2023 弘前公園の記録 ③ 「reflection」
「 真の旅の発見とは 新しい景色を見ることではない 新しい視点を持つことだ 」 ~マルセル・プルースト~
3回目のテーマは「reflection(リフレクション)」つまり「反射」である。
前回の「光と影」に似たテーマではあるが、公園や桜の写真を撮る際に「reflection」をモティーフにすることは少ない。
あるとすれば、濠の水面に映り込む桜だろうが、どちらかといえば濠を埋め尽くす花筏の方が巷では人気のようだ。
なぜ「reflection」を取り上げたかといえば、たまたまなのではあるが弘前公園に出かけた日の朝は雨が降っていた。
だから公園の至るところに水溜りができていたのだ。
できたばかりの水溜りには、まだ桜の花びらは少なく、水面に映る何かが見え隠れしていた。
水面やガラスに映り込む風景をカメラに収めるのは、特段新しい視点でも手法でもない。
ただ、その映り込む風景を覗きこむうちに、なにやら得体の知れぬ疑問が湧いてきたりする。
本丸の天守閣のまわりをぐるっと歩くと、幾つかの水溜りがあった。
覗きこむと、天守の屋根が映っていた。
桜や天守にカメラを向ける多くの人の中で、地面に向かってカメラを向けるオッさんは変質者に見えていたかもしれない。
本丸から見下ろすように撮った写真。
手間に咲いている桜。濠に散る桜。風で波立つ水面。モノクロームで撮ると、何が何だかわからない画になってしまう。
そのカオス感が好きだ。マスターベーションも甚だしい。
西濠から工業高校をまわり、西の郭に入ると大銀杏の古木がある。
晩秋になると、この黄金色に輝くこの巨大な古木のまわりには多くの人だかりができるが、今は閑散としている。
風が強いせいか、水溜りに映る古木はやはり何が何だかわからない。
こうしてみると、モネが描いた「睡蓮」は、モネのタッチだけではなく、実際に水面が波立っていたのかもしれないと思った。
公園を一周し、再び南内門へと向かう途中、弘前城情報館へ立ち寄る。
近年できたばかりの施設だが、園内に溶け込むように設計されながらも、モダンな造りになっている。
本丸側に面する大きなガラス窓は、よく見るとわずかに青みがかっていて、濠沿いに咲く桜を抑えめな色で映し出していた。
弘前城情報館の入口にあるサインは、鏡面仕上げになっていた。
その文字の向こうに、枝垂れ桜が見えた。
「館」という文字にカメラを近づけるオッさんを見て、情報館の職員は不審者通報したかどうかはわからない。
水面やガラスに映る「reflection」を覗き込んでいるうちに、何が現実で、何が虚構なのかわからなくなった。
はたして人間の目に映るモノだけが、真実なのだろうか。
「なんで鏡に映るモノは左右反対になるの? 左右は反対になるけど、なんで上下は反対にならないの?」
昔、子どもから受けた質問に「そんなこと、当たり前だろ…」と思いながら言葉で説明できなかった。
「reflection」という言葉には「自省」という意味があることを思い出した。
おまけ。
遅い昼飯は「三忠食堂」の中華そばを食べた。贅沢にチャーシュー麺にした。
千円という観光地プライスであったが、それで観光客気分を味わえるのならそれもまた良しである。
出汁もさることながら、しょっぱ味のあるチャーシューに津軽を感じた。
澄んだスープには、満足気なオッさんの顔が映っていた。
* 次回のテーマは「建築と桜」(最終回)です。
( 参照 → 弘前公園の記録② 「光と影」)
コメントを残す