骨折湯治紀行 その九 / 黒石温泉郷 温湯温泉『ファミリー温泉 山賊館』
温湯、板留、落合、長寿、と浅瀬石川沿いにある黒石温泉郷。前回は、落合に振られたけれど、おかげで長寿温泉に浸かることとなった。
というわけで、再び落合温泉へリベンジ…に向かうも、またまた撃沈。数軒ある温泉はどれも営業していない、または準備中?だった。
銭湯のように地元の人を相手するのであれば良いのだろうが、観光客(=宿泊客)を相手に商売している温泉旅館はにとって、このコロナ禍の営業はかなり厳しそうだ。
私は素直に諦めて来た道を戻ろうと思った。
(いや、でも温湯にもいくつかの温泉があったな)
黒石の温湯温泉の中心部には公衆浴場「鶴の湯」があって、いつも多くのお客さんで賑わっているが、「鶴の湯」の周辺にもいくつかの温泉旅館が並んでいる。( 骨折湯治紀行 その弐 / 黒石温泉郷『 鶴の名湯 温湯温泉 』 )
「鶴の湯」のまさに通りを隔てた真向かいにあるのが「ファミリー温泉 山賊館」である。「ファミリー」と「山賊」という二つの言葉にはギャップがあるが、名前の由来はよくわからない。

ファミリー温泉 山賊館
中に入るとロビーは、銭湯というよりは小さな旅館の趣。
受付で料金を払う。なんと!今どき250円というリーズナブルなお値段。いや、リーズナブルという言葉は「価値に合っている」という意味なので、入浴してみないとわからない。でも、受付の女将さん?はとても綺麗な方です^^
「男湯」の暖簾をくぐると脱衣所はこじんまりとした感じ。中を覗くと先客は一人だけ。
くすんだ濃いピンク色のタイル。湯船はひとつだけだが、浴場自体はそんなに狭いわけではない。
しかし、なぜかカランは3つのみ。しかもその間隔がめちゃ狭いのだ。両脇に座っている人がいたら、真ん中を使うのは無理そう。多分3人とも肌が触れ合う感じ(汗)

3人並ぶと、お尻合いになりそう
まあ、でもこの日は二人だけだったので、なんとかお尻合いは免れた。
お湯は無色透明で、柔らかいすべすべ感あり。熱すぎず心地よい温度。ぺろっと味を確かめると、ほんのり薄い塩味と仄かなアブラ的な風味を感じた。
源泉が注がれる音に目を向ける。
山賊のおっさんが、次から次へと新鮮な源泉を口から吐き出していた。

山賊のおっさん
彼は、郷愁漂う表情をしていた。かつて、この黒石の地でつらいことでもあったのだろうか。
私は、この髭面の山賊に妙な親近感を覚え、おっさんのすぐ傍で目を瞑りながら、まったりと湯に浸かった。
ふと、おっさんが吐き出す源泉の音とは違う、別の流れの音がかすかに聞こえてくる。
川のせせらぎの音だ。
私は湯船から出て、窓越しに外を見た。
八甲田の雪解け水が、浅瀬石川に音を立てていた。
ここは、春の音を感じることのできる、なんとも贅沢な温泉だった。
ファミリー温泉 山賊館
料金:250円 シャンプー、ボディソープ完備
住所・黒石市温湯字鶴泉61
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