ツール・ド・ツガル / 鰺ヶ沢〜山田野地区の菜の花畑〜
世の中のゴールデンウィークも終わり、ようやく自分が休めるこの日。
岩木山もくっきりと映える青空。久しぶりにロードバイクを車に積み込んで、鰺ヶ沢方面を目指した。
ツーリングを終えた後はいつものように温泉に浸かりたいと思っていたので、どこかの温泉に車を置くことにした。
最初は百沢か嶽に車を置いて鰺ヶ沢往復も考えたが、今の自分にはちょいとキツい往復だ。距離もあるが、けっこうな上りもある。
迷ったあげく「つがる地球村温泉」を目指すことにした。昨年リニューアルしたばかりだが、まだ行けてなかった。ここの湯は好きな湯のひとつで、娘が小さい頃はよく一緒に訪れた。
地球村の駐車場に入ると、手前側に大きな建物がある。どうやら、これが新しい温泉のようだ。
私は、駐車場の端に車を停め、ロードを取り出した。骨折をした時に乗っていたのがMTBだったから、ロードに乗るのは10ヶ月ぶりだろうか。こんな長いブランクがあるのは、自転車を始めて初めてかもしれない。
正直なところ、ロードを乗ることに対して少し怖さもあったので、ビンディングシューズはやめて、スニーカーでのライドにした。
久しぶりにロードバイクのサドルに跨り、地球村を出発した。
復路は国道101号を走る予定なので、往路は建石から鰺ヶ沢へと向かう。鰺ヶ沢の実家へ帰る時に、車でいつも走っていた路だ。
それでもロードバイクで走ると、少し新鮮な気持ちになる。
建石を過ぎ、しばらく走ると視界の向こう側に一面の黄色が見えてきた。
(菜の花畑だ!)
弘前で薄ピンクの桜が終わる頃になると、津軽のあちこちでイエローの絨毯が現れる。とくに鰺ヶ沢の建石地区から鳴沢の山田野地区にかけては、いくつかの菜の花畑が存在し、何度か訪れたこともあった。
イエローの絨毯が近づくと、道路脇に小さな看板があった。
『⇦ 菜の花畑はコチラ』
どうやらこの奥にも菜の花畑があるらしい。私は路を左折し、岩木山を真正面に見据えながらロードを走らせた。しばらく走ると路の分岐点があり、そこにも看板は立っている。随分と親切な畑主だ。
ふと疑問に思う。
実は、菜の花畑を見に行くことには躊躇いがあったのだ。というのも、ここ数年はSNSの影響もあってか、鰺ヶ沢の菜の花畑を訪れる人が随分と増えたそうだ。
もちろん、キレイな風景を見たいという気持ちは理解できる。しかし畑の中にまで侵入して写真を撮る人が増え、畑の主が迷惑しているという話も聞かれるようになっていた。
それなのに、こんなにも懇切丁寧に看板を設置していることに疑問を抱いたのだ。
路が上り坂になった。
思いがけずプチクライムをすることになった。ビンディングではないので引き脚は使えない。私は必死に踏み込んだ。
やがて「山田野集会所」という建物が見えてきた。(そうか、この辺りが山田野か…)
岩木山南山麓に位置する山田野地区は、1900年頃に旧陸軍第八師団による演習が行われていた地で、北東北最大の演習地だったと言われている。今でも、第九号兵舎が現存している、知る人ぞ知る歴史的な史跡である。
中学1年の時、クラスに長谷川君という友人がいたが、彼は山田野出身だった。バレーボールが上手かったのを覚えている。
そういえば、鳴沢地区から中学校に来てた友達のほとんどは、長谷川か木村か神だった気がするなあ。
「山田野集会所」を過ぎると、突然、目の前に大きな黄色の絨毯と、そして多くの人間が現れた。
路の左側に「駐車場はコチラ」という看板があり、十数台の車が停まっていた。私も駐車場の片隅にロードバイクを置いた。
菜の花畑の前には小道があり、皆、その道を歩き、立ち止まってはスマホで写真を撮っている。中には本格的な三脚を立てている年輩の方もいる。
小道には、幾本かの倒れ踏まれた菜の花があった。しかし、注意書きが書かれた看板やロープがあるせいか、幸い誰もがルールを守りながら歩き写真を撮っているように見えた。
すぐそばには、小さなカフェがありソフトクリームが売られている。そういえば、数年前に娘と来たことを思い出した。たいそう美味いソフトクリームだった。
このソフトクリーム目当てに来る人もいるだろうし、畑主もこれを商売のひとつにしているのだろう。
そう考えれば、懇切丁寧な看板にも納得がいくというものだ。
(せっかくだからソフトクリーム食べようかな…)と思ったが、やめた。
地球村を出て、まだ数十分。とくに汗もかいていなかったし、喉も乾いていなかった。
いや、それよりも…
ジャージ姿にヘルメット。そんな格好にさらにマスクをして、マスクの両脇からは髭がモジャっと出ているオッさん。
たくさんの観光客の中で、明らかに浮いている変なオッさんがソフトクリームをぺろぺろしてたら、誰かのインスタグラムに投稿されるかもしれない。
山田野演習場にはいかにも似合いそうだが、菜の花畑にはどう見ても似つかわしくない。
自分自身の存在がモラルを犯しているような気分になり、私は急いでイエローの絨毯を後にした。
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