「 ちいさな 約束 」
昨日の朝、娘はなかなか起きなかった。
いつまでも布団の中でグズグズしている。
「ほら、起きろ。7時になるぞ!」
眠そうな目をこすりながら、ようやく起きてきた。
ゆっくりと朝食をとる時間もない。
昨夜買っておいたグラタンを食べることにした。
起きたばかりで食欲もないのか、三分の一くらいしか食べなかった。
学校へ行く前に「おなかが痛い」と言った。
「まだ時間大丈夫だからトイレに行っといで」と私は言った。
しばらくして、トイレから出てきたが、あまりすっきりしなかったようだ。
「学校でしたくなったら、ちゃんとトイレ行けよ」
「うん」
あまり元気とは言えない表情で、娘は玄関を出た。
「あっちの玄関にいるから」と私は言った。
「あっちの玄関」とは、もうひとつの玄関のことだ。
10年ほど前、増築した小さな住居にも玄関をつくった。
そこの玄関から、学校が見える。
登校していく、子供たちの姿が見える。

横断歩道を渡り、向こう側の通りを歩く娘の姿が小さく見えた。
こっちを振り向いてくれたら手を振ろうと思ったが、娘は俯き加減のまま校内に消えていった。
9時半ころ、仕事に行こうとしたら学校から連絡があった。
娘が嘔吐したらしい。
授業中、気持ちが悪くなりトイレに向かう途中で吐いてしまったようだ。
学校に迎えに行くと、娘は保健室にいた。
「パパ」と娘は言った。
娘を自宅に連れて帰った。
幸いにも、妻の仕事が休みだった。
たまに二人でのんびり過ごすのも悪くはない。
夜、帰宅すると娘はケロっとした顔でiPadをやっていた。
「ゲームのやりすぎで目が疲れて具合悪くなったりするんだから、今日はゲームすんなよ」
と言っといたのだが。
病気で学校を休んだときの、あの妙なウキウキした気分は、わからないでもない。
自分も小さい頃は、鰺ヶ沢中央病院の売店で「ウルトラマン」の人形を買ってもらえるのでは?とワクワクした。
人形が無理でも、帰り道にある本屋で「ドラえもん」のコミックを買ってもらったりした。
今朝も相変わらず、寝起きが悪い。
それでも、具合は悪くなさそうだった。
シスコーンとイチゴを食べて、娘は元気に学校へ行った。
「あっちの玄関にいるから」と私は言った。
横断歩道を渡り、向こう側の通りを歩く娘の姿が小さく見えた。
娘がこっちを振り向いて手を振った。
私も大きく手を振った。
校内に入る直前に、再び振り向いて手を振った。
私も、再び大きく手を振った。

毎朝、出がけにする「小さな約束」
何年前から続いているのか、忘れてしまったけど。
高学年になれば、娘も恥ずかしくなり、ヤメてしまうかもしれない。
毎朝、出がけする、ほんの「小さな約束」
それが守られた日は、なんとなく気持ちの良い一日の始まりになる。
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