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2020-10-03

骨折湯治紀行 その壱 / 嶽温泉郷『小島旅館』


 

23度ほどあった弘前市内の気温だったが、岩木山神社まで来ると18度を下回っていた。

岩木山神社に足を運ぶのは、骨折した日以来のことだ。神社には数台の車が停まっていた。私は素通りし、岩木山を右に見ながら車を先に走らせた。

 

 

 

9月から11月にかけては、岩木山は日々色を変えていく。ロードバイクで走りながら、カメラのシャッターを押すには一年でも最も良い季節だ。

しかし、今年の秋はそれを楽しむことはできない。かといって、休日にだらだらと過ごすのも身体にとっては良いものではない。自分にとって新しい時間が与えられたと考えた方が良い。

少々…いや、かなり身体がナマりきっていたので、カメラ片手にウォーキングでもしようかと考えた。でも、左手で絞りのダイヤルをスムーズに回せるのはもう少し先になりそうだ。

そういえば、いつもの秋であればロードで走りながら温泉巡りもしていたっけ。そうだ。リハビリも兼ねて湯治をしてみよう。そう決めた。

 

 

 

「骨折・湯治・青森・温泉」などのキーワードで検索してみたが、出てくるのは有名旅行会社の広告ばかり。いろいろな効能があるのだろうが、大々的に「〇〇に効く」という宣伝は、昨今はよろしくないらしい。確かに、即効性があるわけでもない。

津軽で「湯治」としてイメージできるのは、やはり「酸ヶ湯温泉」 しかし、運転ができるようになったとはいえ、あの九十九折の道程はちょいと厳しいか。

となれば、もう少し近場の「嶽温泉郷」だろうか。私は神社を素通りし、岩木山を右に見ながら「嶽」に向かって走っていた。

 

小島旅館

 

『小島旅館』の温泉に浸かるのは初めてだった。現在、「嶽温泉郷組合」に属している温泉は6つあるが、そのうち4つの温泉は体験済みだった。

『小島旅館』は外観がデーーーん!といかにも「旅館」な風情なので、日帰り入浴するには少し入りにくいイメージがあったのだ。

それでも玄関を開け、ピロンとチャイムが鳴ると「は〜い」と中から気さくな声が返ってくる。その場で直接400円を手渡し、2階奥へと進むと温泉がある。

 

玄関からの様子

 

「男湯」の暖簾をくぐって脱衣所に入ると、誰もいなかった。

スーパー銭湯とは違い、県外の観光客などで賑わっていた山間の温泉は、なかなか厳しい数ヶ月を過ごしているだろう。ただ、温泉を満喫する側としては、湯船を独り占めできるのだから、これほど贅沢なものはない。

 

湯船は二つ。どちらも白濁とした湯がドバドバと湯船に流れ込んでいる。

決して広くはないけれど、全体が木で覆われていて、心地よい空間となっている。

 

撮影は禁止なのでオフィシャルHPより拝借

 

左側の湯船は温め、右側が少し熱めの温泉である。私は長湯はあまり得意な方ではない。ただ、湯治のためにはゆったりと浸かりたかったので、温めの湯船に浸かることにした。

湯船の底に尻を置くと、顎のギリギリまでお湯が来る。ちょうど良い深さだ。私は左腕の筋肉をマッサージした。

 

手術後、創外固定を4週間装着し、それを外した後にリハビリが始まったが、左腕にはいろんな痛みがあった。

最も痛いのは、骨折してから6週間ほど動かしていなかった筋肉や腱。それらがガチガチに固まっていて、それを動かすときの痛みが半端ない。

そして、創外固定のボルトやピンが突き刺さっていた傷。皮膚の表面というよりも、傷とその下層部が癒着して固まっているので、腕を動かすたびに癒着部がピキピキと痛む。

三つ目は、リハビリをした後の筋肉痛。普段使い慣れていない筋肉を駆使すると、翌日筋肉痛になったりするが、それのようなものだ。

そんないろんな痛みをほぐすために、温い温泉に浸かりながら左腕をマッサージする。

 

情報として書くと、ここの温泉には石鹸とシャンプーが備えられている。ただ石鹸は昔ながらの白い固形石鹸。シャワーも完備されているが、お湯の勢いはかなり弱め。カランは4つ。

三たび、温めの湯船に浸かっていると、体格のいいオッさんがひとり入ってきた。オッさんはここの温泉には慣れている感じで、ザバッと熱い方の湯船に浸かり、その後豪快に身体を洗い始めた。

私は、一旦脱衣所の方に出て、涼しい空気を吸うことにした。温めの湯に浸かっているとはいえ、三回浸かると身体も火照る。窓からは嶽の風景が見えるが、絶景というほどでもない。紅葉の時期はいいのかもしれない。

 

再び中に入り、4度目の入浴。すでに身体を洗い終えていたオッさんは、やはりザバッと熱い方の湯船に浸かり、上がっていった。

ひとりになった私は、湯船から上がり縁に腰掛けながらマッサージを始めた。腕もそうだが、なかなか曲がりの良くない中指の関節をゆっくりと揉んだ。

自分の勘では、骨折した手首よりも、脱臼した中指の方が完治するのに時間がかかる気がしている。正直、元には戻らないかなと感じていた。それはそれで仕方のないことだ。

最後にもう一度、5度目の入浴をしようと温めの湯船に入ろうとしたとき、予想外のものが目に入った。

先ほど上がったオッさんが、脱衣所でブリーフを履いていた。トランクスではなくブリーフ。しかも、そのブリーフはショッキングピンク!だった。

ショッキングピンクのブリーフ一丁になったオッさんは、しばらくの間その姿のまま、鏡に映る自分を見ていた。

(やるなあ、オッさん。まだまだイロイロ若いんだろうなあ)

私はなにかちょっと嬉しくなった。

 

昭和60年頃の嶽温泉の写真

 

嶽温泉の駐車場は閑散としていたが、数人の客が岩木屋で買い物をしていた。

数軒隣の田沢食堂に行くと、食堂スペースは閉まっていたが、店頭で嶽きみを売っていた。私は、昼飯代わりに嶽キミを1本買って食べた。

そういえば、いつもの年ならロードで嶽まで走って嶽キミを食べていたが、今年はそれもできなかった。旬は少し過ぎていたけれど、嶽キミは美味かった。

 

嶽キミ売り場

 

硫黄のかまりこに包まれながら、嶽温泉をあとにした。さて次はどこで湯治をしようか。

硫黄くさくオッさんくさいブログになりそうな気配です。

 

小島旅館のHPはコチラ → 岩木山麓 嶽温泉『小島旅館』

 

 

* これまでの『骨折闘病記』とは別に、骨折人間ならではの津軽の名湯秘湯巡りを『骨折湯治紀行』として書いてみることにしました。目標は津軽十名湯。

 

 


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