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2018-11-11

「バイヤー」の仕事はムツカシくてオモシロい / 『 洋服とアート 』


 

結局、作品集もTシャツも買うことはなく、私は「TSUTAYA」をあとにした。八幡通りを歩き、並木橋の近くで、最近若者に人気のある東京ブランド「Son of the Cheese」の展示会に顔を出す。ここは、同行していた店のスタッフにほとんどを任せることにしている。会場には自分のようなオッサンはいないし、オッサンが下手に口を出すとロクなことはないのだ。

「Son of the Cheese」のショップがすぐ近所にあった。店内にあるBARで別のブランドが小さなTシャツコレクションを並べているということを聞いた。山手線の跨線橋を越え、その場所に向かった。

 

 

30年以上も前に、ロンドンファッションの聖地として名を馳せた「Ready Steady Go!」の店があったビルの2階だった。イギリスのファッションといえば、クラシックなカントリースタイル、ワールズエンドに代表されるパンクファッション、同じ音楽でありながらもスタイルの違うモッズファッションなどがあった。「Ready Steady Go!」はモッズのアイテムが多く揃っていた。ミリタリーのモッズパーカに「CAVERN」のパンツや「Dr.Martens」の編上げブーツを合わのるが定番のスタイルだ。

このモッズファッションのスタイルは、今の現在になってもなぜか若い人たちにウケがいいようだ。多くのデザイナーたちが若い頃に好んだスタイルなのかもしれない。それに比べ、昔渋谷の若者を虜にした「渋カジスタイル」はほとんど見なくなった。映画『トップガン』で流行ったB−3、「schott」や「VANSON」のシングルライダース。確かに、今となっては若い子が買うには高すぎるし、女子ウケが悪そうだ。

ビルの2階にはいると、ハンガー2ラックのみにTシャツがかけられていた。ここのブランドのTシャツは昨年から扱っているのだが、他のTシャツとちょっと違っていてオモシロい。まず人気のポケTなのだが、ポケットの形が丸いのだ。デザイナー曰く、CDを入れるポケットらしい。実際並んでいるTシャツにはCDが入っていた。実際入れて歩く人はいないだろう。でもオモシロいと思う。

そして、さらにオモシロいのがプリントである。友達が描いてくれた手書きの画がプリントされてある。その画のほとんどが海外のアーティストなのだ。「これって本人の許可もらってるの?」って訊いたら、たまたまそこに描いている友人がいて「もらってません」と笑って言っていた。でも、あの有名な「Beastie Boys」が彼の画を見て、怒るどころか「自分のジャケットに使わせて欲しい」と言ったらしく、オフィシャルになったとのこと!

個人の肖像権やアーティストの著作権が大きく叫ばれる昨今だが、「Beastie Boys」のようにストリートからのし上がったアーティストはやはり心が大きいなと思った。アーティストの写真やリアルな画であればいろいろ問題があるのかもしれないが、彼の温かく微妙なヘタウマタッチであれば、アーティストも寛大な気持ちになるのだろう。人の気持ちに触れる「アート」っていいなと思う。

外に出ると東京の空も暮れかかっていた。最後の一軒は原宿とんちゃん通りの「LABRAT」。今、日本で最もエキサイティングなプリントTをリリースしているブランドの一つ。今回も世界各国のいろんなアーティストとのコラボTが並んでいた。来年のリリースになるので、あまり詳しくは書けないけど、エロいのからエグいの、パロディなのと、来年のディーライトは楽しくなりそうだ。

LABRATにあったソファの落書き

同行していたスタッフは泊まりだったが、私は新幹線の日帰りなので、東京駅に向かうため渋谷の駅に向かって歩いた。いつもなら東京駅で駅弁を買うところなのだが、今日はなんとなくビールとつまみにしようと思い、原宿でラーメンを食べることにした。昔と違い、原宿でラーメンを食べることはなくなった。店もあまり知らない。歩きながら検索してみると、検索で出てきた店がすぐ目の前にあった。でも妙にメニューが多くチェーン店のようなイメージだった。

もう少し歩くと、とんこつで有名な「山頭火」があった。10年以上前に食べた記憶がある。あまりコテコテ気分ではなかったが、店に入ってみた。カウンターに男性が一人、カップルが一組と、意外に客が少なかった。店でイチオシしていた塩ラーメンを注文した。空いていたせいかすぐにラーメンがきた。一口すすってみる。思っていた以上にコテコテではなかった。昔の記憶など曖昧なものだ。衝撃的な美味さを覚えたわけではなかったが、知らず知らずのうちに完食していた。こういう味が長年続く秘訣なのだろうか?などと思ったりもした。

適度な満足感を覚えながら店を出て、原宿の裏通りを歩いた。いわゆる裏原宿やキャットストリートはもはや外国の観光客で溢れているが、さらに一本路地を入ると、いきなり喧騒が消える。洒落た美容院やカフェがあり、ひっそりと古着屋がある。こういう一昔前の東京らしい光景もまだ残っているのだな。

細い路地を通り抜け、明治通りに出る。今や海外のスポーツ&アウトドアブランドの旗艦店となった通りには、もはや昔の面影はない。大手のセレクトショップがお土産セレクトショップを出店していた。和風のモノを揃えるその店は、おそらく海外の観光客をターゲットにしたものであろう。ビジネスのモデルとしては、ひとつの新しい戦略なのだろうが、なんとなくシラけた気持ちになった。そんなことを言うと、老害と言われるのかもしれない。

 

 

でも今日一日で、いろんなブランドのオモシロい商品をたくさん見たし、たくさん刺激ももらったし、はからずもアートについてもいろいろ考える時間を持つことができた。老害と言われぬよう、難しいけどオモシロい5%のモノを仕入れてみよう。そして着てみよう。

東京駅に着いた。娘に頼まれた「おそ松さん」の缶バッジを買わないといけない。彼女の「おそ松さん」ブームは、去年ですでに終わったと思っていたのだが、つい最近復活したらしい。ファッションにもリバイバルはつきものだ。

どんな缶バッジを買ったらいいのだろう。今回の一番の難しいバイイングとなった。


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