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2018-02-09

浅草とアート ① / 「 BOOK AND BED ASAKUSA 」に泊まってみた


うっすらと雪が積もっていたが、日も射していた。

娘を学校に送り出した後、彼女が残したご飯と焼き鮭を朝食にする。昨晩、ほとんど準備をしていなかったので急いで一泊分の支度をした。

霜降りグレーのスエットにオールドジーンズ。足元はベージュのデザート。それだけだと、どう見てもひと昔、いやふた昔前の大学生にしか見えない格好なので、首元に「ASTIER de VILLATTE」のスカーフを巻く。

ド定番すぎるほどのスタンダードアイテムを少しだけヘンテコリンに着るのが昔から好きだ。スタイリスト「馬場圭介」氏を中心とするユニットが手掛けた伝説のブランド「IMPERIAL MEASURE」のダッフルを羽織って外に出た。

 

この時期は展示会が多く、出張も増える。

先々週はJALだったが、今回は新幹線で行くことになった。ただJRパックは一人分で申し込むとやたらと高い。なので、新幹線往復だけを購入してホテルは別に取ることにした。いつものパックであれば、渋谷界隈に泊まることがほとんどだが、せっかくなのでいつもとは違うエリアに泊まってみようと思い立った。

 

そこで思い出したのが、最近、雑誌やSNSで目にしていた「BOOK AND BED」

なんでも、”泊まれる本屋”がコンセプトの低価格で宿泊できるホテルらしい。簡単に言えば、今時のカプセルホテルってとこだろうか。お手頃な値段設定もあり若い人たちに人気らしい。全国に何カ所かあるようだが浅草のホテルは場所柄もあり、外国人にも人気のようだ。

しょっちゅう出張には来るが、浅草に足を延ばすということはほとんどないので、そこに泊まってみることにした。いつもマンネリな過ごし方をするよりもオモシロいかもしれない。

本も読めて、低価格。観光というよりは、いろんな地を訪ねては面白い宿に寝泊まりする「旅」感覚を味わえる。いや、むしろ経済感覚にも優れたイマドキの若者にとってはこういうスタイルの方がお洒落に映るのだろう。

 

”ファッション”を仕事にしている以上、こういった話題の宿泊施設も経験してみようと思ったのだ。

 

浅草は、展示会が開かれることの多い渋谷・原宿界隈からはかなり遠い。渋谷からの銀座線に乗ると、降りる浅草駅が最終駅だ。

30分あまり電車に揺られることになるが、渋谷から行くときも、浅草から来るときも共に始発だからだいたいは座れる。そう考えると悪くはない。

一日目は千駄ヶ谷で仕事を終えた。すっかり暗くなった青山をあとにし、地下鉄銀座線の外苑前駅へと歩いた。

 

浅草に来たのは何時ぶりだろうか。

駅の階段を上り、外の交差点に出ると、摩天楼のようにそびえ立つスカイツリーが目の前にあった。いや正確には少し距離はあるのだが、巨大な塔は目の前に見えた。

8時を回っていたので、チェックインする前に晩飯を済ませることにした。浅草駅の地下街に美味しい飯屋があるとは聞いていたのだが、やはりここはお上りさんよろしく、浅草で最も有名な「神谷バー」へ行くしかない。交差点に立つと、斜め向こうに「神谷バー」は見えた。

スマホで検索したら1階がバーで2階がレストランとあったので、まっすぐ2階へ上がる。レトロな外観にマッチした衣装のウェイトレスが席に案内してくれた。

「神谷バー」で最も有名なのが「電気ブラン」である。もちろん名前は聞いたことはあるが飲んだことはない。迷わず「電気ブラン」を注文した。晩飯は「海老フライとカニクリームコロッケ」にした。オッさんらしく、ご飯やパンは無しで。

 

「電気ブラン」


 

店内はけっこう広く、なんとなくお金持ちそうな御年配の方々が十数人ほどいた。私の隣にいた上品そうな紳士は、地元の方なのかキープしたウィスキーのボトルを置き、ステーキを食べていた。

5分ほどして「電気ブラン」が来た。予想よりも小さなグラスだった。しかし一口飲んだだけで、これが十分な量だと理解した。
「電気ブラン」はブランデーベースのカクテルで、度数が30〜40度もあるらしい。

ほどなくして「カニクリームコロッケと海老フライ」が来た。値段は920円だったので、東京の観光地値段としては高くないなあと思ったが、コロッケ1個と海老フライ1尾だからやはり高いのかもしれない。

 

 

夜の浅草を散策しようと思い、チェックイン時間は8時にしていたが、別に焦る必要もない。私はゆっくりと晩御飯を食べることにした。

 

先々週の東京の大雪もすっかり溶けてはいたが、夜はやはり寒い。「電気ブラン」の強烈なアルコールで少し身体も温まったので、のんびり散策をしながらホテルへ向かった。

 

雷門の前を通ると、ちらほらとまだ観光客がいる。私は門くぐり抜け、仲見世通りを少しだけ歩いた。細長く連なる灯りの先に浅草寺が見えた。そのまま散策も考えたがチェックインが遅くなるといけないので、仲見世を引き返しホテルに向かった。

