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2019-03-15

「去勢手術の日」


 

先日、愛猫のティティを病院に連れていってきた。去勢手術のためだ。

ティティがウチに来たのは5ヶ月ほど前のこと。まだ生まれて1ヶ月くらいの小さな猫だった。

恐らくは、子孫を残すべく、遺伝子的に生きている面もあろう。彼には申し訳ないと思ったが、手術のために予約を入れることにした。

手術の前日は、夜21時からは絶食とのことだったので、それまでにたらふく食べさせてあげた。ただ、先住猫のポポにはご飯を提供しないといけない。21時以降はティティは久しぶりにケージの中に入ることになった。

家中を走り回るのが大好きなティティにとって、狭いケージの中はどうもシンドそうだ。力ずくで天板を押し上げ脱出しようとするので、紐でキツく天板を固定した。外に出れないとわかると、彼はニャーゴニャーゴと叫びはじめた。

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「キョセイ」といえば、思いつくのは「巨星」「虚勢」「去勢」だろうか。大物の俳優や芸術家が亡くなると、新聞などで「巨星墜つ」という見出しを目にすることがある。しかし自分が日頃、言葉として使うことはない。

あるとすれば「虚勢」と「去勢」だが、前者は「虚勢を張る」という言い方にほぼ尽きるし、後者は「去勢(手術)」でしか使わないように思う。もちろん、両者の意味は全く別物であるが、これまでは「虚」なのか「去」なのかはわからないが、なんとなく一つの言葉として使っていたように思う。おそらく、話し言葉として使っている時は、脳内でいちいち漢字に変換していないのだろう。

まして、この言葉を文書にする機会はほとんどない。いざ、こうやって書いてみて「あ、違うんだった」と気付く有様である。それだけ、PCやスマホの変換作業に頼りすぎて、日々自分で書くということを怠っている証拠だろう。いや、それ以前に自分の漢字に対する知識が無さすぎたというだけの話である…

人間とは違い、そんな「虚勢」など張らずに、思いのままに走り回っていたティティの「去勢」の日の朝が来た。

昨夜21時以降、水だけは飲んでもいいことになっていたが、手術当日は朝6時を過ぎると水を飲むのも禁止だった。私は5時半すぎに起きて、ケージから水の入った器を取り出した。ほんのりと薄暗い部屋の中で、彼は朧げな眼差しで私を見ていた。

たまたま私が休みだったので、朝一で病院に連れて行くことにした。移動用のケージに入れようとしたが、なかなか入りたがらない。いつもならば何か小さな入り口を見つけると、自ら飛び込んで行くのだが、やはり感じるものがあるのだろうか。私は強引に押し込んだ。

車に乗り込み、助手席にケージを置いた。ティティはわずかな隙間から猫パンチを出しながら、心なしか不安げに鳴いていた。「ティ!」と私はなんども声を掛けた。

病院は9時から診療が始まるが、8時半には待合室に入れるらしい。病院は自宅のすぐ近所の「なとわ動物病院」だ。私たちが一番乗りだった。受付を済ませソファに座り、しばしの間二人の時間を過ごした。彼はケージの隙間から、鼻を出して終始鳴いていた。「ティ」と私はなんども小さな声を掛けた。

9時になり名前が呼ばれた。診察室に入るとケージからティティが出された。先生が触診をした後に、わかりやすい説明をしてくださった。メスと違い、オスはそんなに手術の時間もかからないらしい。また手術そのものも難しくはないとのこと。ただ、全身麻酔をするので、ごく稀にであるが麻酔のアレルギーなどで亡くなる場合もあるのだそうだ。少しだけ厳粛な気持ちになる。

先生から一通りの説明を受けた後、ティティはそのまま預けることになった。手術そのものは午後に行い、受け取りは夕方の17時以降になるとのことだった。私は心の中で「ティ」と小さく言った。

夜19時。娘と一緒に病院へ行った。診察室に入ると、ケージの中に元気そうなティティの姿があった。先生から説明を聞く。どうやら手術は無事に済んだらしい。

娘が嬉しそうにケージを抱えて外に出た。朝と同じように、ケージの中から猫パンチを出しながら鳴いていたが、不安そうな声には聞こえなかった。

ただ、残念なことに、翌日の朝までは再び絶食なのだそうだ。まだ麻酔が効いている状態なので、胃腸がきちんと働いてくれないのだ。かわいそうだが、もう一晩、大きなケージで過ごすことになった。

 

 

翌朝6時、ケージの扉を開けた。いつもの器に彼の好きなレトルトを開けると、彼は無我夢中でかぶりついた。この食いっぷり。いずれ、あっという間に大きくなるのだろう。

二日間の空腹を満たした彼に向かって「ティ!!!」と叫ぶと、彼は私の胸のあたりまで思い切りジャンプをして飛びついた。「勢いが去る」ことは当分無さそうだ。

 

 


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