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2019-05-20

ツール・ド・ツガル / 日本三秘湯「谷地温泉」


八甲田 雛岳

前回のブログ「ツール・ド・ツガル / 八甲田山一周 高原茶屋のカレーライス」より続く。

 

 

高原茶屋で美味しいカレーライスをいただき、私は再び出発した。眼前には広大な田代平高原が広がり、右手には八甲田連峰のひとつ「雛岳」がそびえていた。

そして、高原の中にポツリポツリと桜と思われる花が咲いている。どうして「桜と思われる」のかといえば、平地で咲いているような咲き方ではないからだ。他の木もそうなのだが、天に向かってラッパ状に枝を広げ、その形状で花が咲いているのだ。

おそらく長い間、数メートルの雪の中にあるから、そのようなカタチになるのだろうか。

ひときわ映える桜色

桜の花には、不思議な何かがある。日本人の心の中に、なにかしら遺伝子的なモノが刷り込まれているのだろうか。山中を走っていても、ポツンと小さなピンク色のかたまりを見つけると、どきっとするのだ。

田代平を走り続けると、やがて七戸方面と十和田方面へと別れる交差点が現れる。そこを右に折れると、「谷地温泉」まで向かう4.5kmの上り坂だ。

さすがに脚も張り始めていたし、写真を撮る気力も歌を歌う気力もすでに失せていたが、ここまでくれば温泉まであと少し。目的がもうすぐ目の前となれば、なんとか頑張れるものだ。

「谷地 2km」の看板が見えた。そこからは緩い下りとなる。やがて朝に通った交差点に辿り着くと、ロードバイクはそのまま「谷地温泉」へと導かれていった。

日本三秘湯「谷地温泉」

温泉宿の前で記念写真を撮ったあと、ロードを車にしまい、かわりに着替えが入った袋を取り出した。ビンディングシューズもサンダルに履き替える。

中に入ると、入浴券を販売する自販機がある。大人は600円だ。三秘湯だけあってそれなりの値段だ。売店のカウンターに券を渡すと、「長い廊下をまっすぐ行って右に温泉あります〜」と案内してくれた。

スリッパに履き替え、その長い廊下を歩く。廊下の両脇には宿泊部屋の番号が並んでいた。柱や天井の木は黒々と年季が入り、開湯400年の長い歴史を感じさせてくれる。

長い廊下

風呂場に着くと、撮影禁止の張り紙があった。残念ながらここからは画像はナシ。脱衣所のカゴに、脱いだジャージと着替えが入ったエコバッグを入れる。

エコバッグの中を見て愕然…なんと、タオルを忘れていた。フェイスタオルもバスタオルも。いや、どうしようか。入浴券売り場でタオルも買えばよかったか。

長い廊下を戻るのもいささか面倒な気がして、私は何も持たずに温泉に入ることにした。温泉にたっぷりと浸かるのが目的だから、タオルなどなくても問題はない。

中に入ると、手前と奥に二つの湯船が並んでいた。書かれてある説明を読むと、手前が「下の湯」、奥が「上の湯」と名前がついていて源泉は別のようだ。「下の湯」は霊泉とも呼ばれ、温度38度のヌルめの湯だ。まずこちらで身体を慣らし、そのあとに「上の湯」に入るといいらしい。

洗い場で身体を洗い流してから、まずは「下の湯」に入る。広さはどちらも四畳半ほどだろうか。若者と年配の方の二人が入っていた。足を入れてみると予想以上にヌルい。肩まで浸かりながら改めて説明書きを読んだ。

「下の湯に1時間ほど浸かり、身体が慣れたらそのあとに上の湯に10分ほど浸かりましょう」とな。確かにこのヌルさであれば長時間は浸かれそうだが、1時間ものんびり入っている時間はない。おそらくは宿泊客や湯治客に向けて書かれたものなのだろう。

私は10分ほど「下の湯」で身体を温めた後、「上の湯」に入った。こちらは白く濁っている。説明を読むと温度は42度と書かれてあるが、思ったほど熱くはない。自宅で入るお風呂と比べても少しヌルい気がした。

おそらくは「下の湯」で、長時間かけてゆっくり身体を温めるのが、「谷地温泉」の醍醐味なのだろう。正直10分ほど浸かっただけでは、身体は温まらなかった。

私はいったん湯船から上がり、汗まみれになった頭と身体を洗うことにした。幸いシャンプー類はすべて備えられていた。顔を洗うとしょっぱかった。チャリでここまで汗をかいたのは久しぶりのような気がする。

ロングライドの後に顔を洗うと、いつもこのしょっぱさを味わう。その時に少しだけ身体が絞れたのかな?と感じるのだ。まあ、錯覚にすぎないのだけど。

私は再び「上の湯」で身体を温めてから、打たせ湯を味わうことにした。打たせ湯は入り口とは別の戸を開け、外(完全な外ではない)に出る。

ゴツゴツとした岩があり、階段状になって半地下のようなところに座る場所がある。半地下の上は脱衣所のところのようだ。話し声が聞こえる。

上の方から温泉が流れ込んできている。ここのお湯もヌルい。私は、チャリの前傾姿勢で凝り固まった肩のあたりに、しばらくの間お湯を当てた。足元に溜まったお湯の中をゆらゆらと湯花が流れていた。

再び、霊泉の「下の湯」に浸かることにした。そういえば先ほどの若者は、私が入った時からずーっと浸かっている。その顔は少しニマニマと微かに笑っているように見えた。彼は正しい浸かり方をしているようだ。

何も考えることなく、私もゆっくりと霊泉を味わうことにした。湯船の床は木板になっていたが、指一本が入るくらいの隙間が空いていた。私はその隙間に指を入れてみた。何とその床の下も温泉であった。

この霊泉は、この私がいる足元から直接湧き出しているのだ。そういえば、すぐ脇にある蓋に張り紙がしてある。「足元注意。深さが3メートルほどあります」

つまり深い温泉に板を渡して、その上に座って温泉に浸かっているということなのか。なんとなく急に浮遊感を覚え、不思議な気持ちになって霊泉に身を任せた。

………………………………………………

車の窓を全開にし、八甲田の新緑の香りを感じながら、私は弘前への帰途に着いた。

しかし、ほのかに身体全体を覆う硫黄の匂いがしていた。

 

 

谷地温泉

青森県十和田市法量谷地1 (HP → 「日本三秘湯 谷地温泉」

(ホームページで温泉の様子などがご覧になれます)



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