 

仲見世通り


 

ホテルはすぐそばにあった。ホテルといえば、建物がまるごと一棟ホテルというのが普通だが、「BOOK AND BED」はビルの6階ワンフロアーだけがホテルになっていた。

エレベーターで上がり、目の前に現れた大きな鉄製のドアを開けると、薄暗いフロントカウンターがあった。ナイトクラブのチケットカウンターの趣だ。

スタッフの女性の方が来て、部屋の使い方などを説明してくれた。WEBで調べた時に、「スタッフがとてもフレンドリー」というレビューがあったのだが、そのフレンドリーぶりは予想以上であった。

「青森だったら雪すごいですね!」とか私が首からぶら下げていたカメラを見て「それ!フィルムですか?」「どこのですか?」「バンバン撮っちゃってください!」とか、あまりのフレンドリーさに押され気味。

インダストリアルなロッカーのように見えるドアを開けて中に入ると、今どきの「ポパイ」に出てくるようなロフトスタイルな空間が広がっていた。真ん中にカウンターとソファが並んでいる。両サイドにはカプセルホテルのような寝床がずらりと並び、片側には本が陳列されている。(フロア内の様子はコチラから → BOOK AND BED

 

洗面所


 

私の部屋は一番端っこだった。カーテンを開けて中に入ると、そこにはまさに寝床だけがあった。

壁と天井は合板で覆われていた。これもインダストリアルな雰囲気の演出なのかもしれない。思ったほど狭くはなく、座る分には天井に頭をぶつけることもない。立ち上がるのは無理だけども。

 

スタッフの子が「夜の浅草寺ステキですよ!私は昼より好きです!」とフレンドリーに話してたので、早速行ってみることにした。

部屋に鍵はないので少々不安はあったが、中にセイフティボックスがあったので、財布などはそこに入れた。

フロントを出るときにスタッフの女の子が私を見て、「グイっ」と親指を立てた。フレンドリーだ。

 

再び雷門をくぐり、仲見世通りを歩いた。もちろん店はすべて閉まっていた。シャッターには浅草らしい絵が描かれている。

仲見世を抜けると、再び大きな門があった。「宝蔵門」というらしい。そのすぐ先に「浅草寺」がある。「浅草寺」は遥かに大きく、近づくと単焦点のカメラには収まらない。左手を見ると夜の闇の中に「五重塔」が浮かび上がっていた。

 

宝蔵門


 

浮かぶ五重塔


 

浅草寺


 

「夜の方がいいです」というのも頷ける光景だ。しばしの間、シャッターを切りながら、夜の浅草を満喫してホテルに帰った。

 

帰ると、さっきのスタッフの女の子が私の顔を見るなり「どう?ステキだったでしょ?」と言わんばかりの得意気な表情をしていた。

よく見ると、多くの若い客や外国の客と談笑を重ねている。どうやら、なるべく多くの泊まり客と話をしコミュニケーションをとるのが、このホテルのやり方らしい。セキュリティも兼ねているのだろう。

だから、プライベートを気にする人や、のんびり一人で寛ぎたい人には少々厳しいかもしれない。いや、ほとんどの大人の観光客やビジネスマンであればそうであろうから、このホテルは若者や浅草観光の外国の方々をターゲットにしているのだと思った。

 

10時を過ぎてはいたが、フロア内にはラップミュージックが流れていた。友達同士談笑をしている人もいれば、ソファに寝転がり本を読む人、カウンターでPCを見ている人。周りの人を特段気にすることなく、皆それぞれが思いのままに時間を過ごしていた。

我々の世代は、仲間同士は同部屋でやたらとドンチャンするけども、知らない人とはなるべく空間を別にしたがる。でも最近の若い人たちは、ネットカフェなどで過ごすことに慣れているのか、他人が邪魔さえしなければ、空間を共にするのは苦でないのかも。というよりもあまり他人に興味を示さないのか。

いや、よくわからないが…世の中のグローバル化に伴い、日本の若者も外国人の感覚に近づいてるのかな、という感じがした。

 

私も若者のふりをして、カウンターに座りPCを開けた。無料Wi-Fiもあるので、その点は便利である。

結局、陳列されてあった本はほとんど読まなかった。いや読もうとも思ったのだが、実は思いのほか本の数は多くもなく、写真集とかが沢山あるイメージを勝手にしていたが、そういった類のものはほとんどなかったのだ。

ドリンクチケットを一枚購入していたので、バーカウンターに持って行ったのだが、アルコールの提供は0時までと言われた。時計を見ると5分過ぎていた。「大目に見てよ〜」と思ったのだが、カウンターにいる若者の目はニコニコとお断りの笑顔を見せていた。私は諦めて寝ることにした。

 

マットレスは決してフカフカではなかったが、寝心地は悪くなかった。少しだけ上の泊まり客の音が響いた。

明朝、早く起きれたら隅田川沿いを散歩してみよう。

慣れぬ空間の中で、はたして眠れるだろうか?…と思ったが、知らぬうちに小さな部屋の中で眠りに落ちていた。

 

* 「浅草とアート」というタイトルなのに、アートにまったく触れておりませんが、それは後日。


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