空虚な時間 ④ / 『津軽中里駅』にて撮り鉄に変身ス
「3日間&半日」の二日め。空虚な時間旅のスケジュールはなし。
前日は半日の休みながらも、いきなり「大館のラーメン&あいのりの赤湯」と、少々飛ばしすぎた。これでは、せっかく無駄な時間を過ごす予定が、充実した時間の過ごし方に変わってしまう。いかん。
とりあえず前日は南へ下ったので、本日は北へ向かおう。天気もどんよりとして、テンションも上がらず。なかなか良さそうな空虚な時間旅だ。
どこまで北に走ろうか。
金木は一年前に写真旅をしたし、十三湖は昨夏に追悼ライドをしたばかり。さしあたっての目的もないし、ここは津軽鉄道に沿って終点まで行ってみよう。
どんよりとした空から、霙まじりの雨が降ってきた。ますますテンションは降下する。
こんな日は、アンニュイな洋楽に限る。
洋楽のアルバムの中でも好きなアルバムベスト3に入る「Everything But The Girl」の『EDEN』をチョイス。
イギリスの男女2人組のユニットで、PopだけどCoolでJazzy、それでいてフォークのようなアコースティックな音が、この暗めの空にはよく合う。
とくに3曲目の「Tender Blue」(YouTubeより)が良い。男女のボーカルが交互に歌うのだけれど、同じキーで歌っているのが心地よい。
国道沿いにある金木の軽食喫茶で昼飯を食べた後、そのまま旧道を北へと向かった。
金木や十三湖へ行くときは、かなりの確率で「米マイロード」を走るので、旧道を走ることは滅多にない。金木は「斜陽館」があるので、何度か行ったことがあるけれど、中里(旧中里町)の街中は歩いたことがなかった。
中泊町という名に変わってからは、中里はちょっと目立たない存在になった。かつて村だった小泊の方が、海があるせいか存在感があるように思う。
今、思い描く中里のイメージは、ストーブ列車で有名な「津軽鉄道」の終点駅ということだろうか。

大沢内溜池
五所川原から金木、中里へと向かう途中には、多くの湖沼や溜池が存在する。
金木と中里の中間あたりに位置する「大沢内溜池」には、まだ氷が張っていて、氷上に木々が立っていた。モノクロが似合う、いかにもテンションが下がりそうな風景にテンションが上がる。
中里の街中に入る。
メインストリートには、いくつかの店が並んでいるが、その多くはシャッターが下りていた。車でぐるっと街を一周し、駅の方へ向かってみた。
「津軽鉄道」の終点だからといって、とくに趣のある駅舎でもなかった。
津軽人なら多くの人が知っている「金多豆蔵」の絵やポスターがあちこちにあった。人形劇の一座が中里にあるということは、中里が発祥なのだろうか。
駅の駐車場に車を停め、少し歩いてみる。
数ヶ月ぶりに「X-100F」を手にした。iPhone13 PROの性能に甘えすぎ、ずっとカメラを触っていなかった。
小さな踏切を渡ると、線路の向こうに「終点駅の終点」があった。二本の線路が一つになり、その向こうには雪があり、崖の行き止まりがあった。

終点駅の終点

終点の古い踏切
終点駅の終点を目の当たりにし、(なんとなく「空虚な時間」にふさわしい光景だな…)と思いつつ、車に乗り込もうとした、その時。
「プシューーーーーー!」
と列車がホームに入ってきた。ストーブ列車だった。
何故か、クン!とテンションが上がる。
自分は写真好きではあるが、まったく撮り鉄ではない。わざわざ鉄道写真を撮りに行ったこともない。
なのに何故か、クン!とテンションが上がった。
ストーブ列車には詳しくないのだが、見たところ4両編成で、2両が新しめ(走れメロス号)で、他の2両が古い。
その古い方がストーブ列車になっているのだろうか。観光客らしき人たちが乗り降りしていて、ホームは少し賑やかになった。
新しめの2両が切り離され、線路の終点に向かってゆっくり走り出した。切り返してくるようだ。

終点駅の終点へ向かうメロス号
切り返し、戻ってきたメロス号は、再び古い列車と連結し、五所川原方面へと向かう準備に入る。
ホームには撮り鉄と思しき数人が、いろんなアングルからストーブ列車を撮っていた。
たぶん、撮り鉄には「鉄道が好きで、その記録のために写真を撮っている人」と「写真が好きで、中でも鉄道写真が好きな人」の2種類が存在する。(もちろんその両方も)
私は、そのどちらでもなかったが、このときばかりは撮り鉄に見られていただろうし、まさに撮り鉄になっていた。
それにしても、遠くから列車がやってくると、妙にドキッとするのは何故だろうか。
列車は人工物ではあるけれど、野生動物や鳥を撮る感覚に近いかもしれない。
突然現れて過ぎ去っていくという、偶然だけど一瞬という光景が、人を惹きつけるのだろう。

ストーブ列車
ほんの少しの間だが、撮り鉄になってみて感じたこと。
下手くそな写真からもわかるが、あまり撮り鉄には向いていないらしい。
クン!と上がったテンションがすっかり元に戻っていた私は、五所川原へと向かうストーブ列車をぼぉ〜と見送った。
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