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2021-05-17

ツール・ド・ツガル / 『蓬田村の風景 ①』


 

新しい路を走るときは、どんな路であれ、いつだってドキドキする。まして、車でも一度も走ったことのない路となれば、未だ見ぬ景色を想像するだけでワクワクする。

西バイパスに車を置き、青森フェリー埠頭から国道280号線を海沿いに走る。たいして起伏もないコースだ。

本来であれば、蟹田までの往復60kmくらいは走りたいところだが、時間もあまりなかったので、のんびり蓬田までの往復40kmツーリングにした。 

 

「蓬田村」は同じ津軽にありながらほとんど縁のない場所である。

弘前を中心とした周りの市町村は、車やロードバイクでほとんど走ったし、ロングライドでは十三湖方面や龍飛、外ケ浜を走ることもあった。

しかし蓬田村は、数年前にロードバイクで津軽半島一周をしたとき、そして陸奥湾一周をしたときの二度しか訪れたことがなかった。

訪れたといっても通過しただけで、それにそのときは海沿いを走る国道ではなく、もっと山側のバイパスだった。バイパスを走ると蓬田の集落を通ることはない。

今回は目的地を蓬田としたので、海沿いの国道を走ることにした。

 

フェリー埠頭を後にし、少し走ると油川という町に出る。油川は、青森市街からは完全に離れているが全く田舎というわけでもなく、かといって街というほどでもなく、微妙な賑わいを見せる。

ひたすらまっすぐな一本道の国道であるが、大きくゆっくりと弧を描きながら、路は陸奥湾沿いに北へ向かい始めた。

たまに海の方に目をやると、海の岸壁沿いにも小さな路が走っている。おそらく車も走らないだろうし、陸奥湾を見ながらのライドは気持ちよさそうだ。

しかし、初めての路は、やはり街並みがあるところを走る方が良い。その町独特の雰囲気というものを感じることができるし、面白い発見もあったりする。

海を見ながらは、気持ちがいいのは確かだが、延々続くとそれもまた飽きるというものだ。

 

油川、その後、奥内という地区を過ぎると後潟集落に入る。

青森は海の街だからか、「氵(さんずい)」のつく町が多い。浪館、浪打、合浦、沖館、港町、今走ってきた油川、そして後潟、etc…

 

右手に、いきなりスゴい松の木が現れた。

青森市の天然記念物に指定されている「黒松」である。これほど幹の太い松の木は初めて見た。

まるで青森のねぶたのようでもあり、何かの怪獣のようにも見える。

 

 

別名「昇龍の松」と言われるこの「黒松」は、今にも動き出しそうだった。

これだから旧道を走るのはオモシロい。

 

漁港の方に木板でできた大きな倉庫が見える。おそらく漁師小屋なのだろうが、いくつもの小屋が連なって大きな建物のようになっていた。

私は国道から小道に入り、小屋の方まで行ってみた。

 

木造の大きな漁師小屋が並ぶ

 

 

増殖しているかのような浮き玉

 

岸壁にはいくつもの浮き玉があった。

数十個、いや百個以上もあろうかという、いろんな色の浮き玉が、積み上げられている。それはもはや浮き玉ではなく、なにか得体の知れない物体に見えた。

久しぶりにX100Fをメッセンジャーバッグに入れて走っていた。iphoneでも十分きれいに写るが、やはりカメラのファインダーから覗く景色は別のモノとなる。

 

 

 

フェリー埠頭を発って1時間ほど。蓬田村の標識が見えてきた。

280号線を走ってきて、あることに気づいた。これまで青森県内のいろんなところを走り、どの路にも無かったことである。

それは、フェリー埠頭を発ってから蓬田集落に着くまでの間、一度も集落が途切れなかったこと。正確に言えば、道路の両脇に常に建物が建っているのだ。

もちろん田舎なので、個々の住宅と住宅の間は少し離れていたり、大きな庭があったりするのだが、決して途切れないのである。

津軽のいろんなところを走れば、集落と集落の間は、田んぼになったり、リンゴ畑になったり、何もない海辺になったり、と、住宅や建物がない場所を必ずと言っていいほど走る。

しかしこの路は、一度も建物が途切れることがないのだ。こんな光景は初めてだった。

おそらく、青森市まで数十分でいける距離が故に、田舎とはいえ人が町から離れることがなかったのだろう。昨今では青森市のベッドタウンとして住んでいる人もいるかもしれない。実際バイパスの方には、そういった新しい住宅もできているようだ。

 

そしてもうひとつ。かなり年月の経った古い木造住宅が多く点在していることだ。

これも上の理由と同じように、人が離れなかったために、古い住宅にそのまま人が住んでいるのだろう。山間にも古い建物はたくさん見ることはあるけれど、やはり人がいなくなればそれは自然と朽ち果ててしまう。

また山間の建物と違い、海沿いの古い木造住宅は何か不思議な雰囲気がある。

雪が多いのは山間と変わらないと思うのだが、海風を防ぐためか屋根が低かったりして、どことなく洋風に見える。庭に花が咲いていたりすると、大正時代の瀟洒な建物にも見えたりする。

初めて走る路での高揚した気持ちが、そう感じさせているのかもしれない。

 

なんとも不思議な作りの建物。材木屋のようだ。

 

 

蓬田村役場を過ぎると、漁港が見えた。磯の匂い。

海の町で生まれ育った自分は、この磯の匂いが好きだ。海の香りではない。磯くささと言ってもいいだろうか。

その磯くささにつられて、私はロードバイクを右に切った。

 

(長くなったので、次回へ続く)

 

 

 

 


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