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2018-06-14

ツール・ド・ツガル 『 志賀坊森林公園 & 大鰐ロイヤルの激坂 』


昨日、北海道では雪が降ったそうだ。6月半ばだというのに寒い。

大館、十和田湖と、南と東に向かって走ったので、今日は北に向かおうと考えていた。久しぶりに十三湖を回って「しじみラーメン」でも食べてこようと思っていたが、早朝外に出てみたら空が暗く寒い。どうも海に向かって走る天気ではないようだ。

私は娘を送り出した後、「どうしたものかなあ〜」と布団に潜り込んでいると「ニャア〜」と猫のタンポポが潜り込んできた。猫も寒いのだろう。グルルルと鳴らす猫の喉を撫でているうちに自分も寝てしまったようだ。毎度のことだ。

目を覚ました後、少し逡巡して今日は近場を走ることにした。近場でも今シーズンまだ走ったことのないコースを走ってみよう。私は思い立って「志賀坊森林公園」に向かった。

「志賀坊森林公園」 平賀の街並みを抜けて、緑色の温泉で有名な「新屋温泉」を通り過ぎ、そのまままっすぐ走るとやがて激坂が見えてくる。その頂上付近にあるのが「志賀坊森林公園」だ。津軽の風景を撮り歩く多くの写真愛好家たちと、一部の変態チャリダーに愛されているスポットである。

これまでも何度かロードバイクで上ったことはあるが、とにかく激坂ぶりが半端ではない。練習不足と増量した今の自分にはたして上れるのだろうか。そんな不安を抱きながら脚を回していると、やがて視界の向こうに壁のように立ちはだかる坂が見えてきた。

坂の下で一息。呼吸…というよりも気持ちを整える。激坂ではあるが距離はそんなにないので、ゆっくりであれば脚をつかずに上りきれるかもしれない。意を決してペダルを漕ぎ出した。そしてすぐに、「ゆっくりであれば…」というのが間違っていたことに気付く。必死に脚を回してもゆっくりなのだ。漕ぎ出していきなり止まりそうである。特に最初の200mくらいが恐ろしい勾配だ。

とにかく引き足を意識して黙々と脚を回す。遅くてもいいので同じペースを維持して回す。しばらく上っているとランナーが駆け下りてきた。(こんなところを上ってるランナーがいるんだ。スゲ〜なあ)もしかしたら、向こうも同じようなことを思っていたかもしれないが、なにぶん向こうは下りだ。爽やかな笑顔で挨拶をくれた。こちらは首を縦に振るのが精一杯。

ところどころ、周りの木々から落ちた沢山の白い花びらが、濡れた状態で路一面を覆っていて、後輪が幾度となく空回りする。それほどの急勾配なのだ。なるべく乾いた路面を探しながら必死に上る。あと、どれくらいなのだろう。

やがて遠くに小さな看板が見えてきた。どうやら頂上までの距離が書いてあるようだ。「志賀坊森林公園まであと450m」…距離の表示としては、なんとも微妙な数字だがあともう少しだ。カーブを曲がると公園の建物が見えてきた。450mとあったが、公園の駐車場までは200mくらいのようだ。最後のチカラを振り絞って脚を回した。

「ふぅ〜!着いた!」なんとか脚をつかずに上ることができた。ロードバイクを芝生の上に寝かせ、ガクガクする脚でベンチに座りこんだ。

山の麓には平賀の集落が見え、遥か遠くには岩木山が見える。低く垂れ込めた雲に覆われて頂は見えない。しばし、ぼぉ〜として津軽の景色を眺めていた。

「さて、この後はどうしようか。朝飯もまともに食べてないし、どこかに昼飯を食べに行こうか」 

とりあえず、今しがた上ってきたばかりの激坂を下ることにした。(何を食べるかは走りながら考えよう) それにしてもこの激坂、下るのも一苦労だ。ブレーキをかけっぱなしなので手の甲が痛い。おまけに体勢もきつく首の筋肉が変になりそうだ。

なんとか下りきり、平賀の街中へ入ると、そのまま石川方面へ向かった。北からの風が強く冷たい。(これは、十三湖に行ってたら大変だったかもな) そんなことを思いながら走っていると、身体が温まるどころか冷えてきた。なんとなく味噌ラーメンが食べたくなった。(このままアップルロードを走れば、あの店で味噌ラーメンが食えるなあ)などと思いながら走る。

すると、遥か視界の先に大鰐の山が見えた。(大鰐ロイヤルさかえ食堂のカツカレーもすてがたいなあ)なんてことを考えているうちに、変な考えが頭をヨギった。私のロードバイクはアップルロードの方へは向かわずに、大鰐に向かった。

大鰐の街中に入り、いつものルートを走る。川を渡り右折すると急な坂が現れる。そこを上ると「ワイナリーホテルまで5.3km」の案内板が見えた。自転車でこの坂を上る人間には「ワイナリー」と呼ぶ人はいない。ここは「ロイヤル」の坂なのだ。ホテルの名前が変わっても「ロイヤル」の激坂なのだ。

とりあえず昼飯にしよう。朝からろくに何も食べていない。このまま走っていたらぶっ倒れてしまう。激坂を少しだけ上ると「さかえ食堂」があった。サイクルラックにロードを立てかけて店の中に入った。客は自分一人だった。メニューも見ずにカツカレーを注文した。

