ツール・ド・ツガル / 「酸ヶ湯温泉」ノ『千人風呂』ニ浸カル
ふと、思い立ち「酸ヶ湯温泉」までのヒルクライム。
久しぶりの激坂で、太腿はパンパン。息はゼイゼイ。しかし気持ちと八甲田の空はハレバレ。
(前回のブログ→「ツール・ド・ツガル / 「酸ヶ湯温泉」へ向カウ」)

週明け20日から「酸ヶ湯温泉」も休業というニュースを聞き、思わず標高800mをヒルクライムしてきたが、どうせなら温泉にも浸かってしまおう。
シーズンに2〜3度はヒルクライムする酸ヶ湯だが、実はここの温泉に浸かった記憶がないのだ。
小さい頃、大きな混浴風呂で乳丸出しの婆さんを見た記憶が、おぼろげに残っている。しかし、あれは「あいのり温泉」だったかもしれない。
入湯料は1000円!と観光地プライス。しかし、バスタオルとフェイスタオルは貸し出してくれる。(フェイスタオルは持ち帰りOK)
受付で支払いをすると、「こちらお願いします」と目の前に検温器が。しかし、ヒルクライム後で冷え切った額(ひたい)は、測定不能だったようだ。
受付のお姉さんは「あ、大丈夫だと思いますので、どうぞ〜」と、少し笑いながら私にタオルを渡してくれた。

「酸ヶ湯温泉」といえば、あの混浴大浴場『ヒバ千人風呂』が有名だが、館内にはその『千人風呂』と、男女別の『玉の湯』があり、この両方を何度も利用できるのだ。
ちなみに『千人風呂』には洗い場がなく、石鹸類も使えないらしい。シャンプーや石鹸は『玉の湯』に用意されている。なので『千人風呂』は、あくまでゆっくりじっくり白濁した源泉を味わってほしい(本来の湯治)ということなのだろう。
浴場内は撮影禁止と書かれてあった。ま、混浴だしな。仕方がないので脱衣所にあった趣のある画をパシャリ。

(来週から休業というニュースが流れたし、混んでるかもな…)と、思いながら引き戸を開ける。が、すぐにその不安は杞憂に終わった。
『千人風呂』には、私以外に二人の客しかいなかった。
白濁した大きな二つの湯船から湯気が立ち上る。薄暗い大きな空間に、木の格子窓が美しいシルエットを作っている。
160畳もの広さがある総ヒバ造りの湯屋建築は、中に柱が一本もない圧巻の造りで、中央部の天は高く、高すぎてよく見えぬほどだ。

手前の湯は「熱の湯」という名がついているが、それほど熱くはない。
湯船の底から温泉が湧き出る「足元湧出」は全国的にも希少で、空気に触れずに湯船が満たされている。湯船の底には木製のスノコが敷かれていて、その下の地面からお湯がポコポコと湧き出てくる。
千人風呂の奥にある湯船は「四分六分の湯」と呼ばれ、「熱の湯」の2倍ほどある大きな湯船で、少し熱めの湯が引かれている。
このご時世のせいか、木の格子窓は開けられていて、外から八甲田の冷たい空気が入り込んでくる。その冷たさが露天の雰囲気も感じさせ、湯もさほど熱く感じない。
ヒバの肌触りが心地よく、私はしばらくの間、高い天を見上げながら白い湯に身体を任せた。
本来であれば、この大きな湯船も県外や外国からの観光客で溢れていたはずだろう。しかし、今は私を入れて、わずか三人だけが湯面から頭を出している。
江戸時代前期に開湯されたと伝えられるこの温泉も、このような世の状況のために休業せざるをえないというのは、初めてのことだろう。
戦争当時やスペイン風が流行したときなどは、果たしてどうだったのかはわからないが、かつてグローバルとは無縁だった山奥の温泉は、淡々と営まれていたのではないだろうか。
高すぎてよく見えない天井の頂を見上げながら、そんなことをぼんやりと考えた。
二つの湯で温まったあとは、凝り固まった肩や背中を、打たせ湯「湯瀧」でほぐす。
頭の頂にもピンポイントで当てる。落下する湯の圧が心地よい。ほんの一瞬だけ、悟りを開いたような錯覚を覚えた。
『千人風呂』を味わったあとは『玉の湯』へ。
男湯が『玉の湯』なのはわかるが、なぜか女湯も『玉の湯』である。

こちらは、最近改装したばかりなのだろうか、とても綺麗な作りになっていて、シャンプー類も備えられている。湯船は決して大きくはない。それでも一般的な山間の温泉くらいはあるだろうか。
しかし、様子を見ていると、『玉の湯』に来た人は、身体を洗うとすぐに出てしまう。やはり、ここの温泉を満喫するのは『千人風呂』なのだろう。
私も頭と身体をゴシゴシと洗い流し、軽く湯船に浸かったあと、再び『千人風呂』に向かった。

二度目の『千人風呂』も、客は三人だけだった。
青森県最大の混浴風呂『ヒバ千人風呂』をゆったりと満喫することはできたが、結局、乳丸出しの婆さんを拝むことはできなかった。
残念なような…でも少しホッとしたような気持ちになり、打たせ湯「湯瀧」にて再び悟りを開く。ここは『仙人風呂』だった。
温泉情報 ↓↓↓
酸ヶ湯温泉
住所:青森県青森市荒川南荒川山国有林酸湯沢50番地
( 公式サイト→ 「酸ヶ湯温泉」)
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