弘前のラーメン / 『銀水食堂』の「チャーシューメン」 と 「人間交差点 」
なんとなく濃い煮干しではなく、普通のあっさり中華が食べたくなり、下町へと向かった。
携帯で営業時間を調べると15時まで。あと30分あるから大丈夫だろう。正面にお寺が見える通りを真っ直ぐ走り、そのお寺の向かい側にある駐車場に車を停めた。
しかし、バックミラーに見えるはずだった「山忠」の暖簾は、入口の下に置かれていた。ちょうど客足が引いたのだろうか。
お店のお昼交代はいつも私が最後になる。14時に入れれば大丈夫だが、14時半を回ると暖簾を下ろしている食堂が大半。
「さて、どうしよう…」 何軒か思いつくも、すでに閉まっている可能性が高い。
「そうだ。銀水に行こう」 銀水は昼休みがなく夕方までやっているはずだ。私は「銀水食堂」がある鍛冶町へと車を走らせた。
「いらっしゃい〜」
銀水のお母さんは元気そうだ。銀水といえば「カツカレー」と決まっていたが( → 弘前の洋食屋 / 「 銀水食堂のカツカレー 」)、この日は中華そばの気分だった。
「チャーシューメンください!」「はい、チャーシューメンひとつ〜」
普通のラーメン屋であれば、メニューの一番上にラーメン(または中華そば)があり、そのあとに塩ラーメン、味噌ラーメン、チャーシューメン、などが並ぶ。が、銀水のメニューは、何故かチャーシューメンが一番上にあった。
客は私の他に一人。70歳くらいのオッさんがテーブルの上にラジオを置き、結構な音を出していた。そして、新聞を読みながら定食を食べていた。
最近はスマホというものがあるので、食堂に入っても新聞や漫画本を読むことはなくなった。若い頃は、食堂に揃っている漫画単行本を読みたいがために、日々通うということもあった。
ふと、漫画本や週刊誌のあるカラーボックスに目をやると「人間交差点」のコミックが目に入った。昔、よく読んだ漫画本だ。
弘兼憲史の描く漫画では、最も有名なのが「課長島耕作シリーズ」だと思うが、この「人間交差点」も好きな漫画本のひとつだった。
チャーシューメンが出てくるまでの間、少しだけ読んだ。「島耕作」とは異なり、単行本の中にあるひとつひとつの物語が、数十ページで完結する。
「はい、チャーシューメンお待ちどうさま〜」
普通、チャーシューメンといえば、径7〜8cmほどのチャーシューが5枚ほど入っているイメージだが、ここのは違っていた。15cmほどのデカいのが2枚のっかっている。
そして食べてみて思った。これは、チャーシューではない。定食用のデカい肉。そう、生姜焼き定食などに使う豚肉を、ドーン!とのっけているかのようだ。
チャーシューメンを食べているというよりは、ラーメンと単品の焼肉を食べているような気分になった。それも悪くない。銀水らしい。
ラーメン専門店のような凝った出汁ではない。化調の味もする。それも銀水らしく、ホッとする。
「人間交差点」を3話ほど読んだ。
物悲しく、人の嫌な部分を感じるストーリーが多い。だが「人間って、そうだよな」と、なにか共感するところも多く、つい自分に重ねて読んでしまう。
弘前の飲み屋街にある、古い老舗の食堂。
ラジオを聴いている70代のオッさんと、漫画本を読んでいる50代のオッさん。
きっと誰もが、誰かと交差しながら、いや微妙にすれ違いながら、毎日を過ごしている。
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