【 声楽アンサンブルコンテスト青森県大会 】 金賞1位に輝く!
今年初めてのステージに立った。
しかし、目の前に広がる観客席に聴衆はほとんどいない。上を見上げると、2階席に3人の審査員だけが見えた。
いつもとは違い、2列に間隔をあけて並ぶ。後列で歌うのはいつ以来だろうか。一番右端にいる大輔くんの合図で、「Orlando di Lasso」の『 Timor et tremor 』が会場に流れ始めた。
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「合唱団Apio」は、五所川原市で活動する10数名の小さなアンサンブル。
五所川原高校音楽部の後輩でもある大輔くんが創設したのが、もう20数年前になるだろうか。500年ほど前のルネサンス期の曲を主に歌う。青森県内でも、もはや古参と言ってもいいかもしれない。
私が「Apio」に籍を置いていたのは、もう20年ほども前のことだ。どのような経緯で参加したのかは、すでに忘れてしまった。当時は、古い教会で練習をしていて、ストーブを囲みながら「エレミアの哀歌」を歌った記憶がある。
数年間、何度か一緒のステージに立ったが、結婚したあたりから足が遠のくようになった。
その後、大学の先輩の誘いもあり、「みちのく銀行男声合唱団」で歌うようになった自分だったが、大輔くんが「みち銀」で歌う機会もあったので交流は続いていた。
この夏、MTBで左腕を骨折した。
ロードバイクで津軽路を走ることも、写真を撮ることもできなかった。でも、歌は歌える。この世の現状では、ステージで歌えるという保証はないが、歌うことはできる。
大輔くんにメッセージをしてみた。すぐに返事が来た。
「今回、ベースの音が欲しい曲をやるので、待ってます!」
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久しぶりのステージで緊張があったのだろうか。
ここ数日の雪かきで、身体中がガチガチに凝り固まっていたのもあったかもしれない。声が思うように前に飛ばない。
〈一般の部〉のトップバッターとして「みち銀」のメンバーとしても出演していた。2グループの練習、リハーサルと続いたので喉に少しだけ疲れがあった。
低いF#の音を出すことができない。低い音をしっかり出すことが自分の役割のひとつであったが、その役割を果たすことができなかった。
演奏をしながら、私は気持ちを切りかえて、なるべく力を抜いて楽に歌うようにした。役割は果たせなくとも、少しでも音の厚みとなれるよう…「Apio」のベースとなれるよう、心掛けた。
感染対策のもとに開催された【 声楽アンサンブルコンテスト 】
「出演者は、自分の演奏が終わったらなるべく帰るように」という異例のお達しがあり、私は「Apio」のメンバーに挨拶をして、すぐ帰途に着いた。閉会式や表彰式も行われないらしい。夜に合唱連盟のサイトで発表があるのだそうだ。
私は帰りの車の中で、役割を果たせなかった自分に対し、何か悶々としたものを感じていた。
「役割を果たせない」と言えば、偉そうに聞こえるかもしれないが、各パートが1〜2人というアンサンブルでは、ひとりひとりのパフォーマンスが全体を左右することもある。思うように歌えなかった自分に対し、悔しさが残っていた。
大雪の中、弘前に着く頃には、すでに2時間近くを要していた。私の身体はますますガチガチになっていた。
まあ、結果はどうであれ、とりあえず終わった。冷蔵庫から缶ビールを取り出してプシュっと。フゥ〜
そのとき、ピロンと携帯が鳴った。ベースの盟友、長谷川さんからのメッセージだった。
「結果出てる!全国だ!」
金賞は「Apio」1団体だけだった。
(えーーーー!マジか!)
疲れを癒すはずのビールは、その場で祝杯に変わっていた。
【声楽アンサンブルコンテスト】は県大会を抜けると、そのまま全国大会へと進む。一昨年は「みち銀」のメンバーとして参加できたが、「Apio」のメンバーとして全国へ行くのは初めてだ。
ただ、このコロナ禍の中で全国大会が開催されるのかどうかはわからない。それは、私たちにはどうしようもできないことだ。
できることは、またしっかりと練習をすること。追加の曲もあるから、早く音を取ること。ちゃんと感染対策をすること。これ大事。
しかしながら、自分がしっかりと歌えなくとも金賞に輝くとは、やはり、大輔くんをはじめ、素晴らしいメンバーに恵まれているからこそだ。
考えてみると…自分が良かれと感じる下の音がビンビン響くような声は、もしかしたら全体のハーモニーにとって、必ずしも良いとは限らないのかもしれない。
声量がなく響きは弱いが、チカラを抜いた声の方が全体としてハーモニーしていたのかもしれない。どちらにしても、自分の声はまだまだ未熟だということだ。
(自分が「万事良し」と過信している時は、俯瞰してみると「そうではない」ことの方が多い。肝に銘じておこう)
福島音楽堂のステージでは、今回歌った歌の他に、さらに2曲ほど歌わなくてはならない。
またしばらくの間、ワインをちびちびとやりながら、家庭内騒音を響かせる日が続く。
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