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2022-06-14

ツール・ド・ツガル / 八甲田山を一周して、酸ヶ湯温泉でぬぐだまル その弐


 

(前回からの続き)

八甲田ロープウェーまでの激坂は真っ直ぐである。

青森市街から酸ヶ湯までヒルクライムしてくる人にとって、この最後の坂はかなりキツいと思う。

同じ標高差とはいえ、弘前から黒石を経由してくる方が、幾分楽かもしれない。城ヶ倉渓谷あたりの景色を楽しむこともできるし、気持ち的にも楽だと思う。

 

道路標識に「長登り」と書かれてあるだけに、なかなかの坂だ。

でも少し頑張れば、ロープウェーが見えてくる。そして、もう少し頑張れば酸ヶ湯温泉が見えてくるのだ。

そう思えば、なんとか脚は回るのだ。

 

八甲田ロープウェーに乗ったのは、おそらく3回くらいだろうか。

一度、娘と一緒に乗ったのは覚えているが、あとはちゃんとした記憶がない。

映画「八甲田山」で、緒形拳が乗っているシーンは何故か覚えている。

 

ロープウェー山麓駅

 

ロープウェー乗り場で一休み。

あまりお客さんはいないようだ。ロープウェーは動いているのかどうか、よくわからなかった。

数分休んですぐ出発。ここから酸ヶ湯までは、あと少しだ。

 

と思ったのが間違いだった。

いや、自分の記憶では、ロープウェーは酸ヶ湯温泉のすぐ近くだったのだ。

それは、酸ヶ湯から下ってきたときの記憶なのかもしれない。確かに、この急な坂を下るのであれば、ものの数分で着く。

記憶というものは、自分に都合のいいように書き換えられる。

 

都合のいい記憶と戦いながら、ようやく酸ヶ湯温泉に戻ってきた。

よし、「千人風呂」に浸かろう!

 

立派な木の看板

 

玄関を入ったところで入浴券を買う。千円。温泉のプライスではない。

でもここは青森が誇る名湯だ。その辺の温泉銭湯ではないのだ。

 

2020年の4月にも「酸ヶ湯温泉」のことを書いていた。

自分のブログは、確かに温泉のことやラーメンのことを多く書いているけれど、あくまで個人の日記。情報ブログではない。だから、同じ温泉やラーメン屋が再登場してもい良しとする。(→ ツール・ド・ツガル / 「酸ヶ湯温泉」ノ『千人風呂』ニ浸カル  )

 

前回はコロナ禍の真っ只中で、「千人風呂」には三人しか客がいなかった。

しかし、観光客も戻りつつあるのだろうか、「千人風呂」には十人ほどの客がいた。千人に対し十人とは少し寂しい気もするが、このぐらいがちょうど良い。

  

 

身体を洗い流した後、「熱の湯」という手前の湯船に浸かる。(「熱の湯」というわりに熱くない)

白濁した湯は、硫黄の匂いがする。手についた湯を舐めてみると、少し苦くしょっぱい。

湯船の半分が「男」、半分が「女」と仕切られているが、混浴である。男性が五人ほど浸かっていたが、女性はいなかった。

私は、顔のギリギリまで湯に埋めながら目を瞑っていた。さすがに八甲田を一周した後は全身が怠い。

 

しばらくすると、女性の声が聞こえた。ふと見ると、混浴の女性エリアに二人のご婦人の姿があった。

白髪でお洒落なヘアスタイルをしたご婦人だったが、あまりジロジロ見るのも失礼なので、私はまた目を瞑った。

その時だった。60歳くらいとみられるゴツい体つきをしたオッさんが、下半身を隠すことなく女性エリアの方に近づいていった。

「ワシの〇〇はどんなもんじゃい」と言わんばかりの勢いで近づいた後、エリアの境界線あたりに浸かった。

この様子だと話しかけるのかな?と思ったが、話しかけることはなく、じっとご婦人たちの方を見つめていた。

ご婦人お二人は、男性陣には背を向けたまま楽しそうに話し込んでいた。その様子を、オッさんはじーっと見ていた。

何か酷い行動や言動があるわけでもないが、じーっと見続けるのは如何なものか。

やがて、ご婦人たちはその雰囲気を察したのか、体の前をタオルで上品に隠しながら、衝立の向こうに消えていった。

オッさんは黙って浴槽に浸かっていたが、どこか残念そうだった。

 

こういった場合は、気軽にご婦人たちに話しかけるのがいいのか、気を遣って知らないふりがいいのか、よくわからない。

相手が知り合いなのか、そうでないのか。また、その場の雰囲気がどうであるのか。それによっても違うのかもしれないし。

しかし、オッさんのあのご婦人を凝視する様子は、あまり良いものではない。気持ちは少しわかるけど。

 

「見ればまいね 見せればまいね」

 

とりあえず、この素晴らしい温泉を気持ちよく満喫するためには、これを守りましょう。

 

酸ヶ湯のポスターより

 

このくらい混んでれば、恥ずかしくないのかも。

まあ、こんな密な温泉は今どきありえないけどね。

 

八甲田山を一周した心地よい疲労感。硫黄の匂いがする名湯に浸かる幸福感。

そしてなんとも言えぬ、男の悲しくて、シケベなサガ感を味わうことのできたツーリングであった。

 

 

 

 


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