卒業式
「ゴォ〜」
明け方、暴風の音で目が覚めた。
「春の嵐」という言葉があるけれど、まさに、そんな「春の嵐」が吹き荒れた2020年3月20日の春分の日。娘の卒業式があった。
はたして卒業式は行われるのだろうか。そんな雰囲気が日本中に漂う今年の3月だったが、卒業生、先生方、そして卒業生の保護者のみの出席で、和徳小学校の卒業式は行われた。
体育館に集まったすべての人がマスクをしていた。3月初旬から休校になっていたため、卒業式の練習はなく、当日ぶっつけ本番の卒業式。
「ぶっつけ本番だから、少しくらい間違ってもいいですよ」と、担任の先生からの言葉があり、会場には妙な緊張感とリラックス感に包まれていた。
昨今の卒業式では、羽織袴姿の女の子が多い。男の子はブレザー姿が主流だ。
私が小学校の頃は、誰もが進学する中学校の学生服とセーラー服姿で卒業式に参列した。男子はその日のために、頭を丸坊主にしたものだった。
卒業生が入場する。
6年1組の名簿最後の娘が入ってきた。卒業生の中で、唯一ひとりだけ、ワンピースドレスを着ていた。淡くくすんだブルーのワンピースと白いシューズ。
6年前は赤い靴を履いていた。

そうだ。あれから6年が経った。
自宅の窓から学校が見えた。学校が近すぎて、何度も遅刻しそうになった。
卵焼きとソーセージ。いつも同じような朝食ばかりだったけど、それでも朝食は抜かずに必死に食べてくれた。
横断報道を渡り、向こう側を走っていく娘に手を振ると、大きく手を振り返してくれた。密かに大切にしていたこの約束を、6年間守り続けてくれた。
「はい!」
彼女の声はひときわ会場に響き渡った気がした。合唱部で鍛えただけあって、返事は立派だった。
録音された「校歌」が流れる。マスク姿の子どもたちが歌うことはなかった。が、それは娘たち合唱部が歌う校歌だった。
そういえば、東北大会に向けて重唱を録音した時に、いつか使うことがあるかもしれないと「校歌」も歌い、録音したのだった。
在校生や来賓の姿もなく、校歌を歌うこともなく、規模を縮小して行われた卒業式。
元号が「令和」に変わって初めて行われた卒業式。
娘にとって初めての卒業式。
「こんな前代未聞な卒業式は、かえって思い出に残るだろう、将来笑い話になるだろう」と皆が言う。きっとそうに違いない。
けれど、どんなに強烈に残る思い出であれ、いつかその記憶は淡く儚いものになる。

1:1のスクエアで撮れた写真が、いつの間にか縦構図でなければ、収まらなくなっていた。
カメラを構えながら、そんな思いを巡らせた、暴風の吹き荒れた2020年の春分の日。
淡く儚くはなっても、この日を忘れることはないだろう。

卒業、おめでとう。
中学校にいっても、無理せず、自分のペースで頑張れよ。
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