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2018-05-21

「運動会の約束」


雨で日曜日に順延となった運動会。朝、5時過ぎに携帯を見ると学校からメールが届いていた。予定通り運動会は行うとのことだった。ただグラウンドの状態が良くないので、1時間遅れで始めるらしい。

土曜日に休みを取っていたので、日曜は午前中だけ時間をもらった。幸い、娘の「100m走」はプログラムの2番目だったし、「チャンス走」も全学年の徒競走が終わるとすぐ行われる。その二つを見てから仕事へ行くことにした。

カメラとビデオを持ちグラウンドに到着すると、すでに多くの父兄がシートやテントを張っていた。トラックを見るとまだかなりゲジャゲジャしている。来賓のテントに近づくとタケウチサイクルのおじいちゃんの姿が見えたので、挨拶をしに行く。

写真の大先輩でもあるタケウチのおじいちゃんは、相変わらず元気そうであったが、最近は弘前公園で写真を撮ることが少なくなり、もっぱら近所で撮っているとのこと。いつまでもお元気で、写真を撮り続けてほしいと思う。

実行委員のテントに行くと、合唱部の6年生の女の子がいた。今日の走るコースのことを訊いてみると、どうやらトラックの状態が良くないので、徒競走もフィールド内で走るらしい。5,6年生は直線を往復して走るのだそうだ。

1年生による「選手宣誓」や全体での「応援合戦」も終わると、まもなく5年生の「100m走」だ。私はゴール正面に向かった。さて、ビデオで撮ろうかカメラで撮ろうか悩む。でも記念として考えれば、やはりビデオの方がいいかなあ。

競技が始まった。男子からのスタートだ。娘は何番目に走るのだろうか。前にいた父兄の方が、走る順番が書いてあるらしい紙を持っていたので、ちらと覗き込むと女子2番目のスタートに娘の名前があった。

男子の「100m走」が終わり、さあ女子の番だ。遥か向こうのスタート地点に、女の子たちが並ぶのが見えた。私は2番目に走る娘のスタートに合わせビデオを構えた。

パーーン! 

最初の組がスタートした。私はビデオの画面を見つめていた…ん?端っこを走っている女の子。あれ?娘じゃないか?私はあわててスタートボタンを押しそうとしたが、焦りすぎてどこか違うボタンを押したようだった。娘は何番目あたりを走っているのだろう。正面だからなおさらわからない。

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昨夜、寝る前に運動会の話をした。

年々、運動会が苦手になっている娘。保育園の頃はけっこう速かった。昔のビデオを見ると、少しズルをして1等を獲ったりしていた。小学校に入ってからは3番目くらいになった。そして昨年、4年生の時にはとうとう「ビリッケツ」になった。体つきが華奢で背も小さいので、身体の大きな子との差が出てきたようだ。

今年はどんなグループで走るのか、訊いてみた。どうやら6人で走るらしい。

一般的には日頃のタイム順であったり、身長の順であったりする。私が小学生の頃は、だいたいが身長の順だった。私は背が小さく一番前の方だったので、いつも最初に走る。でもその中ではいつも1位か2位だった。

今回の娘たちの出走順はなんと「くじ引き」で決めたらしい。しかも同じグループにメチャメチャ足の速い子が3人もいるのだそうだ。さらにもう一人もけっこう速いらしい。娘はもう半ば諦め顔で「ビリッケツ」を覚悟しているようだった。

「ま~、気にすんな。でも、諦めないで最後まで全力で走ってみろよ。本気だせばけっこう速いかもよ!」とは言ってみたが、本人はどうもその気にはなれないらしい。

「パパ…3月の誕生日の時に買ってくれるはずだった『ぷにデコスクイーズ』、頑張ったら買ってくれる?」と、娘が言った。

そういえば、2か月前の誕生日、プレゼントする予定だった『ぷにデコスクイーズ』。自分でオリジナルのスクイーズ(食べ物やキャラクターをモチーフにしたプニプニした触感のアクセサリーみたいの)を作って、合唱部の友達にプレゼントしたいのだそうだ。

しかし残念ながら、ネットの販売サイトを見ると、5月にならないと購入できないとのことだった。そのときは諦めて本とペンケースにしたのだが、もうとっくに忘れていたと思っていた。

「う~ん…じゃあ、5位までに入ったら!という約束にしようか」

「えぇ~…うん、わかった」娘は渋々了承した表情でベッドに入った。

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ゴールを駆け抜けた瞬間、娘の表情は笑顔だった気がした。ピントの合わない画面を見ていたので、何位だったのかよくわからなかった。

父兄が並んでいるゴール付近を離れて、娘が待機しているのが見える場所に移動した。身長も小さいが、しゃがむと背中も丸いのでなおさら小さく見える。  

カメラ越しに視線があったので手を振った。娘はてのひらを開いて「5」を示していた。「5位」だったようだ。「5位」がよほど嬉しかったのか、ずっとニコやかな顔をしていた。

各学年の徒競走が終わると、すぐ5年生の「チャンス走」がある。昔で言う「障害物競走」だ。今はこの言葉は使わないようだ。競技は「レンタリスト」という、これまた聞き慣れない名前だが、これも昔風に言えば「借り物競争」である。運動会の用語もグローバル化しているのだろうか。

先ほどの「100m走」のビデオ撮影に失敗していたので、「チャンス走」はカメラで写真を撮ることにした。望遠レンズはピント合わせもシビアなので、ここは連射で撮ることに。今度は出走の順番を間違えないようにした。望遠レンズでスタート位置につく娘も確認できた。

パーーン!

走ってきてメモを受け取り、マイクの前で「借り物」が何であるかを叫ぶ。みんなが四方に散り、誰かや何かを携えてゴールに向かって走ってくる。と思ったら、娘がカメラの視界から消えていた。ファインダーから眼をはずして遠くを見ると、娘はゴールとはまるで違う方向に走っていく。とっくにみんなゴールしている。

娘は何かを叫んでいた。娘の近くにいた女性の方が一緒に手をつないで走り出した。正面からではなく、ゴールの横の方から走り込んできた。おかげでまともな写真も撮れずじまい。

「チャンス走」とは、走るのが遅い子でも「チャンがあるよ」という競技だと思うのだが、昨年も今年も安定の「ビリッケツ」だった。ただ、昨年は玉入れのカゴにボールが入らず、泣きながらのゴールだったが、今日は満面の笑みでのゴールをしてくれた。

仕事が終わり、夜帰ってから訊いてみた。「借り物って何だったの?」 「美しい女性!だって」…そっか…「美しい女性」を探しにわざわざあんな遠くまで行くとは、美意識が高すぎたか。

「でも、100m走は5位だったからね!」最低限の条件をクリアした彼女の顔は、得意満面であった。まともなビデオも写真も撮れなかった自分に比べると、今日の娘は遥かに素晴らしい仕事をしたと思う。

完敗。


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