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2022-05-21

嶽温泉『田沢旅館』の混浴で 〇〇ス


 

この日は、朝から腹の調子が悪かった。胃のあたりがシクシクする。

理由はわかっていた。前の日に食べた特製手作りの「回鍋肉」が原因だ。「回鍋肉」といえば、豚肉とキャベツが主役だが、脇役のネギ…を入れすぎた。

レシピではネギは半分。でも面倒くさいから丸ごと1本入れた。たっぷり入れるのはいいが、もう少し細かく刻むべきだった。

食べた直後はなんともなかったが、朝方から胃がシクシク泣いていた。

 

ロードで走ろうと思っていたが諦めた。晴れ予報だった天気も、雨マークに変わってる。

しょうがないから掃除でもしよう。ここのところ掃除をサボっていた。

何度かトイレを往復し、掃除をしているうちに汗をかいた。シャワーをしようかと思ったが、せっかくの休みを掃除だけで終わらせるのはもったいない。

こんなときは温泉に限る。無性に硫黄の匂いを嗅ぎたくなった。

 

いつもの年であれば、「嶽温泉」に来るのはロードバイクが先だったが、今年は車となった。

「嶽温泉」には数軒の温泉や食堂がある。嶽キミの季節になると、美味しそうな香りを軒先に漂わせるのが『田沢食堂』だ。

食堂スペースも広いので利用したことのある人も多いだろう。

 

 

『田沢食堂』として親しまれている食堂ではあるが、建物そのものは『田沢旅館』であって、もちろん温泉を備えている。

目の前の広い駐車場に車を停める。車を降りるが、周りにひと気はほとんどない。バスの停留所に観光客と思しき人が一人だけ。

私は、『田沢旅館』側の入り口をガラガラを開けた。中から店の方が顔を出した。

「温泉、いいですか?」と尋ねると、「いいですよ〜」という応え。

400円を支払い、浴場へと向かった。

 

 

階下へ降りるというのは、好きなシチュエーションだ。古遠部温泉も然り。

階段を下りきると、男湯、女湯の入り口がある。

 

 

ここが温泉だと知らなければ、トイレと間違えそうな入り口である。

年季が入っている…というのとは、また違う。適当というか、簡素というか。脱衣所もそんなかんじ。

 

予想通り、脱衣所には誰もいなかった。

ここの温泉には、30年くらい前に訪れたことがあった。奥の浴槽は混浴になっていた記憶がある。

おそるおそる中に入ると、青い色が目の前に広がった。(と言うほど広くはない)

 

 

 

30年前は青くなかったように思う。

おそらく床と壁を塗り直したのだろうか。温泉のぬめりも手伝ってツルツルしていて危ない。

入ってすぐ目の前にある浴槽は、2〜3人サイズ。嶽温泉らしいツンという匂いが鼻をつく。

あまり熱いイメージはなかったが、足を入れてみるとけっこう熱い。

 

奥には窓に面したもう少し大きめの浴槽がある。

この作りは30年前のまま。女湯側と繋がっている混浴である。

 

なにかしら、トポントポンと音がする。

誰かいるのだろうか。地元のおばさんだろうか。それとも温泉マニアの女子大生だろうか。

少しドキドキしながら、仕切りのアクリル板の向こう側を覗いてみた。

 

「失礼しま〜す」

 

 

ドボドボドボと源泉が流れ込む浴槽には、誰もいなかった。

(まあ、そうだよな)

なにやら音が聞こえたのは、このドボドボと流れ込む源泉が、まわりに飛び散っている音のようだった。

 

私はがっかりしたような、でも少しホッとした気持ちになって、明るい日が差し込む青い浴槽に身を埋めた。

浴槽の中で、白い湯の花が拡散されるのが、しばらく人が入っていないことを物語っていた。

熱い湯に浸かり、窓の外の岩木山麓の景色を眺めながら、しばし瞑想をする。

知らぬ間に腹痛も収まっていた。

 

それにしてもここの温泉は、いろんな意味で適当である。

なにしろ、身体を洗おうと思っても、カランが入り口すぐのところにある。それもひとつだけ。

誰かが入ってきたら、ぶつかりそうなものだ。

 

入り口の目の前にある洗い場

 

ここは、ひたすら温泉を味わう…そんな温泉なのだ。

少し酸っぱみのある、硫黄くさい湯を味わう…そんな温泉なのだ。と、思うことにしよう。

そして再び、奥の混浴風呂に一人ゆったりと浸かり、瞑想する。

 

ふと

「春の来るのは〜」と、タダタケの一節を大きな声で歌ってみる。

 

「わいは〜、なんぼ良い声っコだっきゃの〜」

という、おばちゃんの声は、どこからも聴こえてこなかった。

 

『田沢旅館』

青森県弘前市大字常盤野字湯の沢10

 

 

 


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