天にいちばん近いところで、手作り弁当を食う 〜 雲が美しい岩木山登山 〜
数年前までは、この69のカーブを駈け上がるヒルクライムレースに参戦していた。
参戦とは、ちょっとカッコつけすぎか。参加というのが実力にあった言い方かもしれない。
それにしても、この延々と上りが続く激坂をロードバイクでひたすら上り続けるというのは、我ながら正気の沙汰ではない。最近、愛車となった軽自動車も唸りを上げている。
天気予報では晴れの予報だったが、空全体に薄く雲がかかっている。しかし、かなりの高さにあるらしく、岩木山の頂はくっきりと姿を現していた。
先週の十和田湖一周に続き、この日は岩木山一周の追悼ライドを考えていた。しかし、土曜日の今日は娘が休みだ。娘をほっぽり出してツーリングというのも申し訳ない。
(そうだ、久しぶりに岩木山に登ろう)
私はまだ布団にくるまっている娘を叩き起こし、叫んだ。
「岩木山に行くぞ!」
彼女の本心としては、私がどっかにツーリングに出かけてくれた方がいいのだ。自宅で自由気ままにiPad三昧できるから。案の定、半分ふてくされた表情で後部座席で目をつぶっていた。
しかし、妻が旅立ってからは、明らかに自宅に引きこもることが多くなったし、二人で遠出したこともなかった。

八合目より頂上を望む。
69のカーブを上りきると、八合目の駐車場は車で溢れていた。
じつはスカイラインのゲートで20分ほど待たされた。紅葉を満喫できるこの時期、考えることは誰もが同じだ。コロナ禍であっても、山に登るというのは罪の意識は薄い。
面倒くさそうに車から降りた娘はカーブに酔ったらしく、さらに機嫌は悪くなっていた。
数年前に二人で登った時は、リフトを使わずに登ったが、「今は絶対、無理!無理!」と彼女が言ったのでリフトを使うことにした。正直、自分でもあまり自信はなかったのだ。
岩木山神社や弥生から自分の脚だけで登る人たちにとって、八合目からリフトを使って登るのは、登山のうちに入らないだろう。
しかし、今日はそんなことはどうでもいいのだ。
娘と二人で頂上まで登って、そこで昼飯が食えれば、それでいいのだ。
空全体に雲が流れているが、遥か高いところにあるせいか、リフトからでも津軽半島は権現崎の端までくっきりと見え、その向こうには北海道の山並みを望むことができる。
生まれ故郷の鯵ヶ沢の町も見える。小さい頃は、毎日のようにあちらからこの山を見ていた。冬休みの宿題では、必ずこの山を描いていた。
リフトを降りると、そこにも多くの人がいた。本格的な登山スタイルをしている人もいれば、軽装の人もいる。
私たち二人も決して、登山スタイルとは言えない。が、少し気分を上げるために私は70年代の古い「L.L.Bean」のマウンテンパーカを羽織った。マウンパといえばシェラが有名だが、昔の「L.L.Bean」は裾が広めで、バランスが好きなのだ。実は4枚も持っている。
娘は、冬の通学で着ていたノースフェイスのマウンパにしようと思ったが、ちょいとヘビー過ぎる。
2年前に、妻が買ってくれた「マークジェイコブスキッズ」のフラワープリントのアウターを着せた。少し小さくなったけど、ガリ子の娘はまだ着れる。

急な岩場を登るガリ子。
岩木山の登山は、「過酷」というイメージはないが、急峻な岩場もそれなりにある。油断は禁物だ。大きな岩に手をつきながら、私たちは無理せずにゆっくりと登った。
ところどころにある、少しだけ広くなったところで休憩をとる。娘のリュックに入れてあった冷たいお茶をかわりばんこに飲む。私のウェストバックには昼飯が入っていた。
鳳鳴ヒュッテを過ぎると、足場は険しくなり、勾配もきつくなる。
さらに20分ほど、ひたすら登り続けると、やがて視界が開けた。

鯵ヶ沢から津軽半島。そして北海道を望む。

弘前の街。遥か向こうに八甲田連峰。

南側には白神山地。

復路の安全を祈願。

生まれ故郷をバックに。雲が美しい。娘撮影。
頂から、360度。ぐるっと見渡す。
津軽の中心にあるこの山は、まさにパノラマで津軽一円を実感することができる。
「なんか、すげ~楽しい!」
八合目ではご機嫌斜めだった娘も、素晴らしい風景と登りきった達成感に、充実した表情をしていた。
「よし!昼飯食おう!」
私たちは、弘前の街並みが見える場所に座った。私のウェストバッグからおにぎりの入った袋と、おかずの入った弁当箱を取り出した。
朝、娘を叩き起こした後に、一緒に弁当を作った。
筋子が入ったおにぎりを3個。醤油をたらした卵焼きと、ソーセージを焼いたヤツ。どれも簡単なもので、おにぎりと卵焼きは形がいびつだ。

いびつなお弁当。食べかけ、すいません。
「んん~ん!美味しい~!」と娘が言った。
たいした味ではないのは、食べている自分でもよくわかる。でも、自分の脚で登った後の昼飯は、美味いのだ。
3個のおにぎりを1個半ずつ食べて、卵焼きとソーセージもあっという間にたいらげた。
昼飯を食べた後、二人はしばらくの間、頂上にいた。
津軽でもっとも天に近い場所にいた。
私たちは、頂上にあるシンボルの鐘を大きく鳴らした。
そして美しい雲が流れる天に向かって、手を併せた。
コメントを残す