八戸の夜は更けて
2日続けて昼にラーメンを食べるという失態…いや、至福を堪能した八戸だったが、久しぶりの泊まりということで、夜の街にも繰り出してみることにした。
夕方、店のスタッフに「夜、一人で軽く飯を食うなら、どっかいいとこある?」と尋ねてみた。
数人で飲み食いするのなら、八戸の美味しい海の幸を味わえる店もあるらしい。しかし、一人で晩飯となると、彼らも思いつかないようだ。二人とも家庭があるし、外で一人飲みながら飯を食う機会もないだろうから、しょうがない。
私自身も、カウンターで独りしっぽりと飲む。カウンター越しに店の人と話をしながら美味しい肴をつまむ。とかは、あまり得意ではない。きっと飲みながらスマホを見てしまうのが関の山。
若いスタッフのMくんが言った。
「『おかげさん』ていう店、どうですか?」
ホテルからも歩いていける距離にある、小料理の店らしい。
「たぶん、定食みたいなのもあると思うし、噂によると熟女が二人でやってるらしいですよ」と言った。
(なぬ?熟女とな!)
それは気になる。いやいや、熟女とはいっても誰も美女とは言ってはおらぬ。騙されてはいけない。でも気になる。
「ちょっと街の様子を見てくるわ」
(事前に熟女の店を確かめにいくんだべな?)
後輩スタッフの怪訝な目を背後に感じながら、私は夕暮れに染まり始めた八戸の繁華街を歩いてみることにした。
18時を過ぎた八戸の繁華街(六日町〜十六日町界隈)は、思っていた以上に人が出ていた。
前回訪れたときは、新型コロナの影響がモロだったので、夜の街は静まり返っていた。今現在も、また第2波がくるのではと言われているが、意外にも街は賑わっていた。
カメラを持ってきていなかったので、スマホで夕暮れの街の様子を撮ってみる。
八戸は弘前以上に商業施設が郊外に多く、日中の中心街は昔に比べると人通りがめっきり少なくなった。それでもやはり夜が近づくにつれ、街は賑わいを見せ始める。
大きな通りと並行して、小さな路地には個性的な店がごちゃごちゃと並んでいた。
「口一丁れんさ街」は電線が絡み合い、路地の雑然とした雰囲気を演出している。
写真(とくに風景写真)を撮る人の中には、よく「電線がジャマだ」と言う人がいるけど、自分はごちゃごちゃした電線大好きです。
路地の先に「おかげさん」の看板が見えた。どうやら開店の準備をしているらしい。入り口からチラと中を覗くと、件の熟女と思われる女性がカウンターにいた。
「あら〜お兄さん!いらっしゃい〜!一杯やってって〜」
と、強引に店内に連れ込まれたらヤバいヤバいと思い、私は早足で店の前を通り過ぎた。(もちろんそんな呼び込みはないし、とても料理が美味しい人気のお店だそうです)
やっぱり一人なら、どっかで軽く定食を食べて、ホテルへ帰るのが良さそうだ。けど、夜でもやってる食堂って案外ないんだよなあ。
と、プラプラ歩いていたら、いきなり目の前にスゴい店が現れた。
(こ、これは…渋すぎる…)
まずは建物の外観そのものが、なんかスゴい。そして、あまりにも年季の入りすぎた暖簾は店先に出てはいたが、はたして営業しているのだろうか。
暖簾の上に「南部屋食堂」の文字が見えた。
いきなり、ここを攻める勇気はなかった。が、後から検索してみたら、しっかり「食べログ」でも紹介されているお店で、どうやら「激シブ」を好み方々には随分と人気のある店らしい。ぜひとも次回チャレンジしてみたい。
暮れかかった八戸の繁華街を歩いてみたが、思っていた以上に興味をそそる小路があった。
女優の吉永小百合が、JR東日本のCMロケをしたという「たぬき小路」も、オモシロそうな店が軒を連ねている。大学生らしい若い子がギターで弾き語りをしながら、撮影をしていた。YouTubeにでもUPするのだろうか。
でもやはり夜の街を味わうには、暖簾をくぐり、じっくりとお酒を味わうに限るわけだが、ただ今のこのご時世、なんとなくじっくりという気分にはなれず。
今回は、なんとか熟女の誘惑に負けずに済んだけれど、世の中がもう少し落ち着いたら素直にカウンターで呑んでみようかしら。
店に戻り、熟女の店を断念したことをスタッフに伝えると、笑いながら店長のO君が言った。
『ジャッキー』どうですか? 昔の喫茶みたいな食堂ですけど、カツカレーが美味いって聞いたことありますよ」
『ジャッキー』とな。なんともジャンキーな名前だ。
夏至からまだ数日しか経っていなかったが、八戸の夜は更けはじめていた。いざ。
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