骨折湯治紀行 その七 / 道の駅『 浅虫温泉ゆ〜さ浅虫 』
浅虫といえば、いろんなものを思い浮かべることができる。
一番はやはり浅虫水族館だろう。歴史も古いし、おそらく多くの人が遠足で訪れたことがあるはずだ。また、海水浴場をイメージする人も多いかもしれない。
しかし、歳を取るにつれて、興味の対象は「海で遊ぶ」ことよりも「海の幸を食す」ことに移っていく。「正立食堂」や「もりや」でウニ丼を食らう。「鶴亀屋食堂」でタワーのようにそびえる特大マグロ丼…これに挑むのはもはや無理だ。
まあ、水族館にしろウニ丼にしろ、いずれにしても浅虫は海のイメージ…なのであるが、小さい頃から、なぜか浅虫といえば温泉を思い浮かべてしまう。
小さい頃、浅虫の温泉に浸かったわけでもない。一度だけ、浅虫のみちのく銀行の研修所にて温泉に浸かったことはあるが、結構いい歳になってからである。
おそらく、小さい頃は「浅虫温泉」のCMかなんかをよく見聞きしていたのだろう。そういう意味では、「あいのり温泉」もCMでの印象が強かった気がする。
だから「浅虫」は「浅虫温泉」であって、なんといっても駅名が「浅虫温泉」なわけで…そんなわけで、先日、青森で仕事をしたついでに浅虫まで足を伸ばしてみた。
(仕事をサボったのではなく、休日だけど少し仕事をしてきたのです。念のため)
どんよりとした空の浅虫に着いた頃は、すでに昼を過ぎていた。
この時期にウニ丼はあるはずはないが、それでもなんとなく妙な期待を抱いて浅虫の東端へ向かう。ウニ丼はないとしても、「正立」か「もりや」で海の幸にありつけるかもしれない。
そんな淡い期待は、激しく打ち寄せる波によって、簡単に打ち砕かれた。
夏場、多くの人で賑わう海の家は、全て閉まっていた。これもコロナの影響なのだろうか。
私は空き地に車を停め、しばらくの間、ぼんやりと浅虫の海を眺めていた。
(昼飯は後回しにして、とりあえず温泉に浸かろう)
そう思い立ち検索してみるが、どこの温泉が良いのか見当もつかない。「柳の湯」や「秋田屋」などの老舗の温泉旅館の名は、CMなどでも耳にしたことがあるけれど、日帰り入浴はちょっと気がひける。
それに、このコロナ禍で、日帰り入浴を受け付けているのかどうかも微妙なところだ。
というわけで、100%確実に入浴できる、道の駅『 浅虫温泉ゆ〜さ浅虫 』にて湯治をば。
(わざわざ浅虫まで来て、道の駅の温泉かあ..)とも思ったが、碇ヶ関の道の駅の温泉もとても素晴らしかったし、ここはやはり味わってみるしかない。
ここの建物に入ったことはあったが、温泉は初めて…で、驚いた。ここの温泉はなんと4階にあるのだ。
エレベーターに乗って4階まで行く。扉が開くと、そこはもう温泉への入り口。入浴券を買い、男湯の暖簾をくぐる。
脱衣所はそんなに広くはなく、細長いかんじ。中に入ると先客は3人ほどいた。
浴槽は少し大きめのと小さめのが二つ並んでいる。大きめの方は40.5℃、小さめの方は43℃と表示があった。私はいつものように温めの方に浸かり、左腕を揉みほぐした。
左腕はだいぶ動くようにはなったが、まだまだ筋や腱は痛む。脱臼した中指は相変わらず最後まで曲がりきらない。
身体を洗うカランは、円弧を描くカーブの壁沿いに並んでいる。が、カーブの外側ではなく内側に並んでいるので、隣が妙に近いのだ。混んでいるときだと、隣の人とお尻合いになりそうだ。
これは、ちょっとした設計ミスではないだろうか。浴場内はそれなりの広さだが、洗い場だけが狭苦しい。
身体を洗い流した後、再び温泉に浸かる。視線の向こうには、浅虫の海と湯の島が見える。曇り空ではあったが、いい景色だ。浴槽に身を埋める誰もが、同じ方向を向いていた。
私はいつものように、三度、温泉に浸かった。しかし、思ったほど身体が温まっていない気がした。小さな浴槽の方に浸かってみる。43℃だからけっこう熱いかと思いきや、ちょうど良い温度だった。どうやら、表示されている温度よりも温めらしい。
と、そのとき、「ポチャン!」と肩に冷たい水の雫が落ちてきた。天井からだ。そういえば、さっきも頭の上に落ちてきた。上を見ると、天井には今にも落ちてきそうな雫が、何十、何百と突撃の準備をしている。
これもちょっとした設計ミスではなかろうか。浴場の天井は、冷たい雫が落ちぬよう、緩くても傾斜をつけたほうがいいと思うのだけれど。
まあ、でもそんな些細なことは気にならない、素晴らしい景色を眺めることのできる温泉である。
私は、頭の上に冷たい雫を受けなながら、グレイの曇り空と陸奥湾の海を眺めていた。
青森県青森市大字浅虫字螢谷341-19
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