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2021-03-04

「 岩木山ヒルクライム と コッペパン 」


 

岩木山を一周するネックレスロードを走っていた。

これまでの自分であれば、ロードバイクで走るのだが、この日は自分の足で走っていた。つまりマラソンをしているのだ。自分の前には、5人ほどの集団がいる。ついていけるだろうか。

 

と、その時、

「どいてぇ~どいてぇ〜!ミナオさんに追いつくんだから〜」と、後方から叫び声が聞こえた…と思った瞬間、ビューン!と女性ライダーが真横を通り過ぎた。

マラソンと同時にロードのレースもやっているらしい。しかしよく見ると、彼女が乗っているのはロードバイクではなくママチャリのようだ。

「ミナオさん」とは、地元のレースで名前を見かける常勝アスリートだったように記憶している。

彼女は、デカいお尻を左右に振りながら、あっという間に視界から消えていった。

 

やがて、左折するポイントが見えてきた。いよいよ岩木山の上りに入る。

記憶にあるスカイラインゲートの光景とは随分違っていた。道は暗く狭い。それにスカイラインなら右折のはずだ。

いや、道というよりは、そこは洞窟だった。この洞窟が岩木山の山頂へと続いているのだろうか。

 

「チャレンジヒルクライムラン岩木山 2017」より

 

 

足元がゴツゴツとした、かなり険しい洞窟内の坂を上ると、少し開けた場所に出た。道が3方向に分かれている。どの道を行けば上へと進めるのだろうか。

中には、自分の身体が通らないほどの狭い道もあった。それにしても目印となる標識もない。

 

周りを見渡すと、訪れた人が休憩するためなのだろうか、小さな食堂があった。でも営業はしていないようだ。

食堂には窓があり、下界を望むことができる。よくこんな洞窟内に作ったものだ。

 

どうしたらいいものか逡巡していると、ちょうど店の主人らしき方が出てきた。

「あの、すいません。上の方へ行く道を探してるのですが、おわかりでしょうか?」

「ああ、あの奥の戸を開ければ、あるよ」

店の主人が教えてくれた戸は、店の奥にある、なにやら床の間のようなところにあった。

その戸を開けてみると、下の方と、上の方へに続く階段が左右に分かれてある。上の方を目指す私は、上へと続く階段を上ることにした。

 

 

 

しかし、それは洞窟内にあるゴツゴツしたようなものではなく、一般の住宅にあるような階段だった。

ちょうど住宅一階分の階段を上ったところに部屋があった。部屋は数台のパソコンがあり、いろんなものが散乱していた。

 

その汚い部屋の中央に、デカいウサギが寝ている。いや、よく見るとデカいウサギの着ぐるみだった。

少しだけ身の危険も感じたが、私はそのデカいウサギに声をかけてみた。ウサギはムクッと起き上がった。

私は身構えた。ウサギが着ぐるみの上半身を脱ぐと、中から肥満の男が現れた。

 

男はいかにも「オタク」な雰囲気を漂わせている。かなり肥満で、髪も薄く、あまり清潔そうには見えない。年齢はまだ20代だろうか。

私は、少しビビりながらオタク男に事情を説明したが、意外にも彼は快く応対してくれた。彼は、その部屋からさらに上へと続く階段へ案内してくれた。

 

一緒に長い階段を上る。やがて最上階らしき部屋のドアを開けると、中は広々としたリビングになっていた。

オタク男の兄弟姉妹と思われる若者が何人かいた。男の子二人はまだ幼い感じだったが、三姉妹はみな二十歳前後に見える。そして驚いたことに、あのオタクと血が繋がっているのか?と思うほど、三姉妹は美しかった。

しばらくすると、彼らの母親と思しき人が姿を見せた。食堂でお会いしたご主人の奥様のようだ。どこかで見た顔だった。そういえば、何度か私の店に来てくれたことがある。向こうも私を覚えていた。

 

かつては弘前の街で暮らしていたが、街の暮らしから離れたくなり、この岩木山の中腹に自宅を建てたのだそうだ。

それにしても家の半分以上は、山の中に隠れている。一体どのようにして建てられたのだろうか。

 

私は、彼らを前にして、改めて岩木山を上るレースに参加していることを伝えた。

すると三姉妹のうちの一人が言った。

「みんなで、パワーを与えましょう!」

 

やがて、大きなバスケット籠が目の前に運ばれてきた。中には美味しそうな小さなコッペパンがたくさん入っている。

「さあ、みんなでこのパンの上に手をかざして!」

 

 

兄弟姉妹みんなと母親がバスケットを囲んで手をかざす。すると中のコッペパンが金色に光りだした。

「さあ、あなたもどうぞ!」

私は、恐る恐る…でも、なにか大きなチカラをもらえるような気がして、黄金色の光の中に手を入れた。

(オオォォォォォ…..)

 

 

 

ピピピピっ…ピピピピっ…

という音で目を覚ました。時計は6時半を指している。

 

テーブルの上に、パンがあった。

それは、黄金色に輝くコッペパンではなく、

娘に食べさせようと買っておいた、焼きそばパンだった。

 

 

 


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