以前、紹介したが、ここのカツカレーはとにかく美味いしボリュームが半端ない。まずカツカレーなのにカツが見えないくらいにルーがたっぷりなのだ。ここを訪れるチャリダーの98%くらいは、このカツカレーを注文してるんじゃないかなと思う。

「お待ちどうさま〜」とカツカレーが目の前に来た。やっぱりスゴいボリューム。そしてやっぱり美味しい。無心に頬ばる。

ボリューム満点ではあったが、あっという間に完食してしまった。膨れたお腹を休ませながら考えた。「さて、どうしよう」 目の前には激坂が続いている。しかしこの膨れたお腹のまま走っても大丈夫だろうか。払い戻ししないだろうか。そもそも「志賀坊」を上ってきたばかりで、この坂を上れるだろうか。

どうしたらいいのか決めることができないまま会計をした。(とりあえず上のリフト乗り場のあたりまで上ってみて、あとはそれからだ) そう思いながら、今食べたばかりのカツカレーが出てこないことを祈りながらゆっくりと脚を回した。

瞬間的に20%はあろうかという超激坂を超えるとリフト乗り場に着く。しかし、なんとなくそこを走り過ぎた。そして山からの湧き水が流れ出ているところまで来て立ち止まった。さあ、ここからこの膨れたお腹のまま上ろうか。休み休みでもいいからゆっくり上ろうか。頭で考えてもしょうがない、まずは上ってみよう。途中、胃が悲鳴を上げたらおとなしく諦める。一番軽いギアにして、なるべく同じペースで脚を回すように心がけてゆっくりと上った。

「岩木山ヒルクライム」を直前にして、こんな激坂を上ったところで本番のタイムが短縮できるわけではないし、体重が減るわけでもない。ただ、目の前に立ちはだかる激坂のビジュアルに対して、少しでもいいから精神的な耐性をつけておきたいのだ。岩木山スカイラインはかなりキツく長い坂ではあるけれど「志賀坊」や「ロイヤル」ほどの斜度はない。だから気持ちの面で、キツい坂に慣れておきたい…ただそれだけのための挑戦である。

「志賀坊」に比べるとカーブも多い。そのカーブを曲がった時に再び現れる激坂に気持ちも折れそうになる。しかしそれがここの試練だ。かなりキツい斜度を上りきったところに、ちょうどよく休めそうな場所がある。そこでも心が折れそうになるが我慢する。幸いにも、カツカレーはおとなしく消化されているようだった。

しばらく走ると看板が見えてきた。「あと3km」 何も考えずに脚を回していれば3kmなんてたいしたことない。そう無理やり思い込み脚を回す。しかしここからがまた、けっこうな勾配の坂が続いた。かなりの長い距離を上った気がした。

遠くに看板が見えた。(もしかしたら、あと1kmの看板かもしれない) そう思った自分は甘々だった。看板には「あと2km」と書かれていた。かなりの距離を上ったつもりであったが、やはり自分の走りが遅いだけなのだ。でもあと2kmだ。距離は確実に縮まっている。上からゴルフを終えてきたらしい車と何台かすれ違う。決して路面の状態が良いとは言えない路に脚をとられそうになる。

看板が見えてきた。今度こそは紛れもなく「あと1km」の看板だ。(もうここまできたら、絶対に脚をつかずに上りきってやる。カツカレー、おとなしくしてろよー)

空が開けてきた。遠くに建物らしきものが見えてきた。私はダンシングに切り替えて一気に上った。

「ああー!着いた!上りきったー!」

リフトのところまで行き、眼下を眺めた。大鰐の街と遠くに弘前らしき街が見えた。そして先ほど「志賀坊」から見たばかりの岩木山が、ここからも見えた。ここから見える岩木山も、頂は低く垂れ込めた雲に覆われていた。先ほど見た岩木山と同じ姿が、確かにこの二つの坂を同じ日に上ったということを教えてくれてる気がした。

私はすぐそばにあるヤギの牧場のところへ行った。何匹ものヤギが私の姿を見て、「メェ〜」と鳴いていた。私は柵にバイクを立てかけて、ヤギに向かって「おいで〜」と叫んだ。するとずっと下のほうにいた一匹が私に向かって駆け上がってきた。私は一瞬ひるんだが、ヤギは柵に立てかけたバイクに顔を近づけて、そして舐めていた。私は、ヤギの頭を撫でた。

それにしても、よくこの脚で二つの激坂を上ったもんだ。なんとか脚もつかずに上れた。それに、上り切った後にあのカツカレーを食べる人はいると思うが、食べた直後に上る人はいないかもしれない。ちょっと無謀だったかな。

おそらくは、チャリの先輩方の1.5倍くらいの時間がかかっている。岩木山のヒルクライムもそうだ。今年もそんなにタイムは変わることはないと思うが、とりあえずは昨年の自分を上回れるように頑張ろう。

前回の十和田湖一周に次いで、今回もなんとか脚が攣ることなく上り切ることができた。それも自分にとっては大きな収穫だったなあと思いながら、これを書いている最中に、両足が思い切り攣り、悶絶してしまった。

 
追記:二つの坂のジョンガリ具合


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