2019 初ライド / 「 恋してMoney 」
「しめ鯖好ぎだが?」とメッセージしたら「大好き!」と返事が来た。毎年、新年を迎えると丸一石油のKSK氏からMTBを借りて初ライドをする。岩木山神社まで雪道を走り、一年の安全祈願をしてくるのだ。
いつも借りっぱなしだと申し訳ないので、八戸の知人から頂いた「しめ鯖」を持参した。一年365日のうち、363日ほど働いているKSK氏。いつ会ってもパワーをもらうことのできるナイス中2ガイである。
いつもの赤いマウンテンバイクを借りて出発した。道の路肩には1mほどの雪が積もっていたが、路面はしっかりとアスファルトが見えていた。気温も最近にしては少し高めなので、神社までの道のりも凍結している箇所はないだろう。スパイクの装着はナシでも大丈夫そうだった。
津軽でこのくらいの路面であれば、自転車を乗っている地元民はけっこういる。とくに爺さんなんかは、ほっかむりをしながらのんびりと走っている。前方にそんな爺さんが乗っている自転車が見えた。ロードバイクであれば颯爽と追い越すのであるが、MTBだとギコギコとゆっくり追い越すしかできない。
サドルが少し低かったので、信号待ちの間にサドルの高さを調節した。慣れない作業で少し戸惑っていると、知らぬ間に爺さんに追い越されていた。私は再びMTBを走らせ、再びギコギコと追い越した。
岩木山は上半分ほどが雲に覆われていた。念のためカメラをウエストバックに入れていたが、なんとなく取り出す機会もないままにバイパス坂を上り始めることになった。三分の一ほど上ると、路面が少しだけ白くなり始めた。そして道の中央には、水分を含んだ雪が延々と白く長い線を作っていた。
時折、車がその白い線を崩して私を追い越していく。1mくらい離れているか、または反対車線まで離れて追い越してくれるといいのだが、真ん中の雪塊を思い切り蹴散らして追い越していくと、私は濡れた雪を浴びることになる。
冷え切っていれば雪が飛んでくることはないのだが、少し暖気しているせいか容赦なく飛んでくる。坂の上に着く頃には、私の右足はずぶ濡れになっていた。
陽当たりがいいせいなのか、上の方ではアスファルトが顔を出していた。それにしても久しぶりのライド。わずか数キロを走っただけなのに、太腿はすぐに張り始めた。
同じバイクでもロードとは違い、MTBはなかなか前に進んでくれない。乗っている姿勢は楽なのだけれど、その分負荷のかかる筋肉がいつもと違っていて、知らぬうちに身体のあちこちが疲労している。
交差点を右折するとあとはひたすら直線を漕ぐ。黙々と漕ぐ。やがて、初詣の赤い旗が何本もゆらめいているのが、視界の向こうに見えてきた。最後の30mほどを立ち漕ぎしてフィニッシュ。太腿はパンパンになった。私の口からある言葉が出た。
「恋してMoney!」
「恋してMoney」 恋愛で金儲けをするいかがわしいビジネスにも聞こえそうだが、津軽人なら誰でもわかる「こいしてまね」=「疲れてダメだ」という津軽弁である。
「こい」は、「恋」でも「鯉」でもなく、「濃い」でもなければ「来い!」でもなく「故意」でもない。「疲れた」なのだ。いや、津軽人とはいえ、今の娘たち世代には通じないかもしれない。
つい何日か前に、娘と初詣に来たばかりであったが、やはりバイクを漕いでくるのはまた気分が違うものだ。さすがに階段を上まで登る気力はなかったので、一番下の鳥居の前からこの一年の交通安全を祈って手をあわせた。
少し休んで何か飲もうかと思い、ふと携帯を見たとき、今日が木曜日なのに気づいた。「あ、やべー!ゴミ出してね!」 私はすぐにMTBにまたがり、坂を下った。
雪が溶けて「ゲジャゲジャ」になった道を走ると、前から後ろから「スパネ」が上がる。ゴーグルも水を浴び、ケツはじょっぷりと冷たくなっているのがわかる。でもこの感覚、なぜかキライではないのだ。今、俺は走っているぞ!という感覚。どうせ、あとは帰ってシャワーを浴びるだけだ。いくらでもかかってこーい!
道の中央には、水分を含んだ雪が延々と白く長い線を作っていた。そのとき、ご婦人の運転する一台の車が私を追い越した。ご婦人の車は白い線を思いきり崩し、これ以上ないというほどの濡れ雪の塊を私めがけて飛ばしていった。私は頭の先から足の先まで「スノーマン」…いや「全身濡れ雪に覆われた走るオッさん」となった。
私はしばし呆然となりながら「全身濡れ雪に覆われた走るオッさん」のまま坂を下った。下りきったところで、全身についている濡れ雪を落とした。身体以上に、気持ちが萎えていた。私の口は再び呟いた。
「恋してMoney…」
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