2023 弘前公園の記録 ④ 「建築と桜」
「 真の旅の発見とは 新しい景色を見ることではない 新しい視点を持つことだ 」 ~マルセル・プルースト~
この言葉の意味はなんとなく理解できたとしても、実践することは難しい。
「自分は他人とは視点が違う。他人とは違う仕事をしている」という思いはあったとしても、それは決して新しいものではなく、いつもと同じやり方だったりするからだ。
それは「その人の得意なこと」と見てもらえる場合もあるが「いつも同じ。ワンパターン」と見られてしまうこともある。
実際、自分の撮る写真を見ると「いつも同じだな」と思う。
朽ちかけた案内板。
よく、朽ちてしまった建物や廃墟を撮るフォトグラファーがいるが、自分は廃墟は好きではない。
朽ちかけてはいるが、まだ現役で頑張っている建物が好きだ。人間の営みが残っているからだ。
南内門を抜け、弘前市民会館の方へ歩いていく。
弘前公園の中には、建築家前川國男が手がけた建築が3棟存在する。(市民会館、博物館、緑の相談所)
そして、外濠沿いには中央高校講堂、弘前市役所と、弘前公園界隈だけでも5つもの前川建築を目にすることができる。
こうしてみると、公園や公共建築というものは、共生する植物とともにランドスケープが形成されるということがわかる。
とくに弘前公園において「建築と桜」は多くの人の記憶に残る要素となっている。
個人的には、自分がなんどもステージに立ったことがある「弘前市民会館」が一番好きだ。
市民会館の周りをぐるっと歩いてみた。
植物は、太陽の光を受けるために、お互いが干渉しないように枝葉を伸ばすと聞いたことがある。
窓のないコンクリートの壁は、一切の妥協を許さない存在感を放っている。
通称「赤ドア」のある側の壁面。
西陽が映し出す木々のシルエットが美しい陰影を見せる。
市民会館はもちろん大ホールがメインの建物であるが、左手側にある管理棟の造りも素敵だ。
中央の通路を抜け、裏手に入ると人は誰もいなく、ひっそりとしている。
コンクリートの壁や柱、対照的な配色のレンガ、重厚な黒枠の窓、そして中に見える階段。
散った花びらとともに物静かで美しい佇まいを見せる。
さらに裏へと歩くと、ちょうど西陽が桜の木の影を描いていた。
真四角の黒枠窓と桜のシルエット。
おそらく、ここを見た観光客は誰もいないだろう。
第3回のテーマに載せてもよかったかもしれない写真。
洗い場に溜まった水に浮かぶ桜の花びらと、わずかに歪みながら映る管理棟。
今回の桜の写真の中で、もっとも好きな写真である。
コンクリートの柱の陰に置かれた津軽の冬の名残り。
満開の桜よりも、こんな桜が好きなのだ。
市民会館と市役所に挟まれるように存在する「藤田記念庭園」の洋館。
前川建築ではないが、こういった歴史的建築物が随所にあるのも、弘前散策の醍醐味。
3時間ほど、ひとりでゆっくりと歩いた弘前公園。
新しい視点を持つことができたのかどうかは、わからない。
でも久しぶりにファインダーを覗くことができたのは良かった。
あれこれ考えるよりも、やはり身体を動かしてみることが大切だ。
そう思えた一日であった。
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