骨折湯治紀行 その六 / 黒石温泉郷 『 長寿温泉 』
昨年12月末から続いた大雪。休日は雪かきに明け暮れた。
1時間ほど雪かきをすると汗だくになり、終わると即シャワー。温泉に浸かりたいのは山々なのだが、シャワーすると「まあ、いいか…」となってしまうのだ。
この日は、雪かきのない休日。
気温は5度くらいもあり、少し雨が降っているが温泉日和だ。4つの温泉郷からなる「黒石温泉郷」のうちのひとつ、「落合温泉」を目指すことにした。
浅瀬石川沿いに点在する「黒石温泉郷」だが、「落合温泉」は川を挟んで「板留温泉」の向かい側にある。

「花禅の庄」という大きな温泉旅館が有名だが、検索してみるとコロナ禍の影響で日帰り入浴はやっていなかった。他には「南風館」という小綺麗な温泉旅館や「落合温泉共同浴場」という共同浴場がある。
浅瀬石川に架かる橋を渡り、左に細い路地を進んでいくと「南風館」が見えた。向かいの駐車場に車を停め、玄関に入る…が、ひと気がない。
「すいませ〜ん」と呼びかけると、女将さんと思われる方が出てきた。
「日帰り入浴いいですか?」「あ〜今ちょっとやってないんですよ…」どうやら、どこも似たような状況らしい。
諦めて、すぐ近くの「落合温泉共同浴場」に向かう。共同浴場ということで、建物に趣はないけれど、この際しょうがない。駐車場に車を停めて「男湯」と書かれたドアの前に行くと張り紙がしてあった。
「男湯の窓ガラスが割れていますので、入浴できません」
な、なんと…先日の暴風雪で割れたのだろうか。どうやら、この日は「落合温泉」には縁がないらしい。
なんとなくテンションも下がり気味に、来た路を戻ることにした。
温湯温泉に浸かることも考えたが、車はそのまま旧道を走った。フロントガラスの向こうに温泉の看板が見えた。
4つの温泉郷のひとつ「長寿温泉」

他の三つの温泉は、いずれも数軒の温泉旅館が連なるが、ここは通り沿いにポツンと1軒あるだけだ。
外観は、旅館も兼ねた街の銭湯という感じ。事前にどんな温泉かチェックしていたわけではなかったが、私は迷うことなく駐車場に車を入れた。
受付のおじいさんに料金を払う。250円と良心的なお値段。
浴場に入ると、中は比較的広い。カランが16もあり、これまた銭湯のようだ。浴槽は中央に大きめの丸い浴槽がひとつだけ。タイルの色のせいだろうか、薄緑色の温泉に見える。
先客が一人いたが、まもなく上がったので私一人になった。これだから温泉は昼過ぎに限る。

浴槽がひとつしかないとき、その温泉がかなり熱いと、ちと辛い。どちらかといえば、ぬるめの温泉にじっくりと浸かるのが好きだ。
ここの温泉は、浴槽がひとつしかない割には温めであった。私はゆっくりと温泉に浸かりながら、左腕の筋肉を揉みほぐした。
8月の骨折から5ヶ月が経っていた。
多少の重い荷物も持てるし、PCのキーボードも苦もなく打つことができる。ただ、雪かきをした次の日などは、筋に少し痛みが走る。
でも雪かきはとてもいいリハビリになっている。少しくらい痛みを伴うような動きを繰り返さないと、かえって筋や腱が固まってしまうのだ。
窓から午後の日差しが、温泉を照らしている。
私は四度、温泉に浸かった。
何軒かの温泉に振られ、なんとなく立ち寄った温泉だったが、良い温泉であった。

帰り際、ロビーの奥に数枚の写真が飾られてあった。「長寿温泉」の歴史のようだ。
最初の一枚は、電気屋を開設したときの写真だった。温泉を開業する前のものらしい。昭和28年の写真だった。
受付にいたおじいさんが、この写真の若者なのだろうか。私は一瞬、訊いてみようかと思ったがやめた。
「どうも〜」と一言だけ言うと
「どうも、ありがとうございました〜」とおじいさんの優しそうな声が返ってきた。
長寿温泉 松寿荘
黒石市下山形字村下97-1
日帰り入浴:6時〜22時
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