンはあるんですか?」

「あ、そちらも煮干しのスープなので無いですね〜」

「じゃあ、ラーメンは何があるんですか?」

「こちらに書いてあるこってりの豚骨になります」

「…じゃあ、こってり豚骨の醤油でお願いします」

「はい〜!かしこまりました〜!」

「あ、チャーシュートッピングでお願いします」

「はい〜!こってり醤油のチャーシューいっちょう〜!」

 

悔しいから勢いでこってりチャーシューにしてしまった。

しかし、それは私が本当に食べたいモノだったのだろうか。わざわざむつに来て、食べたいモノだったのだろうか。

ラーメンが来るまでの間、私はスマホを見ながら、でもずっと、うわの空だった。

 

「はい〜こってり醤油のチャーシュー!お待ちどうさま!」

 

こってり豚骨醤油チャーシュー麺

 

 

美味しそう…ではある。

しかし、すでにチャーシューのイメージが違っていた。

そしてスープを一口飲んで、思い描いていた味とは全然違うことを悟った。

こってり豚骨の醤油といえば、和歌山系だった。自分の好きなのは博多系だ。そういえば、メニューには醤油とは別に博多系というのがあったじゃないか。

和歌山系となれば、おそらく麺も中太の縮れ麺だろう。博多のような細いストレートではない。すくい上げてみると、まさにそうだった。

イメージの違うチャーシューを食べてみる。少しレアだった。スープに浸していれば熱が通っていい感じになるのかもしれない。しかし、それほど熱々のスープではなかった。

私の食べたかったラーメンとは90度ほど違っていたし、今日、私が食べたかったモノとは180度違っていた。

 

私はキレイに完食した。

決して美味しくない…のではない。美味しいのだ。しかし、この日食べたいモノではなかった。

メニューの選択をミスしたのは自分だった。訪れる時間帯をミスしたのも自分だった。全て自分のせいなのだ。

私は、胃に堪えるこってりを流すためにビールを買い、ホテルにチェックインした。

とりあえず、明日は演奏がある。早く寝よう。

 

ホテルから望む早朝のむつ市街。釜臥山は雲の中。

 

ホテルの朝はバイキングメニューだった。

宿泊したホテルが演奏会場でもあったので、午前中はそのままホテルでリハーサルとなった。

お昼ご飯は弁当が提供されたが、当然「海自カレー」ではなかった。

午後、ステージでの演奏を無事に終えた。たくさんの聴衆から大きな拍手をいただいた。

我々のメンバーはそこで解散となった。

 

ホテルを出発し、むつ市内を車で少し走った。

夕飯をむつ市で食べていくか、途中青森で食べていくか迷っていた。

このまま『大湊海自カレー』を食べずに帰れば、のちに悔やむのではないか…

そんな大ごとに考える必要もないが、せっかくだから食べていこう。ヨシ!

 

私はさっきまで歌っていたホテルの駐車場に再び車を入れた。

そして、いかにも「夕飯を食べに来ました」むつ市民よろしく、スマホと財布だけを持って、ホテル1階のレストランに向かう。

レストランのドアを開けると、中に客は二人だけ。夕飯には少し早い時間だった。

「お席へどうぞ〜」と、ウェイトレスに促されたが、念のため先に訊いた。

「あの〜、海自カレーはありますか?」

「あ、本日の海自カレーは売り切れになっておりました〜」

「あ…わかりました…また来ます」

 

たぶん、もう来ない。

私は、暗い陸奥湾を右手に見ながら、津軽に向かってひたすら走った。

心なしか、大瀧詠一が悲しそうに歌っていた。

 

 

 


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