「 髪を切った日 」 / デジタルカメラマガジン8月号〈デジタルフォト部門〉入賞
娘は、保育園から小学5年生くらいまでは、ずっと髪を伸ばしていた。
6年生のときに伸ばしていた髪を切った。それでも、ボブスタイルだったので髪はまだ顎のラインまであった。
今春、中学生になり、新しく増えた友達の影響もあったのだろうか。「もっと短くしたい」と言った。
6月、初めてショートヘアにした。
写真仲間で美容師をしているコタリナのユーキ君に切ってもらった。前髪も梳(す)いてもらい、かなりボーイッシュに雰囲気になった。娘も随分とお気に入りのようだった。
自宅に帰った頃は夕暮れ時で、部屋の中はすでに暗くなっていたが、シュートヘアにした記念に写真を撮ることにした。
写真には「ポートレイト」と「スナップ」というジャンルがある。
一般的に「ポートレイト」といえば、被写体であるモデルが、撮られることを意識しているもの。「スナップ」は撮られることを意識していない、つまりは知らぬ間に撮られている写真。ということらしい。
そのくらいの違いは、素人の自分にもなんとなくはわかるけれど、でもこれまで自分が撮ってきた写真はどちらなのか?と言われると、よくわからない。
「モデル撮影会」も参加したことはないし、「隠し撮り」でスナップを撮ったこともない。
「人を撮る」とすれば、その相手はほとんどが娘(や娘の友達)で、なんとなくポーズを取っている写真もあれば、なんとなく歩いている写真もある。天を仰ぎながら「ガハハ」と笑っている写真もある。
だから「ポートレイト」のようでもあるけれど、「スナップ」のようでもあって…でも、撮っている自分はそんなことを意識したことはない。
簡単に言ってしまえば、娘を撮る写真は自分にとってすべて「記念写真」である。「記録写真」と言ってもいいかもしれない。
将来、娘が「自分の小さかった頃の写真」を見て、懐かしく思ってくれたらいいな…そんなふうに思いながら撮っている。
家族や友人を撮るとき、おそらく誰もがそんな思いで撮っているのではないだろうか。
「ポートレイト」や「スナップ」というのは、写真業界が作り上げたジャンルにすぎないのだ。
少し暗い部屋の中で、イームズの丸い椅子に娘を座らせた。
座面が小さいので、身体を小さくかがめるポーズで撮った。
ショートヘアになったので、幼くなるかと思いきや、その表情は少しばかり大人びている。彼女の視線が、ファインダー越しにこちらをじっと見ている。
(これは「ポートレイト」だ)と、初めて思った。
大人になり始めた女性に対しては、「スナップ」ではなく「ポートレイト」という言葉の方が似合う。そう思った。
初めてショートヘアにした日の記録。
初めてポートレイトを撮った日の記憶。
その日の記録と記憶が、デジタルカメラマガジン8月号〈デジタルフォト部門〉で入賞していた。
「優秀賞」とはいかず、「佳作」ではあったけれど、選者の写真家〈大和田良 先生〉が以下のような講評を書いてくださった。
暗い画面の中でうずくまるようにして座るシルエットと、長い足と腕のラインに、成長していく身体の美しさが表れているようです。画面左のカーテンの膨らみからは風を感じ、豊かな物語を思わせます。
記録と記憶が、記念の一日になった。
*入賞作品はこちらから → デジタルカメラマガジン8月号〈デジタルフォト部門〉
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