弘前市民会館大ホールにて 500年前の曲を歌う
11月最初の日曜日、久しぶりのステージに立った。
昨年12月、アンサンブルコンテストで歌って以来のステージだった。
しかも、自分が好きな会場のひとつ『弘前市民会館』の大ホール。大学の時から歌っていたステージなので、身体も心も慣れ親しんでいるというのもあるが、やはりこのホールの響き、ステージに立ったときの視界の広さ、会場内のシンプルな動線。
設計者である前川國男が、どの程度演奏者のことを考慮して設計したのかは知る由も無いが、この建物が持つモダニズムは勿論のこと、演者にとっても素晴らしい建築と言える。
コロナ禍にあって、この1年半は多くの演奏会が中止に追い込まれた。特に大きな声を発する「声楽・合唱」は、ほとんどの発表の場を失うこととなった。
今回は、そんな多くの、歌うことを楽しみにしていた人、聴くとこを楽しみにしていた人にとって、待ちに待った演奏会となっただろう。
「青森県合唱祭」と「弘前市合唱祭」を兼ねた今回の演奏会。ちょうど『菊と紅葉まつり』も弘前公園で開催されているとあって、園内は随分と賑わっていた。
この日のステージは、昨年のアンサンブルコンテスト同様、『Apio』の一員としてステージに立った。
妻が亡くなってから、練習も4ヶ月ほど休んでいた。が、リーダーの大輔くんより「今回、参加メンバーとして申し込んでいるので、よろしく」とメッセージ。後輩とはいえ、リーダーの言葉は重い。
演奏する曲は、ともにルネサンス期の曲で、カルロ・ジェズアルド(1566〜1613)の『Ave dulcissima Maria』とジョスカン・デ・プレ(1450?〜1521)の『Scaramella』の2曲。
どちらも、およそ400〜500年ほども前の曲である。日本では室町から江戸にかけての頃だろうか。その時代の歌が現代でも歌い継がれているというのは、純粋に凄いと思う。
私たちの演奏のふたつ前に、弘前第一中学校の演奏があった。
わずが6人による合唱。和徳小合唱部で指導していたときの生徒が3人ほどいた。
小学校のときの仲間が歌うとあって、今日は娘も連れてきた。彼女は合唱部には入部しなかったが、今でも仲は良いらしい。どんな思いで聴いていたのだろう。
彼らの若々しい歌声にエネルギーをもらって、私はステージの袖に向かった。
9人が半円を描いて並ぶ。自分が中央に立つ。
久しぶりのステージだったが、コンクールとは違いガチガチの緊張感はない。大輔くんの合図でジェズアルドの曲が始まった。
落ち着いて、楽しんで歌おう。そう思ったが、歌い始めるとアドレナリンが分泌され勝手にテンションが上がる。
まあ、本番はいつもそうだ。
ルネサンス期の曲といえば厳かな宗教曲が多い。
1曲目のジェズアルドも荘厳で美しい曲だ。深いブレスと正確なピッチが要求される。
それに対し、ジョスカンの曲は(これがルネサンス?)と思えるほどのノリのある曲だ。
気の合う仲間が、酒を飲み交わし、楽器を叩きながら声高らかに歌う、という感じ。酒飲みの自分には、こっちの方が合っているかもしれない(笑)
大輔くんの鳴り物に合わせて、気持ち良く歌えたステージだった。
帰り際、娘と娘の友だちと一緒に赤ドアの前で写真を撮った。
今日は使わなかった赤ドアだけど、市民会館に来るとなんとなくいつも気になる赤ドア。
紅葉している木々が、美しいコンクリートの壁にシルエットを描いていた。
やはりまた、ここで歌いたいな…と思わせる場所だった。
* 本日の演奏です。ベースは聴こえにくいので(悲)、ぜひイヤホンでお聴きください。
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