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2021-10-22

雨の降る休日 / 「桜温泉」にて


 

 

未明から雨が降っている。

休みの日に雨が降っていると、なにか損したような気持ちになり、がっかりする自分がいる。

しかし、休みの日に雨が降っていると、なにかを得したような気持ちになり、ホッとする自分もいる。

最近であれば、天気のよい日は追悼ライドを目的にし、かつて妻と走った路をひとりで走っていた。

コンプリートするにはまだまだである。岩木山一周もしていないし、十三湖にも行っていない。数日前から山裾が白くなり始めた。おそらく今年中のコンプリートは無理だろうが、少しでも走っておきたい。

そんな思惑のある中での、雨の日の休日。雨の日は走れない。雨のせいにできる。だからホッとする。

 

前日から雨が降ることはわかっていたので、雨なら雨で少しは充実した休みにしようと、計画は立てていた。

娘を送り出した後、掃除や洗濯をし、昼はどこかで蕎麦を食べ、その後は久しぶりに温泉に行こう。そんなことを考えていた。

しかし、暖かくしていた部屋のソファに寝転がっているうちに、つい寝てしまった。「スッキリ」の加藤浩次のデカい声が流れていたせいで変な夢を見てしまい、二度寝を後悔した。

 

早くも計画は崩れた。

どうしようか。失敗の数を少しでも減らすために、まず洗濯をする。

15時半過ぎに、娘を迎えに行き、美容院へ連れていく約束をしていた。どこかで美味しい蕎麦を食べ、そのあとに温泉を満喫するほどの時間の余裕はない。

美味しい蕎麦は諦め、自宅でカップ麺の蕎麦を食べることにした。カップ麺だからといって、美味しくないわけではない。でも、やはり蕎麦屋のよりは劣る。

気持ち的にも栄養価的にも、少し残念な感じがしたので、豆腐も一緒に食べた。これも別に高級豆腐ではないが、蕎麦だけよりは良い。

 

粗食ではあったが、コーヒーは美味しいやつを飲むことができる。

妻が昨年購入したウォーターサーバーは、コーヒーも飲むことができるタイプのものだった。ただ、コーヒーのドリップポッドが、まだ400杯以上もあった。毎日飲んでも1年以上は飲める。買いだめの好きな人だった。

 

 

 

娘を迎えに行くまで、1時間半ほどあった。

失敗の数をさらに減らすために、掃除をしても良かったのだが、それだとあまりにも悲しい休日になりそうな気がした。嶽温泉や黒石の温泉に行くほどの余裕はないが、近場であれば、なんとかなるかもしれない。

 

雨の降る中を、私は岩木山の方向に向かって車を走らせた。

後部座席には風呂道具一式が備えられていた。温泉に行くため、妻が車に常備していた。

元々、彼女は温泉は好きではなかった。結婚した頃に、秋田の後生掛温泉に行ったことがあったが、それ以来、温泉に一緒に行った記憶はほとんどない。だから、私はいつも娘と二人で温泉巡りをしていた。妻は温泉独特の、あまり清潔ではない感じが苦手だったらしい。

 

しかし、どういうわけか今年の春先に「古遠部温泉に行ってみたい」と言い出した。

温泉好きな方ならご存知だと思うが、「古遠部温泉」はマニアの間でも「秘湯中の秘湯」と呼ばれる、青森と秋田の県境にある温泉である。

私は娘と何度か訪れたことがあったが、温泉を苦手としていた妻から「古遠部温泉」の言葉が出たのは意外だった。

妻はそれ以来「古遠部」の泉質がお気に召したらしく、度々通っていた。だから、彼女が亡くなった後も、車の中にはずっと風呂道具が常備されていたのだ。

 

 

雨が降っていたので、視界の先にあるはずの岩木山は全く見えなかった。

旧岩木町の街道を走ると温泉の看板が見えてきた。

 

「桜温泉」

 

百沢や嶽までは行かなくても、弘前近郊には多くの温泉がある。しかし個人的にはスーパー銭湯的な温泉は苦手だった。

ここ「桜温泉」は、外観こそ銭湯という感じだが、浴場の雰囲気は木を多用し、なかなか趣がある造りをしている。自宅から中途半端に近いので、最近は訪れる機会がなかった。おそらく5年ぶりくらいだろうか。

あまり混んでいる時間帯ではないと思ったが、地元の人にとってはちょうど良い距離にあるからだろうか、10人ほどの客がいた。

 

内湯が二つあり、外に丸い露天風呂がある。私は真っ先に露天に浸かった。

熱い温泉があまり得意ではない。どちらかといえば、温めの湯にゆったりと浸かるのが好きだ。どこの温泉でも、露天の方が温めである。新鮮な外気を吸いながら浸かることができるのも良い。

露天風呂の上には屋根が掛かっているが、目の前の小さな庭には雨粒が落ちていた。その光景も悪くない。露天の屋根からも雫が落ちる。蒸気の雫なのか、漏れた雨水なのかはわからないが、それも悪くない。

あまり考え事をすることもなく、ひとり丸い浴槽の中で目を瞑る。

 

木が多く使われている浴場

 

髪を洗おうと風呂道具のカゴを見ると、普段自分が使っているのとは違う、少し高級そうなシャンプーとリンスが入っている。クレンジングオイルやこれまた少し高級そうな洗顔フォームも並んでいる。

使わないともったいないので、オッさんが贅沢に使う。ゴシゴシと贅沢に洗う。

心なしか、髪質が良くなったような気がした。

 

三度、露天に身体を埋めた。

温泉に浸かるのは、久しぶりだった。この夏は一度も温泉には行かなかったな。

昨年の秋は、いろんな温泉を訪れ、湯に浸かりながら骨折した左腕をマッサージした。

この日、久しぶりに左腕をマッサージした。

 

温泉から上がると、時計は3時20分。

娘の学校はちょうど帰り道にある。私は急いで着替えをして外に出た。

空は来た時と同じように少し暗く、同じように雨が降っていた。

しかし、暗い空の向こうに虹がかかっていた。

 

 

やはり、雨の降る休日は、少しだけ得をした気分になるのだ。

 

 

 


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